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冨樫 庸介 教授
Yosuke Togashi, Professor


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2025年度のご挨拶

 2021年4月より新たに腫瘍微小環境学分野としてスタートして早くも4年が経ち、今では合計20名程度の大所帯の研究室になりました。サポートいただいた関係者の方々にこの場を借りて深く御礼申し上げます。
昨年度は研究室に専用でフラックスアナライザーが導入され、ミトコンドリア代謝研究を深められ、またセルソーターのレーザーも増えて、より細かい分画をソートできるようになりました。5年くらい取り組んできた、ゲノム異常に関する研究やミトコンドリア伝播に関する研究が大きなところにアクセプトされ、現在も続きを行っています(参考文献)。初期の院生の論文もいくつかアクセプトされ(参考文献)、複数のリバイスも行っています。また、研究室から新天地へ行かれた方々は益々のご活躍を祈念しております。
 個人的には病院の業務も兼任して、臨床の多忙さを再認識する中で、医療というものがどんどんルーチンワーク・官僚化することには危機感を感じています。AIが医療に入ってくることで既存の価値が変わって「もうそれってAIでいいよね」と言われてしまう時代が目の前に来ています。今から新しい価値を見出す仕事・研究に取り組んでほしいく、逆にそうしなければもうこの国の医療・社会の発展はしません。
 忙しくなってしまいラボメンバーには色々ご迷惑をおかけしていますが、これから危機感を共有できる若い方々の裾野が拡がってくると思っています。そこから新たなテーマ・着想も生まれてきますので、今後とも皆様の温かいご支援並びにご指導ご鞭撻のほど、どうぞよろしくお願い申し上げます。


2025年4月 冨樫 庸介

 参考文献
  • Mukohara F, Iwata K, Ishino T and Togashi Y, et al. PNAS 2024
  • Ikeda H and Togashi Y, et al. Nature 2025
  • Ninomiya T and Togashi Y, et al. Cancer Res 2025
  • Matsuura H and Togashi Y, et al. Cancer Sci 2025

 新しいことに挑戦しよう

 私は国立がん研究センターの西川先生の研究室でポスドクとして制御性T細胞の研究を主にやっていました(参考文献1-5)。お陰様で色々な成果も出せて、2019年ごろに研究室独立の機会をいただきましたが、このまま西川先生と同じ制御性T細胞をメインにしても独自性がないなーと悩んでいました。しかも独立すれば予算も減りますので、同じ発想では二番煎じダメだと思い、お金ない分を脳みそ絞って、自分の研究とはあまり関係ないようなセミナーを色々聴いたりしていたら、たまたま「ミトコンドリア伝播」という現象に出会いました(参考文献6)。今までまったく知らなかった現象で、これは面白い!と感じ、すぐに取り掛かりました。初めはミトコドリアに関してほぼ素人でしたが、色々な知り合いに相談しながら、優秀な大学院生と一緒に勉強して、無事がん免疫との関連でデータをまとめ、Nature誌に投稿しました。そこからの編集部とのやり取りも2年近くかかり長かったのですが、昔読んだ漫画で「諦めたら試合終了ですよ」でしたので、何とか完遂でき、2025年1月に無事掲載に至りました(参考文献7)。

「インプットを増やして新しいことに挑戦しよう」
「諦めずに決して自分に限界を作らない」
「とはいえ自分1人できることは限界があるので、たくさん仲間を作りましょう」
ということをこの経験から学びました。

  参考文献

  1. Togashi Y, et al. Immunity 2020
  2. Togashi Y, et al. Sci Immunol 2020
  3. Togashi Y, et al. Nat Rev Clin Oncol 2019
  4. Togashi Y, et al. PNAS 2019
  5. Togashi Y, et al. Nat Immunol 2020
  6. Spees JL, et al. PNAS 2006
  7. Ikeda H and Togashi Y, et al. Nature 2025

私が研究を始めたモチベーション

 GefitinibというEGFRチロシンキナーゼ阻害剤をご存知でしょうか?私が医学部の学生中に本邦で世界に先駆けて承認された薬剤です。劇的に効果がある患者さんがいるのですが、当初はその理由がわかりませんでした。それが2004年に、劇的に効いた患者さんの腫瘍組織の遺伝子解析を行い、薬の標的であるEGFR遺伝子に変異があり、効果に関わることが明らかになりました(参考文献1-3)。これらは非常に簡単な実験系の論文ですが、肺癌治療を大きく変えた重要な論文です。マウスや細胞だけでなく、やはり実際の患者さんの臨床検体で証明されたことが大きいわけです。このことを知ったとき私はまだ研修医でしたが、非常に感銘を受け、自分も「gefitinibが著効するような患者さんに出会ったときにEGFR遺伝子変異を同定出来るようになりたい!」という想いで、研究に取り組み始めました。そういった中で2012年にがん免疫療法である抗PD-1/PD-L1抗体の臨床効果が報告されましたが(参考文献4, 5)、やはりEGFRチロシンキナーゼ阻害剤のように著効する患者さんとまったく効かない患者さんが存在します。このことから腫瘍微小環境にもっと本質的なものが眠っているはず…と思いました。臨床の先生方には忙しい日常臨床の中でも是非そういった疑問を持って、そして医師でない方もそのような臨床開発などを垣間見れる医学部ならではのチャンスでもあり、興味があれば是非私共の研究室の門を叩いてください!
参考文献
  1. Lynch TJ, et al. N Engl J Med 2004
  2. Paez JG, et al. Science 2004
  3. Pao W, et al. Proc Natl Acad Sci USA 2004
  4. Topalian SL, et al. N Engl J Med 2012
  5. Brahmer JR, et al. N Engl J Med 2012

