2011/4/5追記:

その後の計算により、下記の検討では考慮できていなかった長期的影響を含んだ考察を行っています。

こちらをご覧ください。

 ↓

放射線量変化モデルによる、積算放射線被曝量の推定と放射線源の推定

 

2011/3/30

岡山大学大学院保健学研究科 助教 北脇知己

放射線量変化モデルの考察 2

福島第一原子力発電所事故による環境放射能の変化を、数理モデルに適用して考察する。

1:数理モデル(第1報と同じ)

(1)          元にした数理モデル

New Physiological Model of Serum Creatine Phosphokinase Activity in Acute Myocardial Infarction. (Conf Proc IEEE Eng Med Biol Soc. 2007;2007:912-5.)

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18002105

(参考:上記論文の前半部分を日本語訳したものをPDFファイルでアップロード)

(2)          モデルの読み替え

元の数理モデルでは、急性心筋梗塞患者の血液中CPK(酵素)活性の変化をモデル化しており、I 梗塞に陥った心筋から血液中への酵素流入、II 酵素の失活に加えて、III ベースライン酵素活性を考慮して微分方程式を構築し、Iの酵素流入についてシグモイド関数を利用した解析関数で表現すると、微分方程式の解析解が得られて、血液中の酵素活性を解析関数で表現できることが特徴。

このモデルを、I ある地点への放射性物質の流入、II 放射線物質の崩壊による放射線の現象(放射性物質の拡散の影響も含まれる)、III ベースライン放射線量と読み替えて、数理モデルを適用する。

(3)          基礎方程式

・微分方程式

··························· (1)

E(t):放射線量

f(t) :放射性物質 発生関数(appearance function

B :ベースライン放射線変化量

kd :減衰係数

・モデル関数

················· (4)

T:放射性物質平均飛来時間

K:放射性物質飛来のばらつき

b=B/kd :ベースライン放射線量

E(t)に、この解析式を用いると、(1)式の解析解は次のように表せる。

·················· (5)

・モデル拡張

f(t)が独立と考えられるほど時間的に離れているならば、式(4)は、複数の飛来関数の和で表現できると考えられる。

·········· (4)

 

2:解析

(1)  宮城県での空間放射線線量率

http://www.pref.miyagi.jp/gentai/Press/PressH230315.html

から、仙台、名取、大河原、亘理の4カ所を対象とする。以下、計算結果グラフを示す。

  

結果グラフの見方:

・横軸は基準時間(3/13 0:00)からの経過時間。

が実際の計測値、灰線はこの計測値変化をモデルで表現した時間変化(Log軸で表示)

結果からいえること:

・放射性物質の飛来は3/15頃に一過性に現れている。

・この平均飛来時刻は、仙台3/15 1:00AM、名取 3/15 2:00PM、大河原3/15 7:30 PM、亘理 3/15 8:51 PM と距離に関係していない。

・仙台3/25 5:12 、名取3/24 17:41では、2度目の放射性物質が飛来しているようだ。

・放射線量の半減期(パラメータkdから計算)は、仙台5.23日、名取 4.38日、大河原6.03日、亘理 5.79日と、I131の半減期よりも減衰が速い

これは、放射性物質の崩壊だけではなく、放射性物質の拡散の影響も含んでいるためだろうか

 

(2)  福島県での環境放射線量測定値

http://www.pref.fukushima.jp/j/

から、福島、飯舘、いわきの3カ所を対象とする。以下、計算結果グラフを示す。

(生計測データはソウル大学 谷田先生からご提供いただいた。)

(i) 福島、飯舘について

 

結果グラフの見方:

・横軸は基準時間(3/13 0:00)からの経過時間。

が実際の計測値、灰線はこの計測値変化をモデルで表現した時間変化(Log軸で表示)

結果からいえること:

・宮城県同様、放射性物質の飛来は3/15頃に一過性に現れている。それ以降の飛来は、ない模様。

・この平均飛来時刻は、福島3/15 16:32、飯舘 3/15 15:35 とほぼ同時期。

・放射線量の半減期(パラメータkdから計算)は、福島5.87日、飯舘7.19日と、飯舘の場合はI131の半減期に近い

 宮城の結果とも併せて考えると、空間放射線線量率の減衰は、放射性物質の崩壊に加えて、放射性物質の拡散(土壌への?)効果を考慮した減衰率となるようだ。

(ii)いわき市について

 

