研究内容


 私達の研究室では,ベイズ推定(事前知識とデータから対象を統計的に推定する枠組み)や統計力学に基づいて”統計的情報処理”の諸問題を研究しています.
 最近では,以下の様な研究テーマに取り組んでいます.
(2)人工知能による早期胃癌の深達度診断
 神経細胞の働きを模倣した情報処理ユニット(単純パーセプトロン)を並べ,多数の層状に配置して作成された人工ニューラルネットワーク(神経回路網)は,深層ニューラルネットワークと呼ばれています.
 現在,AI(Artificial Intelligence:人工知能)と言えば,深層ニューラルネットワークを指すことが多いのですが,様々な分野で私達の生活へ進出を始めています.例えば,画像に写っている物体が何かを認識する性能は,深層ニューラルネットワークの方が人間よりも優れていることが知られており,自動車の自動運転には欠かせない要素技術の一つです.
 この深層ニューラルネットワークの優れた認識性能を,内視鏡(胃カメラ)画像からの早期胃癌の深達度診断へ応用する研究を,岡山大学病院の医師や企業と共同して行っています.
 胃癌の深達度とは,胃癌の胃粘膜への浸潤の程度のことであり,内視鏡による切除または開腹手術という治療法選択の重要な鍵となるものです. 

(4)単一画像超解像の文化財研究への応用
 単一画像超解像とは,たった1枚の低解像度画像を高解像度画像へ変換する技術であり,簡単に言えば画像の鮮明化が可能です.これは,多数の高解像度画像とそれらの低解像度化画像の間の関係を学習することにより実現されます.従来のマルチフレーム超解像とは異なり,同じシーンの多数の低解像度画像を必要としないという利点がある一方,(あくまで推測しているので)元々の高解像度画像と厳密には一致しないという欠点も存在します.
 本研究は,立命館大学アートリサーチセンター等との共同研究であり,同センター所蔵の紺紙金字経を主な対象としています.
 紺紙金字経とは,紺色に染めた和紙に金色等で書かれた御経のことであり,今から約1,000年前の平安時代後期に作製された紺紙金字経には,紺色の背後に様々な絵や文字が隠されていることが,赤外光画像により明らかにされています.
 赤外光撮影されたこれら文字等の解読に役立てることを動機として開始された本研究ですが,高強度で複雑なノイズの掛かった赤外光画像を単一画像超解像しても,なかなか可視性が向上しないことが判明しました.
 代わりに,ノイズ除去のための平滑化フィルターの一種と組み合わせることにより,赤外光撮影された絵や文字に対して,エッジ検出等の特徴抽出が可能になりました.
(1)スパースコーディング
 私達が普段見たり聞いたりする意味のある情報には,互いに関連があります.例えば,画像の場合,ある画素の周りの画素は類似した明るさと色を有し,互いに似ていることが多いです.
 この様な情報は,少数の特徴の組み合わせにより表現(スパースコーディングと言います)可能なのですが,スパースコーディングされた情報は,従来よりも少数の観測データから推測可能なことが知られています.
 この利点を活かして,画像処理等を中心に性能向上が実現されています.特に代表的な例は,病院において体の断面を観察するために用いられる,MRI(磁気共鳴画像)の撮像時間の短縮です.
 私達の研究室では,スパースコーディングに不可欠な画像辞書の従う確率分布を導出することにより,その高速生成や,画像処理性能を更に向上させるための条件を理論的に調べています.
(3)乳児期から中学生期のBMIデータに基づく成人期肥満の早期予測
 BMI(Body Math Index)とは,体重[kg]を身長[m]の2乗で割って得られる,肥満度の指標です.近年の研究によれば,子供達のBMI値の時間推移には何通りかのパターンがあり,国や人種により異なることが報告されています.
 本研究は,本学大学院保健学研究科との2018年度の共同研究であり,日本の子供達1,353人の0歳から14歳のBMI時間推移が8パターンに分類されることを,確率的情報処理の手法を用いて明らかにしました.
 また,成人期における肥満を幼少期のBMI時間推移から予測可能にし,従来よりも早期段階での保健指導に役立てることを目指しています.