新産業の創出と四国産業の高度化にむけて

新産業創出の背景
 二十一世紀を間近にひかえ、閉塞感が漂うなかで新規産業の創出の必要性が言われている。通商産業省「産業構造審議会総合部会基本問題小委員会」では、これから有望な産業分野として、情報・通信分野、医療・福祉分野、生活文化関連分野など十二の分野を掲げている。これら有望な分野においては、当然新たな産業の創出が期待される。
 それでは、このような有望分野における新産業の創出の背景をどのように整理すれば良いであろうか。経済学的に考えると、それは需要と供給といった2つの側面からとらえることができる。一つは、未知であったことに対する発見や新たな発明によって、それを利用する技術が生まれ、製品化され、市場化される場合である。この代表例としては、遺伝子構造の発見(解明)や半導体の発明などがあげられる。これらの発見や発明が、長い時間を経て、バイオ関連分野の産業やハイテク関連分野の産業として今日まで成長をとげ、またより大きな発展が期待されている。これは、生産における技術進歩という意味で、供給主導型で生まれる産業(業種)分野である。もう一つは、時代の必要性あるいは要請によって生まれてくる産業分野である。例えば、廃棄物リサイクルや地球温暖化といった問題が生じて環境保全技術の開発や向上が必要となってくる場合であるとか、高齢化社会が進展する中で高齢者に対するサ−ビス需要に応じる必要性といった場合である。これは、社会における応用技術需要という意味で、需要主導型で生まれる産業(業種)分野としてとらえられる。
新産業創出の地域経済効果
 一国の経済を構成しているのは、各地域経済のシステムである。その地域経済が新たな発展をするには、その地域の経済の仕組み、すなわち産業構造を変えないと駄目である。公共事業の例を見るまでもなく、産業構造を変えなくても一時的には地域経済の活性化ができるかもしれない。しかし、活性化状態を継続させ、持続的発展をしていくためには、地域の産業構造の変革が必要条件になってくる。これができる地域は、自立した地域経済のシステムを形成していることの証ともいえよう。
 地域経済の産業構造が内生的に変革していくには、地域にとって新たな産業が生まれてくる必要がある。それが発展し、既存の産業構造を変えていくのである。前述した供給主導型で生まれる新たな産業と需要主導型で生まれる産業は、地域経済にとってどのようなメカニズムで産業構造を変えているのであろうか。
 供給主導型で生まれる新産業のアウトプットは、当該地域のみならず、国外も含めた他地域に対する新規の需要を喚起する。つまり、いままで存在しなかった需要を創出する役割を演じる。このことは、新産業が移出産業として当該地域の総生産額や所得の上昇をもたらすのである。移出産業は基盤産業とも言い換えられ、基盤産業に対しては、必ずこれから派生する産業が生まれてくる。そして、その多くは対事業所サ−ビスとして分類されるものであり、またニッチ(隙間)産業と呼ばれるものであったりする。
 他方、需要主導型によって創出される産業は、社会的必要性から生まれた産業であることから潜在的需要を顕在化する役割を持つ。これは民間消費や民間投資といった地域経済にとっての直接的な有効需要を高め、それによって生産効果や所得効果がもたらされるのである。このことが、さらに新たな派生産業を生み出す可能性を高める。
産業縦割り思考との決別
 それでは、どのように地域産業構造を変えていくかということになる。近年では、一次・二次・三次産業を縦断的にとらえることから、総合的に考えていく方向に向かっている。地域産業興しのテ−マとして、しばしば「農村型観光産業:6次産業の創出」といったことが話題になっている。地方の、特に過疎化に悩む中山間地における新産業の創造という大きなテ−マで、農業+製造業+リゾ−ト・観光業の融合がポイントになっている。具体的には農村型リゾ−ト、農村体験型といったものでグリ−ン・ツ−リズムとも呼ばれているものである。比較的安上がりであることから、これが近年の大きな流れになっている。産業縦割り型思考から横断的思考へ発想を転回した一例であろう。
 そこで改めて通商産業省報告の有望な分野別の成長をみると、いずれの分野においても[商品企画]+[モノづくり]+[マ−ケッティング]+[販売も含めたサ−ビスの提供]の必要性がわかる。ポイントは、従来の産業分類である農業と工業、商業、サ−ビス業をドッキングする。つまり、異質な産業を融合することである。
 異質な産業を融合するには、異業種間の情報の交流と人の連携が不可欠であるである。しかしながら、従来の異業種交流というのは、しばしば製造業内でのといった一産業内での異業種交流が多かった。新たな産業を創出するには製造業内の交流に留まらず、流通産業やサ−ビス産業などといった異業種間の交流、さらに官・学と交流、そしてそれらの地域間の交流まで視野におくべきであろう。
