生活習慣病である口腔の慢性細菌感染症を捉えよう!
歯周病は,「沈黙の病」とも言われる”静かに進行する慢性的な病気”です。 口の中(口腔)に生息する常在細菌の種類に量的なバランスが崩れると,生体は免疫応答を起こして感染に対抗しようとします。 その際に,歯肉や歯を支える歯周組織には炎症が起こり,やがては歯周組織の破壊(歯肉の腫れや出血,さらには歯槽骨と言われる歯を支える顎の骨が吸収されます)が起こって,咀嚼や発音に重要な歯を失うことになります。 最近では,歯周病のような慢性の感染や炎症が種々の全身的な疾患(糖尿病や循環器疾患)に関連することも分かってきました。
こうした歯周病を,平成20年度に始まる改正健康保険法での特定健診に取り入れることができてはいません。 歯周病は生活習慣病であって慢性の感染と炎症があるため,前述のような全身的な生活習慣病とメタボリックシンドロームにも悪影響を与えています。 そこで,歯科医師が直接に口腔内の検査を行わなくても,わずかな血液を用いることによって歯周病に罹っていることや重症度が分かる指尖採血による血液検査に期待されるのです。 もちろん,内科での検査時に,残ったわずかな静脈血からも検査を行うことができます。
歯周病の治療の効果を,歯周病原性細菌の感染度によってモニターすることも可能になります。 このように広範囲な場面で応用できる「歯周病原性細菌に対する血液検査」は,これまでは一部の大学病院で研究的に行われてきた検査でした。 これを臨床の場に活用できるように,臨学産の分野での連携によって橋渡し研究(トランスレーショナル研究)が実施されているのです。
歯周病学会での取り組み
数年間にわたって,計画的な取組が行われてきました。- (画像をクリックすると拡大できます。)
- 平成14年度: 研究委員会の下に「歯周病原菌の血清抗体価の測定方法および測定値の標準化」を検討するワーキンググループを設置した。
- 平成17年度: 日本学術振興会科学研究費補助金(基盤研究C企画調査)の支援を受け,大型研究を企画した。 春季日本歯周病学会学術大会において,同ワーキンググループによるワークショップを開催した。
- 平成18年度: 日本学術振興会科学研究費補助金(基盤研究A)の支援を受け,指尖から採血した微量血漿を用いたIgG抗体価測定法による歯周病細菌感染度の判定法を確立するためのマルチセンター方式の研究を開始した。
全国11大学の歯学部において,歯周病治療の際に指尖採血を行い,歯周病原性細菌(歯周病の原因菌とされ,歯周病の病状が悪化すると増加している細菌群)に対する免疫グロブリンG(IgG)抗体の量の変化を調べています。 初診時(歯周病治療の開始時期)と歯周基本治療(歯石の除去や根面の滑沢化を含む原因除去療法)の終了時の2時期に採血を行います。