研究課題
セキュアなハードウェア設計に関する研究
私達は、日々、スマートフォンやパソコンを使って様々な情報をやり取りしています。その中には、パスワードや生年月日、住所などの個人情報も含まれます。社会に目を向けると、会社や国家の機密情報もインターネットを介してやり取りされています。そのような情報が意図せず第三者の手に渡ることを防ぐため、情報セキュリティ技術の重要性は極めて重要です。
あらゆる製品は、まずハードウェアがありその上でソフトウェアを動かすことで便利な機能を実現しています。つまり、私達がSNSや動画配信、スマートICカードなどの便利さを享受できるのは、高性能なハードウェアがあるからです。それは情報セキュリティでも同様です。暗号やそれを利用したユーザ認証などのセキュリティ機能は、安全なハードウェアがあって初めて機能します。私たちの研究室では、ハードウェアのセキュリティ設計に関する研究を行っています。

漏えい電磁波を悪用するサイドチャネル攻撃
暗号ハードウェアのサイドチャネル攻撃に関する研究
個人情報や機密情報の保護は重要であり、ICカードやICT機器、自動車等様々な製品で暗号技術が使用されています。一方で暗号解読技術も急速に進歩しており、代表的なものの一つにサイドチャネル攻撃があります。サイドチャネル攻撃は、暗号機能を組み込んだ製品から漏えいする電磁ノイズを利用した攻撃法で、スーパコンピュータで解読するのに何10年もかかる暗号がわずか数時間で解読できてしまいます。そのため、暗号機器がサイドチャネル攻撃に対して安全に設計することが重要となっています。
そこで私たちはサイドチャネル攻撃に関する研究を行っています。最近は機械学習や深層学習を利用した攻撃も出現しており、それらの攻撃法がどれほどの脅威であるかを把握することは重要です。また、脅威のレベルに応じて適切な対策を講じること、そのための設計手法を開発することは、実際にセキュアな暗号ハードウェアを適切なコストで市場へ供給することに繋がります。
これまでに暗号回路を組み込んだモジュールから漏れ出す電磁ノイズを、等価回路を使って予測する手法を開発し、サイドチャネル攻撃に対する安全性を暗号回路の設計情報から高精度予測することに成功しました。AIを利用したサイドチャネル攻撃への対策や、可能性のある新たな脅威の洗い出しにも取り組んでいます。
電磁的情報漏洩のモデリング
サイドチャネル攻撃以外にも、ハードウェアの電磁的挙動が原因の情報漏洩にはTEMPESTと呼ばれるモニタやキーボードからの情報漏洩もあります。あるいは、パワーハンマーと呼ばれる・・・もあります。このような攻撃の物理的なメカニズムを把握し、効果的で対策を低コストで実現するために、ハードウェアの電磁的挙動のモデル化が不可欠です。
そこで、私たちは電磁的な攻撃に関するハードウェアのモデル化に取り組んでいます。これまでに、暗号ハードウェアに対するサイドチャネル攻撃を予測する回路モデルを構築し、高精度予測に成功しています。近年は、ハードウェアに対して妨害波を意図的に照射する攻撃が話題となっています。そのような意図的な電磁波照射に対するハードウェアの挙動のモデル化にも取り組んでいます。
研究プロジェクト
科学研究費補助金
- 暗号ハードウェアの物理特性に基づく深層学習サイドチャネル攻撃に対する安全性評価法(基盤研究(C), 2023-2025年度)
- EMC設計とセキュア監視による安全・安心なIoT機器の設計及び運用の実現(基盤研究(B), 2022-2025年度)
- 信号対雑音比に基づく暗号ハードウェアへのサイドチャネル攻撃対策設計手法の開発(基盤研究(B), 2019-2022年度)
- IC設計情報に基づく暗号回路のサイドチャネル攻撃予測に関する研究(基盤研究(C), 2016~2018年度)
- 漏洩ポテンシャルに基づく暗号機器へのサイドチャネル攻撃に対する安全予測法の研究 (若手研究(B), 2014-2015年度)
その他の競争的研究費
- 暗号機器のサイドチャネル攻撃に対する安全設計に関する研究開発(総務省SCOPE地域ICT振興型, 2012-2013年度)
企業との共同研究・受託研究・技術指導
毎年5件程度
所有機器・シミュレータなど
測定・評価装置
- E5071C ENAベクトルネットワークアナライザ(300 kHz~20 GHz | Keysight Technologies)
- E5071A ENA RFネットワーク・アナライザ(300 kHz~8.5 GHz | Agilent Technologies)
- E5061B ENAベクトルネットワークアナライザ(5 Hz~3 GHz | Keysight Technologies)
- N9020A MXAシグナルアナライザ(10 Hz~26.5 GHz | Agilent Technologies)
- N5181A MXG RFアナログ信号発生器(10 kHz~6 GHz | Agilent Technologies)
- N9320B スペクトラムアナライザ(9 kHz~3 GHz | Agilent Technologies)
- E7403A EMCアナライザ(9kHz~6.7GHz | Hewlett-Packard)
- 54845A ディジタルオシロスコープ(8 GSa/s | Agilent Technologies)
- DSOX4034A ディジタルオシロスコープ(5 GSa/s | Agilent Technologies)
- 4EM500 近傍電磁界測定機(NECエンジニアリング)
- ALC-3N9053電波暗室(3m法 |トーキン)
シミュレータ
- Ansys HFSS
- Keysight ADS
- Cadence AWR Microwave Office