都市経済学


<ガイダンス>

 いま日本の人口は1.2億人を超えている。そのうち、都市に住んでいる人は何%であろうか。このとき都市というのを「市・区」でイメ−ジするならば、それは約78%(1995年国勢調査)ということになる。高度経済成長の始まる前の1955年と比較すると、40年間でその割合は20ポイント以上も増えている。 しかし、都市というのは「市・区」でみて良いのだろうか。確かに行政的に「市」となるには都市的な要件を備えていなくてはならない。それでも「市」の中には都市的要素の見られない所もある。都市経済学が対象とするのは、行政的な「市」よりむしろ経済学的な概念での「都市」である。
 都市経済学で対象とする都市がわかると、次に、なぜ都市が存在するのだろうかという素朴な疑問が生じてくる。歴史的経緯や地理的側面からもこれについての説明はなされているが、経済学的にはどういった理由が考えられるであろうか。都市経済学では、ミクロ経済学の概念を用いて、都市の存在理由を解きほぐしていく。人や企業が集積している地域が都市であれば、なぜ集積するのか、その便益と費用はどうなのかを考える。
 都市の存在理由はわかったが、それでは都市によって人口規模に違いがあるのは何故だろうか。また、都市の人口規模と都市の数には何か秩序だった関係が存在するのだろうか。都市の規模が異なる理由としては、それぞれの都市によって果たす役割や機能が違うからであろう。これを説明するのが都市の階層構造理論である。また、人口規模と都市の数の間には、順位・規模の法則というのが存在することが経験的に示されている。これらの理論は経済学から出発したものではないが、最近では経済学的に説明が試みられており、都市経済学の一分野を形成している。
 都市に様々な規模があることが理解できれば、それでは望ましい都市規模とはどの程度のものなのかということになる。これを考えるには、だれにとって望ましいのかという評価主体の定義と、望ましさの概念の経済学的な定義から出発する。たとえば、都市居住者にとってか都市で活動する企業にとってか、あるいは行政サ−ビスを行う自治体にとってかによって評価の基準も異なってくるであろう。さらに、望ましい規模の都市というのは放っておいても達成されるのだろうか。もしそれが達成されないとすると、どのような政策手段が考えられるのか。
 都市では、日々多くの人々が生活し仕事をする。とすれば、都市は時間と共にその大きさや形を変えていくことになる。大きさの面では、どのようなメカニズムで都市の人口が増加したり減少したりするのか。また、その要因について都市経済学では考える。形の面では、土地利用の変化ということになる。
 土地利用の問題は、都市経済学が取り扱う大きなテ−マである。都市というのは空間的な広がりをもっており、都市経済学では、空間すなわち距離の概念が重要な役割を演じている。
 都市に住んでいる人々は、通勤や通学、買い物や仕事で都市内を移動する。移動には時間と費用が伴う。そのような中で、働く場所や住む場所はどのように決まるのであろうか。また、どのようなタイプの住宅に立地するのか、それが我々の行動の中でどのような要因によって決まるのか。住宅と土地は密接に関係しているが、土地の値段はどのようにして決まるのか。都市の中になぜ空き地が生まれるのか。さらに、都市問題の中心である通勤混雑は解消できるのか。 我々が日々直面している都市問題についての理論的解明と解決の政策的手段について、都市経済学は示唆を与えているのである。


<ブックガイド>

 最近では都市経済を専門に取り扱ったテキストも増えてきた。その中で老舗的な教科書は、宮尾尊弘『現代都市経済学』(日本評論社)である。初版は1985年12月であるが、1995年4月に改訂版が出版された。全体が12章から構成されており、数式をあまり用いず、グラフによって都市経済を解説しているわかりやすい教科書である。
 次に、中村良平・田渕隆俊『都市と地域の経済学』(有斐閣)が教科書としてあげられる。これは1996年11月に出版されたもので、都市経済学と密接に関連している産業立地問題や地域経済学の分野についても数章扱っている。全体が16章で構成されている。
 そして、最も最近(1997年12月)出版されたのが、金本良嗣『都市経済学』(東京経済新報社)である。11章の構成であるが、各章の内容が濃く読み応えがある。また、各章に練習問題とその解答が巻末に与えられており、理解力を試すのに有益である。 いずれも都市問題のデ−タによる説明、理論的解説、政策分析をバランスよく扱っており、学習の進度に合わせて読んでいただきたい。