凍結保存された卵巣組織から妊娠に成功

がんの治療では,全身的な抗がん剤の投与や,放射線治療が行なわれ,その量によっては,精巣や卵巣の機能は低下し,精子や卵子が消失することがあります.女性では,がん治療により卵巣機能が低下し,月経が止まり,更年期と同程度まで女性ホルモンが低下することがあります.

将来,子供のほしい女性は,放射線療法を行なう場合,その照射範囲の外に卵巣を移動させて放射線被爆を避けたり,抗がん剤投与の場合は,GnRHアゴニストを投与して卵巣への影響を少なくしたりといった対処がなされています.

また,がん治療の前に卵子を取り出し,精子と受精させ,受精卵の形で凍結保存できれば,抗がん剤治療の後,その受精卵を胚移植して妊娠を期待することができます.これまでに長期間,凍結保存した精子や受精卵で妊娠に至った例は報告されています.

今回,がん治療の前に,卵巣組織を取り出し,凍結保存した女性が,がん治療後に,ふたたび卵巣の移植手術を受け,卵巣機能が回復,さらに,自然妊娠にいたったことが,ヨーロッパ生殖医療学会(ESHRE: European Society of Human Reproduction and Embryology )で報告されました.

この症例は,7年前,抗がん剤治療を受ける前に卵巣組織の一部を摘出し凍結保存,その後,悪性リンパ腫の治療を受けました.抗がん剤治療後,凍結保存していた卵巣組織をもとの卵巣に移植したところ4ヵ月後に月経が再開し,自然妊娠しました.

この技術が確立すれば,がん治療などを受ける女性にとって有用となると考えられます.

また,若い頃に一部分,凍結保存しおけば,閉経後の女性が,卵巣組織を再び移植することで,妊娠することも可能となるため,注目されています.

(2004.7.21)