平成14年度8020研究事業
歯周病診断のための歯周病原性細菌に対する血清抗体価と歯周組織検査に関するデータベースの構築と公開利用に関する研究
財団法人8020推進財団

研究目的

歯の喪失の原因として,一番最初に挙げられるのは歯周病である。歯周病罹患状態を把握するためにレントゲン撮影や口腔内診査を行うことは,少数を対象とする際には適している。しかし,地域や企業での検診など,多数を対象に潜在患者をスクリーニングするためには,被験者の負担が大きいこと,必要な時間・施設・器材などの点で,実施に困難がある。このような多数を対象にスクリーニングするための簡便な検査がぜひ必要である。
感染症である歯周病は,歯周病原性細菌に対する血清抗体価を測定することで,感染の程度を窺い知ることができる。岡山大学歯学部附属病院第2保存科で蓄積してきた,血清抗体価の測定結果と歯周組織検査の関係を解析し,歯周病罹患の程度を簡便に調べることが可能なデータベースを構築すること,さらに歯周治療による細菌感染の低減効果をモニタリングが可能となるシステムを構築し,www siteで公開することで,この歯周病感染モニタリングシステムを広報し,一般からの利用を促進することを目標とした。

研究組織

ELISA法による歯周病原性細菌に対する血清抗体価測定方法の検証

血清抗体価を測定する方法としてEnzyme-Linked Immunosorbent Assay (ELISA)が,臨床検査では使われる。たとえばB型肝炎ウイルスの感染状況,ワクチンに対する反応を知るため,HBs抗原に対する抗体価を測定している。
この方法を,歯周病という感染症に当てはめるのは,実は困難である。歯周病は一様な感染症ではない。有力な歯周病原性細菌,Porphylomonas gingivalis, Actinobacillus actinomycetemcomitansがピックアップされてきてはいるが,全ての歯周病がらの菌の感染によって引き起こされていると言い切ることはできない。Linde曰く

歯周疾患は経時的に変化するさまざまな細菌の組み合わせによって生ずる動的な感染症である。罹患患者ごとに,また時間経過によっても変化を続けている。
ということである。
この複数の細菌が関わり,微小細菌叢が変動し続けている感染症の感染罹患状況を調べるためには,抗体価を調べる細菌種,抗原とする物質,経時的変化・他の集団との比較を行うための抗体価の規格化などを検討する必要がある。 まず,各大学で行われている,歯周病の検査として行っている血清抗体価測定法の比較を行った。

各大学の血清測定法の比較

方式名

大学名
測定手技概要 評価
抗原 ブロッキング 抗血清
標準血清使用
二次標識抗体 発色基質液 測定波長 抗体価換算法 長所 短所
岡山大学・広島大学 超音波破砕可溶性画分 無し 1段階
ALP標識抗体 パラニトロフェニルリン酸 405 nm 標準曲線による換算
(健常度からの逸脱度=標準値により抗体価を相対的に位置付け)
・標準血清使用により測定機会毎のデータ比較が可能
・標準値採用により
 →データ規格化が可能
 →測定条件変更に対応
・蓄積データの活用が可能
・菌体内物質への抗体価も同時に評価(諸刃の剣)
渡辺法(東京医科歯科大学) 超音波破砕可溶性画分 BSA 11段階
×
ALP標識抗体 パラニトロフェニルリン酸 410 nm OD絶対値による換算 ・標準血清不要 ・菌体内物質への抗体価も同時に評価(諸刃の剣)
・測定機会毎のデータ比較が困難
・1検体あたりの希釈段階が多い
・測定条件変更への対応が極めて困難
中島法(東京医科歯科大学) 超音波破砕可溶性画分 BSA 1段階 ALP標識抗体 パラニトロフェニルリン酸 410 nm 標準曲線による換算 ・標準血清使用により測定機会毎のデータ比較が可能 ・菌体内物質への抗体価も同時に評価(諸刃の剣)
・低抗体価域での測定精度低下
・測定条件変更への対応に要工夫
酒井法(大阪大学) 凍結乾燥菌体 カゼイン 2段階
ALP標識抗体 4-メチルウンベリフェリルルン酸 励起:365 nm
測定:450 nm
標準曲線による換算 ・抗原調製が容易で,菌体表層への反応が明確
・標準血清使用により測定機会毎のデータ比較が可能
・蛍光測定→高感度
・測定条件変更への対応に要工夫
蛍光測定→機器が高価
神山法(大阪大学) 凍結乾燥菌体 無し 1段階
ALP標識抗体 パラニトロフェニルリン酸 405 nm 標準曲線による換算 ・抗原調製が容易で,菌体内物質への反応が明確
・標準血清使用により測定機会毎のデータ比較が可能
・試験法がシンプル
・測定条件変更への対応に要工夫
新潟大学 超音波破砕可溶性画分 BSA
ALP標識抗体 DAB 490 nm   ・1菌種にに対し精製が異なる複数の抗原を使用している(異的反応を明らかにする可能性) ・手間,コストがかかる
日本歯科大学新潟 超音波破砕可溶性画分 BSA
ALP標識抗体 パラニトロフェニルリン酸 457 nm, 465 nm 倍々希釈列 標準血清の値をもとに補正を行った
Endo point 0.2ODとして2nで示すと同時にELISA Unitとしても評価する
・2つの評価方法をとっているので値がより正確 ・患者血清が多量に必要
・手間,コストがかかる
九州大学 超音波破砕可溶性画分,全菌体,線毛,S-layer  
        ・1菌種に対し精製法が異なる複数の抗原を使用している(特異的反応を明らかにする可能性) ・手間,コストがかかる
松本歯科大学 全菌体  
      OD絶対値による換算
標準曲線による換算
・患者血清も複数の希釈で測定しているのでより正確な値を測定できる
・標準血清使用により測定機会毎のデータ比較が可能
・手間,コストがかかる
長崎大学 培養上清 BSA
ALP標識抗体 パラニトロフェニルリン酸 450 nm OD絶対値による換算 ・測定機会毎の比較が難しい
鹿児島大学 線毛 nofat drymilk
ALP標識抗体 パラニトロフェニルリン酸 405 nm 標準曲線による換算 ・標準血清使用により測定機会毎のデータ比較が可能
・標準値採用により  →データ規格化が可能
 →測定条件変更への対応可能
・蓄積データの活用が可能
・菌体内物質への抗体価も同時に評価(両刃の剣)

岡山大学歯学部附属病院第2保存科では,先程挙げた歯周病原性細菌とその他歯周病関連細菌を合わせて9菌種,13菌株の抗体価を測定している。

血清抗体価検査の臨床上の意味

治療経過に伴う血清抗体価の変動

利用するためには

当科で行っている,血清抗体価検査を行いたい歯科医師の方がおられましたら,柴まで問い合わせください。
(e-mail: stakashi@cc.okayama-u.ac.jp, FAX: 086-235-6679)


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tichiro@cc.okayama-u.ac.jp