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 解説
Katsura T., Funakoshi K., Kubo A., Nishiyama N., Tange Y., Sueda Y., Kubo Y., Utsumi W., A large-volume high-Pressure and high-temperature apparatus for in situ X-ray observation, 'SPEED-Mk.II', Phys. Earth Planet. Inter., 143-144, 497--506, 2004. 戻る Full text

新しい超高圧高温その場X線観察装置 'SPEED-Mk.II' の開発

 大型放射光施設SPring-8のビームラインBL04B1には、超高圧高温その場X線観察装置 SPEED-1500が設置されています。SPEED-1500は大型の川井型超高圧発生装置で、25万気圧・1600℃という超高圧高温を安定して発生させることができます。SPring-8の高輝度白色X線と組み合わせることによって、様々な研究成果が生み出されています。
 しかし、SPEED-1500の限界もまた明らかになってきました。ひとつは、発生圧力です。SPEED-1500は超硬アンビルのためにデザインされています。さらに高い圧力を発生させるには、焼結ダイヤモンドアンビルの使用が必要です。しかし、焼結ダイヤモンドは硬いですが、非常に脆いので、不均等に加圧すると破壊してしまいます。SPEED-1500では荷重が増加すると、立方体加圧空間が水平方向と垂直方向とで不均一に縮むため、焼結ダイヤアンビルで安定に加圧することは出来ませんでした。
 もう一つの問題は粒成長です。SPEED-1500では粉末X線回折が行われていますが、「粉末X線回折」というのは、無限に多数の結晶粒がランダムな方向を向いていると仮定しています。一方、SPEED-1500では、試料体積が限られているため、X線ビームを通常0.1mm×0.05mm程度に絞ります。しかし、高温高圧下では試料の結晶粒が容易に合体して、結晶粒の数が激減してしまい、良質の粉末X線回折パターンを取得することが出来ませんでした。
 これらの問題を解決するため、新しい超高圧高温その場X線観察装置 'SPEED-Mk.II' を造りました。"Mk.II"と名づけたように、この装置は2号機であることを意識して造りました。すなわち、1号機の機能を決して損なわないで、様々な新機能を装備しています。
 一つ目の新機能は、精密ガイドブロックです。SPEED-1500では立方体加圧空間の水平方向と垂直方向の長さの差が、1000トンの荷重で0.14mmも変化してしまいますが、この精密ガイドブロックにより、SPEED-Mk.IIでは0.04mmに抑えられています。これにより、焼結ダイヤアンビルでの加圧が非常に安定しました。SPEED-1500では、焼結ダイヤモンドアンビルを用いても最高40万気圧の圧力を発生することしかできませんでしたが、SPEED-Mk.IIでは63万気圧という川井型装置として世界最高の圧力をマークしました。
 二つ目の新機能は、揺動機構です。揺動機構というのは、試料を回転させることにより、あたかも多数の粒が存在するように数少ない結晶粒に振舞わせる機構です。高圧装置では試料は装置に固定されているので、下の写真のように装置自体を回転させることになります。

SPEED-Mk.II -7 SPEED-Mk.II 13
図1 SPEED-Mk.IIによる揺動機構。総重量20トンの超高圧発生装置は、鉛直軸(κ軸と呼んでいる)周りに20度回転する。左の図はκ=-7°、右の図はκ=13°の位置で撮影したもの。

この揺動機構の威力は絶大です。まず、下の図はMgOの800℃での回折パターンです。この温度では、粒成長はしていません。


次の図は、1800℃での回折パターンです。多くの回折線が消失していることが分かります。


これを揺動させると、次の図のように多数の回折線が復活します。


揺動機構を用いれば、高温でも良質の回折パターンを取得することが出来ることが分かります。

このように、SPEED-Mk.IIにより、大型高温高圧X線回折の温度圧力範囲を、大幅に拡大することが出来るようになりました。

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