   全体と部分拡大図

結果からいえること:

・宮城県、福島県の他の地域とは異なり、放射性物質が繰り返し飛来している。

 大きなピークは4度あり、それぞれ平均飛来時間は、3/15 1:523/16 2:243/16 10:443/21 10:30

・このピークは他の地域とは異なり、2つの指数関数の和(double exponential)型となっている。

 それぞれの指数関数のパラメータkdから放射線量の半減期を計算すると、短い方の半減期1.54h、長い方4.78日。

 これは、これまでの考察から長い方の減衰は(拡散効果を考慮して)I131と考えられる。短い方の半減期は、I132だろうか?

・いわき市は、空間放射線線量がそれほど高くないが、なんども放射性物質が飛来している。

 また、十分に崩壊していない放射線が計測されていることから、短い時間で到達していることが、推定される。

 

(3)  福島県浪江町付近飯舘村付近('11/3/31訂正)のモニタリングカーによる空間線量率の測定結果

http://www.mext.go.jp/a_menu/saigaijohou/syousai/1304001.htm

から、浪江町付近飯舘村内('11/3/31訂正)で高い空間線量率が計測された3132、の2カ所を対象とする。以下、計算結果グラフを示す。

結果からいえること:

・福島県のデータと同様、放射性物質の飛来は3/15頃に一過性に現れている。それ以降の飛来は、ない模様。

・この平均飛来時刻は、"31"  3/16 6:06 PM"32"  3/16 7:48 PM とほぼ同時期であるが、飯舘村3/15 15:35 よりもだいぶ遅い。

 計測を開始したのが遅かったためか、この地点の地形によるものかは不明。

・放射線量の半減期(パラメータkdから計算)は、"31"  7.24日、"32"  5.52日と、I131の半減期(8)とは場所によっては違いがある

 これまでの結果から、空間放射線線量率の減衰は、放射性物質の崩壊に加えて、測定場所ごとの放射性物質の拡散効果を考慮すればよいと思われる。

(4)  福島飯舘村付近の環境資料中の測定結果

文部科学省が提供している、環境試料中の測定結果から2-1地点(飯館村)の池水と、土壌モニタリングデータを対象とした。

(i) 池の水

結果からいえること:

・飯館村の空中放射線量のデータと同様、放射性物質量はほぼ指数関数的に減少しており、最初の飛来のみが影響していると考えられる。

・池の水という安定した環境では、I131Cs137ともサンプリングによるばらつき(誤差)は小さいと思われるがそれでも、Cs137のばらつきは大きい。

・放射性物質量の半減期(パラメータkdから計算)は、I131 6.01日、Cs137 4.98日と、Cs137でも減少している

 これは池の中で放射性物質量の拡散効果が現れているのかどうか、水中の拡散常数などと比較して検討することが必要。

(i) 土壌モニタ

(縦軸の単位を修正:'11/03/31)

結果からいえること:

I131は池の水と同様、放射性物質量がほぼ指数関数的に減少しているが、Cs137はそれほど減少していない。

土壌からのサンプリングではI131Cs137ともサンプリングによるばらつき(誤差)はかなり大きい

・放射性物質量の半減期(パラメータkdから計算)は、I131 4.81日、Cs137 9.38日と、Cs137では減少率が小さくI131は減少率が大きい。

 土壌サンプルでは大きなばらつきを考慮できる程度にサンプル数を増やして検討することが必要

 

3:所見

・データをみると宮城・福島(福島市、飯舘村方面)では、最初に降った放射性物質が徐々に減っていっていると考えられる。

・一方で、いわき市のように量は少ないものの、何度も飛来している場所もある。

 ただし、半減期の短い放射線も観測されていることから、発生地点で爆発などの突発的な事象が起こったときに、風向きによって飛来先が変わると考えてよいだろう。

 今後の空間放射線量を注意深く見守る必要がある。

・池の水や土壌などの環境試料では、毎回計測対象が異なるためサンプリングによる計測ばらつきが大変大きい。

 このため、核種ごとの比率などの検討は今回のデータでは困難であった。

 (本来であれば、Cs137の変化はごく小さいはずであるが、ばらつきが大きくて増加傾向とも減少傾向とも言えない。)