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・がん免疫・腫瘍微小環境とは?

 我々の身体の中にはがん細胞が毎日数千個できていると言われています。しかしながら、ヒトはそう簡単には「がん」にはならないですよね?これは免疫系が正常に働いてがん細胞を「敵」と認識して排除してくれているからであろうと考えられています。そもそも免疫とはウィルスや細菌といった外からやってくる「敵」を排除するためのシステムです。そういったシステムががん細胞も対象にすればがん細胞を排除してくれる訳です。このことが「がん免疫」です。しかしながら我々の身体には免疫が暴走しないように抑えるブレーキも存在しています。実はこのブレーキをがん細胞が上手に利用して、自身の生き残りをはかっています。このことを「免疫逃避」と呼んでいます。がん免疫療法である抗PD-1/PD-L1抗体に代表されるような免疫チェックポイント阻害剤はこのブレーキである「免疫逃避」のメカニズムを阻害して免疫を活性化し、活性化した免疫細胞ががん細胞を攻撃・排除している治療です。そして、がん免疫にはがん細胞の周辺にある免疫細胞を含めた様々な細胞が重要で、その本質であろうと考えられていまして、それらを「腫瘍微小環境」と呼んでいます。

以下のサイトで一般の方でも理解しやすいような連載をしておりますので、詳しく知りたい方は是非読んでください。
https://www.carenet.com/series/immu/cg002566_001.html

・Cancer Immunogenomics

 がんは遺伝子の異常により起きる病気です。肺癌や胃癌といったように発生した臓器や、扁平上皮癌や腺癌といった病理により分類されていますが、昨今の「ゲノム医療」に代表されるようにEGFR遺伝子変異やKRAS遺伝子変異といったゲノム異常に基づいた分類が徐々に始まっています。これは治療に直結するという面が大きいからで、EGFR遺伝子変異があればEGFRチロシンキナーゼ阻害剤、KRAS遺伝子変異があればKRASの薬剤、、、みたいな精密医療(“Precision Medicine”)が既に始まっています。我々はそこにさらに腫瘍微小環境もゲノム異常に基づいて異なるのではないか?という仮説を基に研究を行いました。実際に複数のがんのゲノム異常が、積極的に腫瘍微小環境の免疫状態に関与して、がん細胞が免疫系から逃れる「免疫逃避」に寄与していること、そのがん抗原との関係性を、患者さんの検体やマウスを用いた実験で明らかにしています(参考文献1-4)。このような研究分野を“Cancer Immunogenomics”と呼んでおり、我々のデータは世界的にも評価されています。

参考文献
1. Togashi Y, et al. Immunity 2020.
2. Togashi Y, et al. Sci Immunol 2020.
3. Takeuchi Y, et al. Sci Immunol 2021.
4. Ishino T and Togashi Y, et al. Br J Cancer 2023.

・制御性T細胞

 がんは「免疫逃避」している、と述べましたが、そのメカニズムの1つに「制御性T細胞」という免疫細胞があります。この細胞は本邦で確立されてきた細胞で、免疫を抑制する細胞の代表格です(参考文献1)。がんはこの細胞を利用して免疫逃避しているということが古くから考えられていましたが(参考文献2-4)、実際のがん免疫療法を受けた患者さんにおける役割は不明な点が多かったです。そこで我々は実際にがん免疫療法を受けた患者さんの腫瘍微小環境を解析し、マウス等で検証することで、制御性T細胞のがん免疫療法における役割を詳細に明らかにしました(参考文献5, 6)。また、CTLA-4という分子が制御性T細胞には高発現していますが、抗CTLA-4抗体の制御性T細胞への今まで報告がなかったような効果も新たなに報告しています(参考文献7)。

参考文献
1. Sakaguchi S, et al. J Immunol 1995.
2. Onizuka S, et al. Cancer Res 1999.
3. Shimuzu J, et al. J Immunol 1999.
4. Togashi Y, et al. Nat Rev Clin Oncol 2019.
5. Togashi Y, et al. PNAS 2019.
6. Togashi Y, et al. Nat Immunol 2020.
7. Watanabe T and Togashi Y, et al. Cancer Sci 2023.

・1細胞レベルの解析

 腫瘍微小環境にはがん細胞や免疫細胞などの様々な細胞が存在しています。それらを解析するためには普通の方法では難しいです。なぜなら、塊の状態での解析はそれらの平均値にしかならず、本質はわからないからです。たとえば塊の解析ではAが高いと出ても、どの細胞のAなのかが不明です。がん細胞のAと免疫細胞のAでは大きく意味が異なる訳です。そこで、腫瘍微小環境の詳細を精密に解析するためには、1細胞レベルでの解析が必要になってきます。我々は腫瘍微小環境の1細胞解析に重点を置き、特に実際の患者さんの臨床検体を最低限のダメージで処理することで、小さい検体での解析も可能にしています(参考文献1-3)。1細胞レベルで網羅的な遺伝子解析も患者さんの検体で取り組んでいます。そういったデータから従来は注目されていなかったような様々な分子が、がん免疫で重要な役割を果たしていることを明らかにしています(参考文献4と5)。また独自の解析方法にも取り組み、腫瘍微小環境で今までにない新しい概念を生み出すような発見もしています(リバイス中)。

参考文献
1. Togashi Y, et al. Sci Rep 2021.
2. 冨樫ら.実験医学増刊2019.
3. 冨樫.実験医学増刊2021.
4. Nagasaki J and Togashi Y, et al. Cell Rep 2022.
5. Zhou W and Togashi Y, et al. Cell Rep 2024.

・トランスレーショナルリサーチ(TR)/リバースTR(rTR)

 所謂「研究」と聴くと、どういったものを思い浮かべますでしょうか?多くの方は細胞やマウスを使ったものを思い浮かべるのではないでしょうか?私自身ももちろんそういった所謂「研究」も行って参りましたが、それだけではなく患者さんの臨床検体を解析するような研究にも重点を置いてきました。私が研修医の際にメンターの先生に「Nature, Cell, Science(超一流科学雑誌ですね)に載っていることが全てホンマやったら、世の中から病気はもうなくなっとるんや」と言われました。確かに世界中で毎週のように何万匹のマウスで、がんは完治しているのですが、実際の患者さんでは薬剤だけでがんは完治しない場合がほとんどです。やはり、研究室で起きていることと実際の患者さんで起きていることとの間にギャップがあるからであろうと考えています。そこで私は「ヒトの病気の研究をしているのだから、患者さん検体が一番真実に近いはず」と考えました。今までも私は、実験データを患者さんの臨床検体で確認する、臨床検体のデータを実験的に検証するといった循環させるようなTR/rTRに取り組んできましたが、今後もそういった研究で臨床に還元していきたいと思っています。