シリコン材料の科学と技術フォーラム2010
  The Forum on the Science and Technology of Silicon Materials 2010



今人類は様々な困難に直面しています。地球温暖化とそれに伴う気候変動の不規則化,大規模な風水害の頻発,降水不足と砂漠化の拡大,大規模地震の発生,化石燃料の枯渇,食料不足など,どれをとっても解決が困難な課題ですが,人類の英知を持ってそれらを乗り越えて行かねばなりません。このような全地球的課題の解決において電子機器が果たす役割は極めて大きいものがあります。例えば,大規模地震の予知や発生通知システムには高速・大容量のコンピュータ,耐環境性能の高い高感度のセンサー,情報の高速伝送網などが必要ですし,太陽光,風力,地熱など自然エネルギーの利用のためには,高効率の太陽電池,高耐環境性・高信頼性の電子デバイスが必須です。環境負荷の小さい電気自動車は電子機器・デバイスの塊と化すでしょうし,さらに,海洋資源探査や砂漠の緑化などの課題解決には高性能な電子機器・デバイスが活躍することでしょう。一方,天然資源や農耕条件に恵まれていない我が国が今後も持続的に発展し繁栄して行くためには,これまで以上に「科学技術立国」を目指して技術革新を拡大していくことが必須です。特に,エレクトロニクスを中心とした半導体産業の振興はキーポイントです。これは,上で述べた全地球的な観点から人類の繁栄を目指す方向とベクトルが完全に一致します。したがって,この分野において我が国が世界をリードしていくことは他の国々からも支持される重要なポイントであると思います。

コンピュータをはじめとするさまざまな電子機器の根幹をなしているLSIは長年シリコンを材料として目覚ましい発展を遂げてきました。加工技術の飛躍的な発展を原動力として幾度となく囁かれた限界を乗り越えてきました。この過程において我が国が果たしてきた役割はたいへん大きく,シリコン材料・デバイス製造技術においてまさに世界をリードしてきたと言っても過言ではないと思います。近年の半導体不況や外国企業との価格競争により産業自身の活力や体力が失われたことは否定できませんが, 産業の基盤となる技術と研究開発の水準は依然として高く,諸外国に対して優位性を保っています。このような時こそ企業のニーズと大学をはじめとする研究機関のシーズを高いレベルで融合し産学連携を強化して行くことが,世界の半導体分野における我が国の地位を確たるものにする良いチャンスだと思います。

ここで,最近のシリコン材料・デバイス分野における新たな技術展開の流れや進むべき方向性へ目を向けますと,加工技術においては原子オーダーに迫る加工を必要とする時代が近づきつつありますし,一方材料としてのシリコンの物理限界によりデバイス性能が制限される段階に入っています。このような技術的困難を打ち破るために,さまざまな新しい工夫が試みられています。ひとつは,シリコンを基盤的材料としながらもそれに異種材料を組み合わせることにより,デバイス性能をさらに向上させる方向です。例えばLSIにおいては,Geの導入によるバンドギャップ制御とひずみ制御,ゲート絶縁膜として高誘電率材料の導入によるリーク電流の低減などがあります。また太陽電池においては,その効率を飛躍的に高めるために,シリコンにGe,SiGe,SiCや化合物半導体を組み合わせて多接合型あるいは可変バンドギャップ型セルを構成する試みもすでに始まっています。もう一つ注目される方向は,これまでデバイスにおいては情報を伝える手段として電子・正孔の電荷の移動のみを利用していたのに対して,シリコンへ光を導入し大容量の情報を高速で伝送する新しい分野であるシリコン・フォトニクスが目指す方向です。この分野では,長年蓄積されてきたシリコンLSI関連技術を最大限に利用しながら,異種材料としてGe,SiGeや化合物半導体をも導入して光デバイスの性能を高めていく技術開発が急速に進展しています。そのほか,センサーやMEMSの分野においても,シリコンの役割とその重要性は着実に拡大しています。一方,パワーデバイスにおいては,シリコンの物理的限界を乗り越えるため特にハイパワー・デバイスでは低損失材料としてSiCが取って代わろうとしています。このSiCの結晶特性やデバイス性能を向上させるために,これまでシリコンで蓄積されてきた技術や研究成果がたいへん役に立っています。このように見てきますと,さまざまな分野においてシリコンだけを使う局面は減ってきましたが,シリコンをベースとしてそれにさまざまな異種材料や新機能を付与することにより,シリコンの応用分野はますます拡大の一途をたどっていると思います。それと同時に,シリコンをさらに深く・広く研究する機運も高まっていると感じます。

