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<New>災害時義歯の作製法についてのCDの無償提供を開始しました。数に限りがありますので,なくなり次第終了と致します。ご希望の方は,下記のお問い合わせ先までメールにてご連絡下さい。


製作手順ビデオ


















災害時における地域歯科診療活動の概念について


大規模災害時においては発災の時間帯や規模により大勢の方が被災され、その被災された方の中には義歯を紛失される方、著しい環境の変化により咀嚼に困難をきたす方が大勢現れることが報告されている。
大規模災害時の歯科的治療の要点としては、
1)災害の種類に適した救援内容の早期決定
2)上記内容を時間経過に従って、再評価しつつ救援内容を更新すること
3)各救援内容別に、被災時診療の手順を確立しておくこと          
などが必要と考えられる。
特に上記の救援内容については、被災地以外からの外部の救援に関する理念の形成ならびに、被災地の地元医療機関としての歯科的救援治療に関する理念の形成が必要と考えられる。基本的に、長期あるいは永続性のある歯科的治療に関しては地元の医療機関の手にゆだねるべきものであり、この地元医療機関の復旧ならびに復興のプロセスをこれらの理念に含めておく必要がある。これらの理念については、災害時でなく平常時の地域医療機関や歯科医師会等の組織において十分な検討を常に行う姿勢が重要であると考えられる。
本CDは、これらの理念の重要性とは別に上記3)に掲げた被災時診療の手順についてのマニュアルあるいは実施ガイドといった観点から作成を行ったものである。このような治療手順の確立には、必要とされる物資の確保、供給にいたるまで想定に入れて作成することが必要と考えられる。
さらには、被災地に基幹病院施設が存在する地域における災害時歯科医療と、存在しない地域における災害時歯科医療とはその特徴には当然違いがあると考えられる。もちろん、それらの医療機関そのものがどのような被災を被るかによってもその後のプランは異なるものであることは言うまでもない。それぞれの担うべき役割についても、被災の種類ならびにレベルを種々具体的に想定してそれらの組織で平常時に検討を進めておく必要がある。
本CDで対象とする災害時義歯製作については、災害時歯科医療における一つのツールとしての単なる製作手順を示すものである。これは被災初期に迅速かつ多数の被災者に対して供給可能な一つの手順であり、一つ一つの治療についてはこのような単純化された提示としかなり得ない。しかしこのような具体的な処置でさえ実施方法によっては、地域患者が長期管理を受けるべき本来の「かかりつけ歯科医」への受療動機の多寡にも影響をあたえるものと考えられ、その救援の背景となる理念を各地域において災害規模別に形成しておくことの重要性が認識されるべきと考えられる。
早期に各地域においてこのような理念形成の活動が進むことを願う。
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 咬合・有床義歯補綴学分野
岡山県歯科医師会

