喫煙と不妊症

喫煙は,肺がんや心筋梗塞のリスクが高くなるなど,身体に害を及ぼすことは知られています.女性特有の妊娠・出産に対しては,喫煙はどのような影響をあたえるのでしょうか?

今までの統計や調査などで,以下のことが報告されています.

① タバコを吸う人は(受動喫煙でも)吸わない人に比べて,妊娠するまでに1年以上余計にかかる.

② 5年間避妊をしていない子供のいない夫婦で調べたところ,不妊症になる確率は,1日10本以上の喫煙者で10.7%,非喫煙者で5.4%であり,喫煙者の方が高くなる.

③ タバコを吸う人は吸わない人より閉経年齢が早くなる.

以前より,このように喫煙と不妊症との関連性が疑われてきましたが,その原因と思われる細胞性機序も研究されています. 『Nature Genetics』 2004年7月16日号によると,タバコの煙に含まれる有害化学物質「PAH(多環芳香族炭化水素)」によって,マウスの卵子の細胞死を引き起こすBAX遺伝子が発現することがわかりました.このPAHは,ヒトの卵巣においても類似の細胞死を起こすことも確認されました.

また,たばこの煙に含まれる一酸化炭素やニコチンは,低酸素を引き起こし,血管を収縮させる作用もあるため,妊娠中の喫煙は,胎児の発育障害や流早産の原因の1つとなります.

「20代でタバコを吸った女性は,そのときは何の徴候もないため,有害作用に気づかないけれど,その後に妊娠の問題が生じたり,早期に閉経期に入ったりして後悔する.」(ハーバード大学Tilly博士)

これから子供を産みたい女性は,自らの喫煙も間接的喫煙も避けるべきと言えるでしょう.

(2004年11月2日)