Research
研究内容

研究概要

 膜輸送体(トランスポーター)は、伝達物質や薬物・代謝物・イオン等の輸送を司る膜タンパク質であり、体内の恒常性の維持に重要です。 その機能異常により多くの疾病が発症することが知られています。ヒトにおいては500以上のトランスポーターが存在していますが、 普遍的な輸送活性法が確立されていなかったため、過半数のトランスポーターの機能が依然として不明のまま残されています。 そのため、トランスポーターを標的とした薬は、受容体や酵素を標的とした薬と比べると、格段に少ないものでした。
 そこで我々は、全てのタイプのトランスポーターの単一の機能を定量的に評価できる実験系を構築し、これまでの課題を解決しました。 すなわち、任意のトランスポーターを昆虫細胞などに大量発現・精製し、人工の膜小胞に再構成するというものです。特に当研究室では、 生命活動に重要な神経伝達や代謝調節、免疫応答を司るトランスポーターに着目し、(1)分子生物学と生化学、(2)構造生物学、 (3)細胞生物学と組織化学、(4)動物行動学といった実験手法と(5)オミックス解析を駆使して、トランスポーターの輸送基質を同定し、 構造と輸送機構、生理機能を明らかにしています。トランスポーターの創薬標的としての意義を明らかにし、 トランスポーターを標的としたFirst-in-Classの創薬を目指しています。
解説図

研究論文の概説

Identification of a vesicular ATP release inhibitor for the treatment of neuropathic and inflammatory pain.

Kato Y, Hiasa M, Ichikawa R, Hasuzawa N, Kadowaki A, Iwatsuki K, Shima K, Endo Y, Kitahara Y, Inoue T, Nomura M, Omote H, Moriyama Y, Miyaji T
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America   114 (31) E6297-E6305   2017年7月
Faculty of 1000(専門家による論文評価システム:http://www.sunmedia.co.jp/e-port/f1000/)で
「Recommended」に選ばれました。
「慢性疼痛に骨粗しょう症薬有効 岡山大研究グループが確認」
山陽新聞に研究成果が掲載されました。
 ATPなどのヌクレオチドを伝達物質とするプリン作動性化学伝達は慢性疼痛をはじめとするさまざまな疾患の発症に関与します。 小胞型ヌクレオチドトランスポーター(VNUT)は分泌小胞にATPを濃縮する膜タンパク質であり、プリン作動性化学伝達の必須因子の一つです。
 我々は、骨粗鬆症治療薬の第一世代ビスホスホネート製剤であるクロドロン酸が既存薬効より1000倍強力にVNUTを阻害することを見出しました。 クロドロン酸は骨粗鬆症治療効果が弱い一方で副作用も小さい特徴を有します。VNUTは神経障害性・炎症性疼痛や慢性炎症の発症に重要であり、 クロドロン酸は既存薬より副作用が少なく、これらの病態に有効でした。今後、疼痛や炎症性疾患領域で世界初のトランスポーター創薬になると期待されます。