Applied Superconductivity Engineering Lab.

概要: Overview

超電導技術は、CO2削減や省エネルギー効果によるエネルギーシステムの高効率化、高磁場応用による新技術の創生など社会への貢献が見込まれ、 電力、産業、医療などへの幅広い応用が期待されています。特に近年は、液体窒素(77K)を冷媒として使用可能な高温(酸化物)超電導体の利用が超電導応用機器開発の中心になっています。 当研究室でも、高温超電導体(バルク体と薄膜線材)を用いた超電導応用機器の開発を行い、エネルギー・環境問題の解決を目指した高効率・低損失の電気機器などのへの応用、 超電導技術と再生可能エネルギーとの協調や応用、医療用超電導マグネットの応用を目指しています。 

1. 風力発電&大型船舶用の高温超電導コイルの開発

高温超電導線で巻いたコイルは電流密度が高くでき,コンパクトなコイルが実現する可能性があります。この高温超電導コイルを風力発電や大型船舶用モータに適用する研究が世界各国で行われています。しかし,超電導線材のコイル応用では、コイルの一部が超電導状態から常電導状態に戻る現象( クエンチ)を回避し、機器の損傷を防ぐ必要があります。従来の研究では、コイルの外部にクエンチ検出・保護装置が必要でしたが、高温超電導線材を無絶縁巻線方式でコイル化することで、コイル自身でクエンチの抑制ができる可能性が指摘されています。風力発電や船舶用モータに高温超電導線材を利用すると、クエンチ検出・保護装置を実装するのが困難です。そこで、我々は無絶縁巻線方式を採用することでクエンチ検出・保護装置が不要な高温超電導コイルの開発に取り組んでいます。現在は、無絶縁高温超電導コイルのまだ未解明な部分が多い基本的な特性を評価しています。

 

2. 高温超電導線材とバルク体を用いた小型NMR Relaxometry(1.5 T)の開発

核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance: NMR)分光法は、たんぱく質の機能・構造解析に有効なツールとして注目され、装置の性能向上が進められています。しかし、装置の高磁場化や大型化、高コスト化のため個人が手軽に使用できる装置とは言えないのが現状です。そこで、我々はNMR装置の小型化、低コスト化に向けて高温超電導線材やバルク体を用いたNMR Relaxometryの開発を目指しています。



高温超電導バルク体


高温超電導コイル


永久磁石
 

3. 3次元超電導アクチュエータの開発

空間的に隔てた環境における遠隔操作が可能な超電導アクチュエータの開発を行っています。このアクチュエータは移動子である高温超電導亜バルク体と固定子である平面配列された電磁石群で構成されています。固定子から3次元的な磁場分布を発生・制御させることで、移動子を鉛直方向・水平方向へ移動および回転させることができます。

  

 

4. 非接触型回転軸の高温超電導回転機の開発

高温超電導バルク体は、磁場を捕捉する性質をもつため,永久磁石のように振舞います。この性質を利用すると、磁性体を浮上させることができます。そこで、我々は、この原理を利用してリング型高温超電導バルク体を用いた非接触回転機の開発を行っています。非接触のため、摩擦・摩耗がなく、これらに起因する粉塵やほこりなどの問題がないため、医療用の撹拌ミキサーに応用することを想定しています。

   

 

5. 電磁鋼板の磁気特性評価

電磁鋼板は電気機器において効率的なエネルギー変換をするためにはなくてはならない磁性材料です。近年は、鉄道用や自動車用モータなどの設計や開発において、電磁鋼板の精密な磁気特性を把握することが求められています。小型化に伴い、高磁場における特性の把握も求められています。そこで、我々は、電気機器の中で電磁鋼板が実際に経験する環境下における磁気特性を高精度に測定することに取り組んでいます。

 

6. 医療応用を目指した超電導マグネットの研究

高温超電導線材は、高強度な上、高磁場においても特性が良いため、コイルを小型・軽量化とともに高効率化、省エネルギー化することができます。そこで、高温超電導線材を用いてコンパクトな高磁場マグネット開発を通して、磁気共鳴画像(MRI)診断装置、核磁気共鳴(NMR)分光計や粒子線がん治療用加速器などの医療応用への応用を目指します。 

 

7. 超電導マグネットを用いた磁気分離

近年、バイオ・創薬の分野において、マイクロ/ナノビーズを用いた細胞・分子の分離技術が日米欧において大きく進歩している。微量含有タンパク質等の有用物質を磁気マイクロ/ナノビーズに捕捉させ、超電導マグネットを用いた高勾配磁気分離技術によって、高速・高効率で連続的に大量分離・精製するシステムの開発を目指した研究を行っています。

 

8. 電気機器設計・評価のための高速電磁界数値解析手法の開発

電気機器を経済的に設計するためには、材料・機器の特性を正確に再現できる解析・シミュレーション技術や設計技術が必要です。本研究室では、磁性体・導体・超電導線材などを利用したマグネット・ケーブル・電気機器など利用形態に合わせた、電磁的・熱的・機械的特性評価を統合的・定量的に精度良く行うための高速数値解析手法の開発を行っています。

9. 高温超電導コイルを用いた非接触給電システムの研究

温室効果ガスの削減と鉄道運転の安全性確保の観点から,非接触給電システムのニーズが高まっています。しかし,非接触給電システムに銅コイルを用いた場合,コイルでの発熱から急速・大電力伝送が制限される欠点がありました。そこで,本研究では高温超電導(HTS)コイルを用いて大容量かつ高効率伝送可能な非接触給電システムを実現することを目標としています。近年,臨界電流密度が高い次世代HTS線材が開発され,HTSコイルの低損失化や非接触給電システムの電力伝送特性について実験および数値解析の両面から検討しています。