シリコン材料の科学と技術フォーラムは1997年に設立されました。設立の趣旨は以下のようなものでした。それまでのシリコンを中心とする半導体技術は,個別技術・要素技術としては非常に高い水準にあったものの,実用技術と基礎研究との連携がうまく機能していなかったこと,全体を見通す視点や次世代を担う人材育成を重要視する長期的視点に欠けていたこと,さらに研究と技術開発の両方において国際的視野を持つことの重要性を深く認識していなかったことなどの反省に立ち,

(1)     産学連携の強化と実質化,

(2)     次世代を担う若手技術者・研究者の育成,

(3)     技術者・研究者の国際レベルでの交流

を主な目標に掲げて,シリコン材料の科学と技術に関する学術論文の発表と活発な討論を行うこと,ならびに技術者・研究者の交流と若手の育成を促進することを目的としてフォーラムをスタートしました。過去5回のフォーラムでは,シリコン材料の成長・評価技術と基礎研究との連携を中心的課題に据え,最初から国内で行う国際シンポジウムとして位置付けて発表やディスカッションは原則的に英語を用いて実施しています。回を重ねる毎にフォーラムの課題もシリコンのバルク材料からエピ,SIMOX,SOI,SGOIなどへと拡大・深化してきました。また,LSI以外の重要な応用としてSiソーラーセルやパワーデバイス材料としてのSiCへも研究対象を広げています。第6回の今回からは,日本学術振興会の「結晶加工と評価技術・第145委員会」が主催することになりました。本フォーラムでは過去のフォーラムの基本姿勢を踏襲すること,すなわち発展著しいLSI基板材料としてのシリコンと新規材料として注目されているSiGeやSiCなどに関する最新の研究成果を徹底的に討論をすることはもちろんのこと,さらにLSI,センサー,太陽電池,パワーデバイス,Siフォトニクス,Si MEMSなど幅広いデバイス応用面に関する最新の技術動向を見極め,次世代デバイスの開発へ新しい切り口を開くことにより我国の半導体産業の推進のため指針を与えること,および実用技術と基礎研究の両方においてバランスのとれた人材を育成することなどを重要な柱として据えています。本フォーラムの大きな特徴として,発表時間が長く,プロシーディングスの枚数制限がないことが挙げられます。これは,本フォーラムが「技術者・研究者が一堂に会して,徹底的に自由討論する」という設立理念によるものであり,参加者から好評を得ています。さらに今回からは人材育成面をさらに強化するため,新たに若手研究者の発表奨励賞を設けることにしました。シリコンがLSI用途ばかりでなくさまざまな応用分野へと広がりを見せつつある中で,若い研究者・技術者がシリコン関連分野へ目を向けて参入することにより,新たな技術革新を生み出す原動力となることこそ,我が国の半導体産業の発展に欠かせない条件であると思います。

支援者の皆様におかれましては,上記のような本フォーラムの趣旨をご理解いただき,今までにもまして多大なるご協力を賜れますよう,心よりお願い申し上げる次第でございます。また,当事者たる研究者・技術者の皆様におかれましては,国を超えて,またでき得る限り幅広い分野からご参加いただき本フォーラムを盛り上げてくださいますよう,お願い申し上げる次第です。

平成21年 (2009年) 12月1日


シリコン材料の科学と技術フォーラム 2010 (岡山会議)

実行委員会 委員長   上浦洋一 (岡山大学 教授)

     同  副委員長 金田寛   (新潟大学 教授)

     同  副委員長 柿本浩一 (九州大学 教授)

     同  副委員長 小野春彦 (神奈川県産業技術センター副部長)

     同  副委員長 村上進   (日立製作所 シニア研究員)

 

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