災害時の義歯製作手順

1)事前準備 : 暫間義歯製作に際しては、被災地に入る前に事前準備を行う。被災地では、直ちに大量の人工歯が準備できる保証はないため、既存の総義歯人工歯部の印象採得を行い、硬化後、印象面に低稠度に練和された常温重合型レジンを気泡の混入に気をつけながら流し込み硬化させ上顎6前歯、下顎6前歯をそれぞれ一塊として製作する。同様にして上顎臼歯も製作する。臼歯部人工歯については、4臼歯が一体化しているシェル臼歯を使用してもよい。臼歯部人工歯は、咬頭を削合し0°臼歯として用いた。臼歯は審美的要件を求められないため、3臼歯を一体とした人工歯ユニットも様々な大きさの義歯床に対応でき便利である。
2)印象採得・作業用模型製作 : 既製網トレーを患者の口腔内に試適して適合を確認した後、アルジネート印象材を用いて印象採得を行う。印象面には速硬性の印象用石膏を注入して作業用模型を製作する。
3)基礎床の製作 : 作業用模型に分離剤を塗布した後、トレー用レジンを用いて基礎床を製作する。この基礎床は、災害時において効率的に短時間で義歯を製作するため、完成義歯の義歯床としてそのまま用いる。
暫間義歯は最終的に粘膜面にティッシュコンディショナーを適用するため、基礎床の床縁の位置は本来の義歯の床縁よりもやや短めに設定し、トレー用レジン硬化前に床縁形態が鋭縁とならないように指の腹で形を整え丸みをつけておくことで硬化後の研磨の手間を省くようにする。
4)上顎前歯部人工歯排列 : 人工歯排列は、すべて直接口腔内において行う。順序は、①上顎前歯部→②上顎臼歯部→③下顎臼歯部→ ④下顎前歯部の順で排列し固定する。製作した基礎床を口腔内に試適し適合を確認した後、前もって製作しておいた上顎6前歯を持ち上口唇の豊隆度を調節しながら審美的に適した固定をする。固定は常温重合型レジンを用いて筆積み法により行う。
5)上顎臼歯部人工歯排列 : 上顎臼歯の頰舌的位置は、可能な限り歯槽頂間線上とする。さらに、頰側から上顎臼歯人工歯ユニットの咬合面がカンペル平面に平行になることを確認して常温重合型レジンを用いて位置止めする。人工歯の位置決めが難しい場合には、予めユーティリティーワックスを用いて仮止めした後に常温重合型レジンにより固定する。
6)下顎臼歯部人工歯排列 :上顎臼歯咬合面にワセリンを塗布する。その後、下顎基礎床上に餅状に練和した常温重合型レジンを左右同時において患者にタッピングさせながら硬化を待つ。硬化後に、レジン上に印記された上顎臼歯の圧痕を基準として、フィッシャーバーなどを用いて咬合面形態を付与する。切削と形態修正にやや時間を有するが適切な顎位を得やすい方法であるため、暫間義歯製作に慣れるまでは有用な方法であると考えられる。
7)下顎前歯部人工歯排列 : 最後に下顎前歯部人工歯の排列を行う。口腔内に上下顎基礎床を挿入し、そのまま筆積みにて常温重合型レジンを下顎前歯部相当部の基礎床と下顎前歯人工歯との間に盛り、レジンが柔らかいうちに、口唇と舌をリラックスさせて、口唇圧と舌圧の中立の位置に前歯が移動するように指で軽く支えて、その位置でレジンの硬化を待つ。この時、切端が少し長めになるように位置させる。
硬化後、口腔外にて完全に固定を行い、その後、前歯部の垂直被蓋がおおむね1mm となるように切端を削除する。
8)研磨面の形成 : すべての人工歯の固定を終えた義歯を口腔外に取り出し、常温重合型レジンを用いて研磨面形態の形成を行う。はじめに、基礎床と人工歯の間隙を常温重合型レジンにより筆積み等で埋めることで後の作業にてレジンが裏側まで流れ出ないようにする。本義歯はすべて常温重合型レジンで製作するため、義歯の表面の機械的研磨を最低限で済ませられることを目的として、義歯研磨面の形成は粉液比を小さくして非常に柔らかく(トロトロの状態に)混和したレジンを流すことによって行う。
 基礎床と人工歯部を十分乾燥させた後に混和したレジンをまず左側臼歯部頬側研磨面に流し、表面張力を 利用して最終的な研磨面形態が得られるよう豊隆を調整する。レジンの稠度、量および義歯の傾け方が重要である。その後、右側臼歯部頬側研磨面、前歯部唇側研磨面、左側臼歯部口蓋側(舌側)研磨面、右側臼歯部口蓋側(舌側)研磨面、前歯部口蓋側(舌側)研磨面の順に、各1面ずつ研磨面にレジンを流して形成する。
 常温重合レジンの稠度を容易に流れる程度の粉液比で練和することによって、硬化後の研磨面の形態修正がほとんど不要になるため、仕上げ研磨の時間を大幅に短縮することが可能となる。
9)粘膜面の調整 : 粘膜面については、ティッシュコンディショナーや軟性裏装材を適用することによって適合を得るとともに装着直後から歯科医療施設の復旧までの間の疼痛を回避する。このように一般的なティッシュコンディショナーを用いる場合には、表面滑沢材を塗布することによって、被災地においてもより長期間の安定した使用が期待できる。
ティッシュコンディショナーの適用は必ず上顎から行い、咬合させておく。これはティッシュコンディショナーの厚みによる義歯床の位置のズレを最小限にとどめるために必要な順序である。上顎には軟らかめに練和したティッシュコンディショナーを用いる。続いて、下顎にはやや粉液比を硬めに練和しティッシュコンディショナーを義歯床粘膜面に盛りつけ口腔内に挿入して軽くタッピングさせ、硬化後に余剰分をトリミングする。
10)咬合調整 : 基本的には咬合調整はあまり必要としない。最低限、通常の臼摩運動の範囲程度で、特に強く滑走干渉する部分が臼歯にあれば削合する。前歯部人工歯は通常の臼摩運動の範囲では側方運動時、前方運動時にかかわらず咬合接触しないことを確認する。ただし、食物の咬断のために大きく下顎前方位をとった場合には、上下顎の前歯が咬合接触することを確認する。このような調整は、咀嚼効率は劣るものの一定期間の使用のみを目的とする暫間義歯の、疼痛の発現を最小限にすることを期するものである。

    (黒住明正、皆木省吾)