「光学活性昆虫フェロモンの合成研究」
フェロモン研究に果たす有機合成の役割を以下にあげてみました。
1)構造の決定および確認;フェロモンは天然から単離されるフェロモンは微量であり、絶対配置を含めた構造の決定が困難な場合が多い。
2)資料供給;野外試験などのためには大量のサンプルが必要である。また、実用化、工業化のためには効率よい合成法の開発がのぞまれる。
3)アナログの開発;天然物合成の経路を確定すれば、種々のアナログ合成に適用できる。[1]ヤシゾウムシ類の集合フェロモン
[2]カイガンマツカイガラムシの性フェロモン
ヤシゾウムシはココナッツやヤシ油の生産に必要なヤシの樹幹を傷つける害虫であり、ヤシ林の維持に重大な脅威となっている。ヤシにとりついたゾウムシは集合フェロモンを放出して仲間を呼び寄せるから、この構造を解明すれば人工合成フェロモンを用いてゾウムシの挙動をコントロールできるわけです。そんなわけでこの構造研究は世界中で競争状態にあり、いちはやく平面構造を決定したフランス農務省のグループから、立体構造解明のための合成研究の依頼が来ました。
カイガンマツカイガラムシ(Matsucoccus feytaudi)も海岸のある種の松の害虫です。その性フェロモン主成分の改良合成研究を行いました。これも酵素触媒不斉アセチル化反応を鍵段階としました。
合成品と天然物をガスクロマトグラフィーで比較することにより、他のグループに先駆けて正しい絶対構造を決定することができました。
4. "Synthesis of the Enantiomers of syn-4-Methyl-5-nonanol to Determine the Absolute Configuraion of the Naturally Occuring (4S,5S) Isomer Isolated as the Male-produced Pheromone Compound of Rhynchophorus vulneratus and Metamasius hemipterus"
K. Mori, H. Kiyota, C. Malosse and D. Rochat, Liebigs Annalen der Chemie, 1993, 1201-1204 (1993).3. "Synthesis of the Stereoisomers of 3-Methyl-4-octanol to Determine the Absolute Configuration of the Naturally Occuring (3S,4S)-Isomer Isolated as the Male-produced Aggregation Pheromone of the African Plam Weevil, Rhynchophorus phoenicis"
K. Mori, H. Kiyota and D. Rochat, Liebigs Annalen der Chemie, 1993, 865-870 (1993).
8. "A New Synthesis of (3S,7R,8E,10E)-3,7,9-Trimethyl-8,10-dodecadien-6-one, the Major Component of the Sex Pheromone of the Maritime Pine Scale"
K. Mori, T. Furuuchi and H. Kiyota, Liebigs Annalen der Chemie, 1994, 971-974 (1994).
[3]キクイムシ類の集合フェロモン
キクイムシもヤシゾウムシと同様に木の樹幹を食い荒らし、特にそれによる松枯れは大きな環境問題になっています。そのためキクイムシの集合フェロモンに関する構造研究、合成研究は盛んに行われています。ここでは、western pine beetle、southern pine beetle、mountain pine beetleなどがフェロモン構成成分として共通に用いているendo-(+)-ブレビコミンについて、その改良合成研究を行いました。酵素触媒不斉アセチル化反応を鍵段階としました。
また、前任者の合成品の物性値についてドイツのグループからクレームがついていましたが、それについても解決を与えました。
2. "A New Synthesis of (3S, 4R)-8-Nonene-3,4-diol, the Key Intermediate for the Synthesis of (+)-endo-Brevicomin"
K. Mori and H. Kiyota, Liebigs Annalen der Chemie, 1992, 989-992 (1992).
[4]寄生スズメバチの性フェロモン
スズメバチの一種である Macrocentrus grandii は北米のトウモロコシの害虫であるEuropean corn borerの幼生に寄生する捕食寄生者である。北米では1926年からこのコーンボーラーの発生を制御するために、天敵であるこのハチを利用している。このハチの挙動を制御するためにフェロモン研究が始まったのは最近のことですが、性フェロモン構成成分としてデルタラクトンの相対構造が提出されました。私はその絶対構造を決定するため、合成研究に着手しました。残念ながら合成開始1週間後に、単離したグループによって絶対構造が決定されてしまいました。しかし私はそれまでに例の無かった4置換オレフィンのヨードラクトン化反応を鍵段階とした、改良合成法の開発に成功しました。
6. "Synthesis of (2S,4R,5S)-2,4,6-Trimethyl-5-heptanolide, a Sex Pheromone Component for Macrocentrus grandii"
H. Kiyota and K. Mori, Biosci. Biotech. Biochem., 58(6), 1120-1122 (1994).
[5]アクロバットアリの警報フェロモン 古藤田信博博士
Crematogaster属アリの警報フェロモンの改良合成に成功しました。