🌱 環境社会学(Environmental Sociology)とは?
環境社会学とは、人間社会と環境の関係を社会学的視点から研究する学問である。環境問題の発生メカニズムや、それに対する社会の対応、政策、価値観、行動などを分析する。環境社会学は、「なぜ環境問題が発生するのか?」「社会はどう対応すべきか?」という視点で環境と社会の関係を分析する学問である。環境問題は科学技術だけでは解決できず、社会の価値観や行動を理解し、適切な制度や対策を作ることが不可欠だ。
🌱主なアプローチ
✅ 構造的アプローチ
経済、政治、産業などの大きな社会システムが環境問題をどう引き起こしているかを分析
例:「資本主義経済の成長が環境破壊を加速させているのか?」
✅ 文化的アプローチ 環境に対する価値観や倫理、ライフスタイルの変化を研究
例:「なぜある国ではリサイクルが普及し、他の国ではそうでないのか?」
✅ 行動学的アプローチ 個人や集団の環境意識と行動の関係を調査
例:「エコな行動をする人としない人の違いは何か?」
🌱主な研究テーマ
1️⃣ 環境問題と社会の関係
環境汚染、気候変動、森林破壊、生物多様性の喪失などの原因と社会的背景
産業や経済システムの変化が環境に与える影響
環境問題が社会の異なる層(富裕層・貧困層など)に与える影響の違い(環境正義)
2️⃣ 環境意識と行動
環境問題に対する人々の意識の変化(例:「エコ」や「サステナビリティ」への関心)
個人のライフスタイルと環境負荷の関係(エコバッグ、マイボトル、フードロス削減など)
社会運動(気候変動対策を求めるデモ、環境保護団体の活動)
3️⃣ 環境政策とガバナンス
国や自治体の環境政策の形成とその影響(例:炭素税、プラスチック規制)
企業の環境対策とCSR(企業の社会的責任)
国際環境協定(パリ協定、SDGsなど)とその実施状況
4️⃣ 環境と社会的不平等(環境正義)
環境汚染や自然災害の影響を最も受けるのはどの社会層か?
発展途上国と先進国の環境負荷の違いと責任問題
「環境難民」としての移民問題(気候変動による居住地喪失)
(記述に関する出典:一部ChatGPT4.0)
本研究室では環境社会学的なアプローチ(インタビュー・アンケート調査など)を用いて、統計解析(Excel, SPSS)・モデル構築にて社会変容・行動変容・意思決定に結び付く科学的知見を政策決定者・経営者・消費者などに示する。以下、研究事例を示す。
[1] 企業の環境配慮行動の促進のための駆動力に関する研究

環境問題の解決に向けた取り組みにおける企業の役割は今後、ますます重要性を増すと予想される。本研究では、中国の企業の環配慮行動の実態を把握し、さらに促進していくために効果的な駆動力を同定することを目的とした。中国の企業の特徴を把握するために、環境配慮行動の先駆者として日本の企業の環境配慮行動も研究対象とし、両国の結果を比較した。文献調査とアンケートを含むインタビュー調査で得られた情報が主な分析対象となる。対象企業は電気・電子機器業界である。インタビュー調査は、2010年4月―2010年6月、日本企業7社(専門家1名含む)、中国企業7社(専門家4名含む)に対して実施した。データの分析にはQDA(Qualitative Data Analysis)ソフトを用いて、日中電気・電子機器企業の環境配慮行動及びその駆動力を比較した。さらに、環境配慮行動の中でも特定の行動が、特定の駆動力の影響を受けていることを想定し、主成分分析とクラスター分析により、統計解析を行った。結果として、中国企業の環境配慮行動を規定する駆動力について、全体としては多くの企業は日本企業と同様に、「同業他社との競争」と「国内外の規制」に最も多くの影響を受けていることが分かった(右図, 出典:哈布尓, 亀山康子, 橋本征二, 森口祐一,第6回日本LCA学会研究発表会講演要旨集, 130-131 (2011))。
[2] カンボジア王国トンレサップ湖における水上集落住民のプラ廃棄物分別行動に関する研究
ごみの収集サービスがなく、使い済みプラスチックが海洋プラごみになりやすい地域には、住民参画型のプラ廃棄物分別回収システムの構築が必要である。本研究ではカンボジア王国・トンレサップ湖水上集落中の複数の家庭にインタビュー調査(アンケート含む)を行い、プラスチック製品の知識や、環境汚染の認識、分別回収への協力意識を明らかにした。さらに、水上集落の家庭から捨てられるプラ廃棄物の種類や量をごみ組成分析調査によって明らかにした。結果として、プラスチックごみの推定量1軒あたり1日180.91gであり、水上集落住民1人あたり1日40.21gのプラスチックごみを排出することが分かった。これは、アメリカ、中国、カンボジアの平均(それぞれ1人あたり1日340g、120g、70g)と比べて非常に低いものの、インドの1人あたり1日10gよりは多い値である (図出典:Habuer, Takeshi Fujiwara, Spoann Vin, Phat Chandara, Makoto Tsukiji, Clean Technologies and Environmental Policy (2024))。

[3]使用済み携帯電話のリサイクル行動に関する消費者意識に関する研究
使用済み携帯電話は貴重な資源を含む一方で、不適切な処理は環境汚染の原因となる。多くの国でリサイクルシステムが整備されているが、消費者の参加率は依然として低い状況にある。本研究では、中国の消費者を対象に、使用済み携帯電話のリサイクル意図に影響を与える要因を計画的行動理論(TPB)に基づいて分析した。621名の有効回答を最小二乗構造方程式モデリング(PLS-SEM)で分析した結果、態度、知覚行動制御、主観的規範といった理性的要因がリサイクル意図に正の影響を与える一方、プライバシーへの懸念や物への愛着といった感情的要因が負の影響を与えることが明らかになった。さらに、ファジーセット質的比較分析(fs-QCA)により、プライバシーへの懸念と物への愛着の両方が低い場合にリサイクル意図が高まることが強調された。これらの知見は、使用済み携帯電話のリサイクル促進策の立案に有用であり、今後はより効果的なリサイクルシステムの構築や消費者のリサイクル参加推進プログラムの開発に取り組んでいく予定である
(図出典:Du Yuxin, Habuer, Fujiwara Takeshi, Process Safety and Environmental
Protection 191, Part A, 218-233 (2024))。