 一人が様々な財やサ−ビスを求める多様性と同時に、各分野において一つのものがヒットし、それに需要が集中する。そういった多様化と集中化の時代においては、製造技術力に加えて、商品の企画力やマ−ケッティングにどれだけ情報が付加されるかが重要になってくる。
四国産業と産業高度化
 それでは、四国の産業高度化と新産業の創出について考えてみよう。既存の産業分類で見ることになるが、製造業の労働生産性(付加価値額を従業者数で割ったもの)を平成7年の工業統計表産業編で調べると、従業員規模が30人以上の事業所に関して、全国値が1356万円/人であるのに対して、四国は1255万円/人である。また、4人以上30人未満の規模の事業所に関しても、全国値が673万円/人であるのに対して、四国は572万円/人と全国値を下回っている。 労働生産性が低いのは製造業だけではない。平成6年度の産業別生産額と7年の国勢調査の産業別就業者数から求めたサ−ビス業の労働生産性に関しても、全国値が533万円/人であるのに対して、四国地方は400万円/人である。四県の中で最も高い香川県でも483万円/人と全国値を下回っている。しかし、労働生産性が低いということは、逆に今後高められるポテンシャルが存在していることでもある。
 新規産業は、基本的に高付加価値であることが必要条件である。四国各県の付加価値率(付加価値額を生産額で割ったもの)は、労働生産性ほど低くない。県によっては全国値を上回っている場合もある。この地域産業をより高付加価値型に変えていくには、交通・情報インフラの活用した新技術開発関連施設のネットワ−ク連携利用が不可欠である。これに関して四国地方では、香川大学工学部が位置する香川インテリジェント・パ−ク、徳島ブレインズ・パ−ク、そして岡山県のリサ−チパ−クを含めたエリアが「東中四国創造的発展基盤地域」(ス−パ−テクノ・ゾ−ン:STZ)として、平成7年度から五ヵ年計画で広域的な協力体制を構築する構想がスタ−トしている。西中四国にも愛媛県が入っているSTZ対象地域がある。また、従来、工学系の学部の無かった香川大学における工学部の新設や高知工科大学の開設によって、四国四県の大学に技術系の人材供給の基盤がそろうことになった。本四三橋時代にむけて、ネットワ−ク連携の中で、高付加価値型産業を創造していく大きなチャンスが訪れており、後は実践のみといえよう。
 成長分野の中でも、四国地域に集積が高い業種もある。例えば、愛媛県では、紙・パルプなどの素材型産業、鉄鋼や機械の集積が高いことから、中小企業は「モノづくり」としての高い技術水準を持っている。また、徳島県においても五十三号線の阿波ベンチャ−街道と言われる地帯では、食料品加工やソフトウェア業種の集積が見られる。さらに、香川県においても高松市周辺地域にはハイテク企業群が散見される。成長が期待される分野に対して十分技術供給が可能である。 産業の縦割り的思考を止めて、製品企画力、販売力(マ−ケッティング)、サ−ビスのシステムを統合した新産業都市地域の形成がこれからの地方都市のあるべき姿であろう。
地方中核都市の役割
 最後に、新産業創出における地方中核都市の果たすべき役割を考えてみる。四国四県の県庁所在都市は、徳島市、高松市、松山市、高知市であり、いわゆる地方中核都市である。高速道路網の整備や大型交通インフラである瀬戸大橋の開通、間近に迫った明石海峡大橋の供用などで利便性が高まる。さらに、各県が進めている高度情報化推進施策の地域間連携も始まりつつある。これらは、中国四国地域の拠点性を高めると期待されている。
 しかし、交通インフラの整備は、地方都市にとって両刃の剣である。例えば、昭和六十三年に瀬戸大橋によって四国と本州が陸路で結ばれたことによって、本四間の交流は一躍活性化した。ところが四国の玄関口であった高松市にとっては、瀬戸大橋が西の坂出に架かったこともあって、いわゆる「築港」としてのタ−ミナル機能が低下した。平成三年から八年にかけて事業所数の変化を見ると、全国では0.55%減少しているが、高松市では0.59%減少と全国値をわずかではあるが上回っている。本四とのアクセス条件が改善されたとはいえ、松山市においても1.76%の減少を示しており、(対岸の岡山市は2.91%増)、四国における中核都市の支店経済力の低下が現れている。
 拠点性の向上には、営業所経済や支店経済に依存した経済構造から、新たな産業を生み出すインキュベ−タ型の都市経済構造へ転換する必要がある。企業内情報化の進展で、従来型の支店経済都市の存立基盤が低下する可能性がある。一昔前、都市型産業という言葉が流行ったが、21世紀に向けて正に新たな都市型産業の創出が地方中核都市に問われているといえよう。