正月

 

幼い子供の心にも

除夜の鐘は厳かに響いた

コタツに入って親に寄り添い

時計の針がその時を指し示すのを

固唾を呑んで見守った

一年を振り返ってみると

家の中でも学校でも

したかったことするべきことができなかった自分が降り積もっていた

しかし不思議な鐘の音は

それらをすべて帳消しにしてくれた

そして年が明けると

僕らはすっかり新しくなって生き始めることができた

足元には真っ白な白線が引きなおされ

空は無条件にどこまでも晴れ渡っていた

僕らはどんなゴールでも思い浮かべることができた

一人ひとり思い浮かべるゴールは違っても

どんなゴールにでも到達できる無限の可能性があることは明らかだった

僕らがその背に負うのは純白の羽だけで

陽気で朗らかなピストルの音ともに

僕らはいっせいに飛び立った

 

あれからどれくらい時がたっただろう

いつの間にか大晦日と正月は

長い旅路を行く人々が束の間歩みを止めて休息を取る

旅籠になっていた

旅籠はすべての人に開かれていたが

旅籠に至る道は人によって異なり

旅籠から伸びる道も人によって異なる

形や重さは様々であるが

誰も彼も荷を負っており

旅籠に着いて荷を降ろしても

発つときそれを置いてゆくことは許されなかった

道はここからまた上りに差し掛かる

峠を越えて

また次の旅籠で会えることを祈りながら

ある者は嘆息し ある者は意気揚々と

人々は荷を担ぎなおして旅籠を後にする

                                                   (2005年1月)