着任時のご挨拶

 2021年4月より新たに教授を拝命いたしました冨樫と申します。当教室は1960年度~附属癌源研究施設代謝研究部門、同生化学部門に流れを持つ伝統ある教室で、初代小田教授、2代目関教授、3代目加藤教授、そして私で4代目の教授となります。
 私自身は2006年京都大学医学部医学科を卒業し、呼吸器内科医として働いている中で、肺癌のEGFRチロシンキナーゼ阻害剤の開発、特にEGFR遺伝子変異肺癌への劇的な効果を目の当たりにし、臨床的な疑問を解決でき患者さんの治療に繋がるようなトランスレーショナルリサーチ(TR)/リバーストランスレーショナルリサーチ(rTR)に携わりたいと考え研究の道に進みました。ヒトの臨床検体が最も病気の真実に近いという考えから、マウスや細胞の実験に加え、実際に患者さんの臨床検体を用いた癌のゲノム解析の研究から、近年注目されているがん免疫療法に関わる腫瘍微小環境の研究まで幅広く行ってまいりました。現在は腫瘍免疫・微小環境の基礎研究からTR/rTRを主なテーマとし、特に、不均一な組織の微小環境を明らかにするために、臨床検体の1細胞レベルの解析に取り組み、新たな知見を複数得ています(図、未発表データ)。伝統の中にもこのようなcutting edgeを取り入れた基礎研究からTR/rTRを推進したいと考えております(参考文献)。
 若い臨床の先生方があまり基礎研究を行わないことが本邦の問題として叫ばれていますが、私自身が臨床医でしたので、若い臨床の先生も興味を持てるような臨床的な疑問から派生した研究テーマが多いです。「研究ってハードルが高い」等の心配もあるかもしれませんが、私が研究を始めたのは、とりあえず臨床検体を解析してみたいという想いからで、呼吸器専門医を取った2012年です。そんな研究がモットーですので、気楽にフランクにアポイントメントなしでもお声掛けください。もちろん先生方の臨床的な疑問の持ち込みも大歓迎で、是非一緒にディスカッションしたいです。臨床経験はないけど、臨床に近いところで研究がしてみたい、という方も大歓迎です。医師でないメンバーもいますし、TR/rTRを通じて臨床の様子を垣間見ることができ、もちろん臨床のメンバーもいますので色々な話が聴けると思います。合わせて是非お声かけください!

2021年4月 冨樫 庸介

 
図:ヒト腫瘍検体のシングルセルシークエンスの1例
 参考文献
  • Togashi Y, et al. Treg cells in cancer immunosuppression - Implications for anticancer therapy. Nat Rev Clin Oncol 2019
  • Togashi Y, et al. PD-1+ regulatory T cells are activated by PD-1 blockade and contribute to hyperprogression of cancer. Proc Natl Acad Sci USA 2019
  • Togashi Y, et al. The PD-1 expression balance between effector and regulatory T cells predicts the clinical efficacy of PD-1 blockade therapies. Nat Immunol 2020
  • Togashi Y, et al. An oncogenic alteration creates a microenvironment that promotes tumor progression by conferring a metabolic advantage to regulatory T cells. Immunity 2020
  • Togashi Y, et al. Blockade of EGFR improves responsiveness to PD-1 blockade in EGFR-mutated non–small cell lung cancer. Sci Immunol 2020
  • Togashi Y, et al. Potentiality of multiple modalities for single-cell analyses to evaluate the tumor microenvironment in clinical specimens. Sci Rep 2021
  • 冨樫.新規がん免疫療法研究開発の「狂騒曲」.実験医学2018
  • 冨樫.シングルセルレベルでのT細胞受容体・B細胞受容体解析.実験医学増刊2019
  • 冨樫、西川.シングルセル解析技術の腫瘍免疫研究への応用~T細胞の解析を中心に~.
    実験医学増刊2019
  • 冨樫.免疫チェックポイント阻害剤の耐性メカニズム.実験医学増刊2020
  • 冨樫、長﨑.シングルセル解析から迫る腫瘍微小免疫環境の多様性.実験医学増刊2021
  • CareNetにがん免疫に関する記事の連載があり、非専門の方でも読みやすい内容になっています