<論点> 公共事業に評価システムを


 国のみならず地方も財政状況の著しい悪化に苦しんでいる。そして、国の財政構造改革に合わせるかのように、自治体の多くが行財政改革に取り組んでいる。このことは、一つに国と地方の関係を根本的に見直すべき時期が来ていることを意味しており、もう一つに公共支出のあり方を考え直す必要性があることを示唆していると言えよう。
 全国自治体の借金残高の合計は、この5年間で倍の150兆円近くになっている。また、一般財源に占める借金返済の割合を示す「公債費比率」を、47都道府県についてバブル前の1982年と1996年で比べてみると、全国平均で8.6%から13.6%へと5%も上昇している。この間、いかに借金体勢で事業を行ってきたかがうかがえる。
 この「公債費比率」が全国都道府県のなかで最も高いのが岡山県である。1996年度決算で20.1%と、唯一20%を超えている。いわば借金で首が回らない状態といえる。さらに来年度の収支不足額が381億円になると見込まれている。そこで岡山県では、昨年5月に行財政改革懇談会が設けられ、専門委員会での議論の結果、財政再建団体への転落という最悪の事態を回避すべく、220億円の歳出削減、5年間での職員数の7%削減などを盛り込んだ全国的に見ても極めて厳しい行財政改革案が昨年10月に知事に答申された。
 なぜこのような財政破綻の一歩手前の事態に陥ったのであろうか。そこには全国自治体に共通の事情と岡山県独自の事情とが絡み合っている。
 バブル崩壊後の景気低迷打開策として、国は公共事業中心の経済対策を実施した。これに地方が積極的に応じてきた。しかし、その財源のほとんどは起債という借金で賄われた。事業費に対する起債の充当率は、30〜70%と定められているが、国は起債の制限を取り払い、地方が借金を増やしてでも積極的な投資をすることを要求してきた。その例が「起債の弾力的運用」といわれるものである。経済対策関連事業については、手持ち金がなくても全額起債で事業をまかなえるという仕組みを国が作り、それに地方が呼応した結果、大きな借金が残ってしまったのである。そして、国も地方も共に財政難に陥り、国の財政構造改革によって地方交付税の抑制や起債の制限がなされ、それがさらに地方財政難の度合いを強めようとしている。
 岡山県の事情としては、1988年の瀬戸大橋開通後に地域の拠点性を向上させるべく積極的な単独事業の展開を行ってきたことがあげられる。その典型は、1990年度における単独事業費の歳出に占める割合が全国合計の割合に比べて約1.5倍であったという数値に表れている。岡山県の財政危機は、この地域固有の事情と前述の国の政策誘導が入り交じった結果といえる。
 地方交付税や国庫支出金といった国税の地域間への再配分制度の利点は、財政基盤の脆弱な自治体でも一定水準の公共サ−ビスを住民に提供でき、同時に再配分の乗数効果によって住民の所得が上昇することにある。しかし、国からの補助金はその使途に制約が強く、結果、国が地方を画一的方向へと誘導する仕組みが内在している。したがって、自治体は、補助事業よりも地方債を増発してでも政策の主体性が発揮できる単独事業の方向へ向かうことになる。しかも、このような財政需要の増加に対して後年に交付税で手当がなされる仕組みもある。地方交付税の存在は、自治体が自助努力をする誘因を削いでしまう。地方財政の危機は、現行の国と地方の間における垂直型の財政再配分制度の限界が露呈されたものといえよう。
 したがって、いくら地方分権といっても、このような再配分に支えられたシステムでは、地方は自立できない。自主財源を強化することが地方分権の必要条件ではあるが、それと同時に政策責任を自治体は持たねばならない。つまり、地方分権とは、護送船団方式から脱却し、自治体同士が政策競争に入りリスクを引き受けることを意味している。
 しかし自治体間の競争は、しばしば誤った地域間競争へと向かう可能性がある。バブル期以降に建設された豪華な公共施設には、利用度が低迷して、借金返済や維持管理の財政負担が重くのしかかっているものも少なくない。これは、地方自治体同士が競ってより豪華な公共施設を建設するといった、いわば誤った地域間競争によってもたらされた非効率的投資の結果である。それには、国も地方も含めての公的支出のあり方、特に、公共事業費の使途を客観的な基準で考えねばならない。
 財源の有効利用には、利用率の要因分析や財政負担の程度、地域への波及効果などの幅広い観点から徹底的な事後評価を行うための事業評価システムを確立する必要がある。そして、確立されたシステムを現在計画中のものに対する見直しや今後計画するものに適用する事前評価の実施が求められる。さらに重要なことは、事業評価の結果を広く情報公開し、議論の場を設けることである。その結果、受益と負担の関係が明確になることで、行政と住民が共に財政運営に責任を負う意識の高揚が望まれる。 地方行財政改革の意義は、自立的財政運営と主体的な地域政策の実施が可能であるような国と地方の関係を確立し、自治体みずからの事業評価システムの実施とその情報公開にあるといえよう。