薬剤耐性(AMR)は、感染症治療の根幹を揺るがす世界的な脅威であり、喫緊の国際的課題となっています。当分野では、AMRの出現・伝播メカニズムの解明に向け、分子疫学的手法やゲノム解析を駆使した基礎研究と、その知見を臨床・公衆衛生に還元する臨床応用研究を一体的に推進しています。
特に、ヒト・動物・環境を一つのエコシステムとして捉える「ワンヘルス」アプローチのもと、病院内外における薬剤耐性菌の動態を詳細に解析しています。
国内外の医療・研究機関と連携したサーベイランスを通じて流行状況をリアルタイムに把握し、迅速な感染制御へ繋げる体制構築に取り組むとともに、耐性遺伝子の水平伝播メカニズムやバイオフィルム形成の病態生理を解明し、新たな治療標的の同定を目指しています。
加速度的に進むグローバル化の現代において、薬剤耐性菌や新興・再興感染症が出現・拡散し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界的パンデミックを起こした現状を鑑みるに、洋の東西を問わず感染症リスクが増大していることは明らかです。
交通網の発達によって世界の距離が縮まった今、感染症は容易に国境を超え、近隣諸国のみならず遠い国々にも突如として出現します。局地的だった感染症疫学が現在進行形でダイナミックに変動している中、世界規模での感染症対策を推し進める必要性が年々高まっています。
日々の診療やサーベイランスで蓄積されている全国診療報酬情報データベース (NDB)、健康保険診療報酬情報データベース (JMDC)、WHO死亡統計 (WHO mortality database)、世界の疾病負荷 (GBD database)などのビッグデータを、国・医療/経済レベル・高齢化率など様々な視点によって層別化解析を実施することで、世界的な感染症対策におけるUnmet Needsを政策提言につなげていくとともに、予後予測や診療最適化に貢献することを目指しています。
AI・機械学習・アプリケーション開発など最先端のデジタル技術を感染症診療・研究に応用し、医療現場のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進しています。
特に、バーチャル・リアリティ(VR)を用いた感染対策トレーニングは当分野の特色の一つで、今後は拡張現実(AR)の応用に取り組むべく準備を進めています。さらに、スマートフォンアプリを活用したサーベイランスシステムの開発も手がけています。
これらはすべて「臨床現場での実装」を前提とし、ユーザビリティと高精度の両立を追求することで、医療の質向上とスタッフの負担軽減に貢献します。
薬剤耐性菌の増加と新規抗菌薬の開発停滞が深刻化するなか、当研究室では感染症に対する新たな治療戦略の開発に取り組んでいます。
臨床分離株の詳細な解析から得られた微生物学的知見を基盤に、既存薬の新規応用や新規化合物の探索を進めています。細菌のバイオフィルム形成・病原性発現・薬剤排出ポンプなど、耐性メカニズムに関わる分子標的を同定し、それらを阻害する化合物のスクリーニングを行っています。また、ファージ療法・抗菌ペプチド・免疫調節薬といった非従来型アプローチも視野に入れた研究を展開しています。
基礎研究から臨床応用へのシームレスな橋渡しを目指し、製薬企業・他大学との共同研究を通じて感染症治療の新たな選択肢の創出に貢献します。