トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、トリクロロエタン等の有機塩素系溶媒は、ハイテク産業のICチップの洗浄剤やドライクリーニングの溶媒などとして幅広く利用されています。しかし、これら溶媒の回収率はいずれも20%以下と低く、企業の環境へのたれ流しが暗黙の内に認められてきたのが現状でした。これら毒性、発ガン性、変異源性を示す有害物質による地下水汚染は、近年「ハイテク汚染」として注目されています。 特にドライクリーニング店、工場の近辺の地下水の上記溶媒含有量は、基準値を大幅に上回っていますが、当然地下水を通じて農耕地土壌にも流入していると考えられます。
本研究では有機塩素系溶媒の土壌生態系に及ぼす影響を調べました。その結果、溶媒は低濃度でも硝化作用を阻害し、高濃度では有機窒素の無機化も殆ど失活させること、土壌呼吸量も低下すること、有機質肥料区、化学肥料区、無肥料区の順に影響を受けにくいことなどが分かりました。土壌窒素代謝においても、畑条件で亜硝酸菌、硝酸菌の生育を著しく阻害し、アンモニウムイオンが蓄積しました。アンモニア化成菌、脱窒菌、糸状菌の生育も著しく阻害されました。
176. "Effects of Highly Volatile Organochlorine Solvents on Soil Nitrogen Cycle and Microbial Counts"
H. Kiyota, S. Ohtsuka, A. Yokoyama, S. Matsumoto, H. Wada, S. Kanazawa, Soil Wat. Res., 7 (3), 109-116 (2012). 97. "Effects of Highly Volatile Organochlorine Solvents on Soil Respiration and Microbial Biomass"
H. Kiyota, S. Kanazawa, A. Yokoyama, H. Wada, Int. J. Soil Sci., 1, 235-242 (2006).
フッ素原子(C-F結合)は水素原子(C-H結合)に大きさが近いものの、結合エネルギーは大きく、また電気陰性度も大きいことから分極しています。そのため生体においてC-F結合は、しばしばC-H結合のミミック(擬似)として働き、また別の場合は結合が切れにくいことで代謝等をブロックします。(有名なTCAサイクルにおけるモノフルオロ酢酸の例)。また、C-F結合は大きく分極していますが、CF3となるとCH3基よりも疎水性を示し、化合物に親油性を高め生体膜透過を促進します。このような長所を持つ一方で、土壌中では残留が問題となります。