トルコ語についての簡単な話
Q1.トルコ語ってどこで話されている言葉ですか?
トルコ語はトルコ共和国という北はギリシャとブルガリヤ、南はシリア、イラク、イラン、アゼルバイジャンに囲まれた国(地図の赤い部分)で主に話されている言葉です。トルコ国内には様々な方言がありますがとくにイスタンブル方言のことをトルコ語と呼び、5千万人以上の話者がいます。方言というものを広く解釈するとトルコ語はチュルク諸語というトルコ民族の方言のひとつとして位置づけられます。チュルク諸語は極東から中央アジア経てバルカン半島にいたるまで非常に広範囲な地域で話されています。チュルク諸語の主なものとして中国のウイグル語、シベリアのサハ語、中央アジアのカザック語、キルギス語、ウズベク語、トルクメン語やアゼルバイジャン語などがあり、これらはトルコ語の親戚となる言語です。またチュルク諸語はモンゴル語やツングース語とアルタイ語族を形成しているのでトルコ語とこれらの言語は遠い親戚になります。またトルコ語はトルコ共和国のみで話されているわけではなく、近年では移民などでドイツを中心とするヨーロッパ諸国やオーストラリアやアメリカでもトルコ語が話されています。またトルコ語と系統的に関係がある言語(チュルク諸語)はヨーロッパからアジアまで広く分布していることがおわかりになると思います。
Q2.トルコ語と日本語は似ていると聞いたことがありますが本当ですか?
トルコ語は語順が主語-目的語-動詞となる点やいわゆる助詞や助動詞の付き方が日本語と非常に似ています。例えば文の構造は次のようになります。
Ben dun kitab-i al-di-m.(トルコ語の特殊文字は代替文字で表してあります)
私は 昨日 本-を 買う-過去-私
”私は昨日本を買った”
述語の構造に眼を向けてみると語幹と接辞が日本語と同じ付き方になるのがわかります。
yaz-dir-il-di
書く-使役-受け身-過去
”かか-せ-られ-た”
しかし名詞や述語の最後に人称語尾といって所有者や主語の人称を示す語尾が必要とされる点が大きな違いです。類似点はたくさんありますが細部をみると異なる点も多いです。語彙の観点からはほとんど共通する点はありません。
トルコ語 日本語
iyi いい
yamac 山地
cay 茶
moruk 耄碌
tepe てっぺん
su 水
一見上記の組み合わせは日本語とトルコ語が関係があるように思われますが、借用語であったり、偶然の一致であったりで同系であるとの証拠はまだ確定的ではありません。しかし文法や発音の点から日本人にとってトルコ語を学ぶことは英語等のヨーロッパ系の言語より易しいといえます。文字はラテンアルファベットが用いられ、文字と発音の遊離も少ないため書かれたままを発音すればほぼ間違いありません。
Q3.トルコ語を学びたいのですがどうしたらいいでしょうか。
東京外大と大阪外大にトルコ語学科があります。また言語学演習の授業科目の一つとして岡山大文学部でもトルコ語のクラスを毎年開講しています。卒業論文、修士論文で言語学的な観点からトルコ語を研究することができます。民間の団体では大学書林の語学コースにトルコ語があるようです。トルコ文化協会(〒604 京都市中京区室町通錦小路上ル 三洋室町ビル505号)も毎年トルコ語講座を初級から上級まで開講しています。日本ではあまり知られていませんが、トルコの学習機関に行って学ぶことも可能です。アンカラ、イズミル、イスタンブル(タクシムとシシリ)、ブルサにアンカラ大学付属の語学学校TOMERがありますし、イスタンブルのボアジチ大学では毎夏一ヶ月間の語学コースを行っています。(イスタンブルよりアンカラのトメルの方が施設、教員がよいとの現地の人からの情報あり。1999年12月)実用的な語学力を短期間で身につけるには直接現地で学ぶのがお薦めです。(アンカラのTOMERの住所:Ankara Universitesi TOMER, Ziya Gokalp Caddesi No: 18/1 Kizilay, Ankara TURKEY )
(ボアジチ大学の語学コースの住所:Director Turkish Language and Culture Program School of Arts And Sciences Bogazic University 80815, Bebek, Istanbul, Turkey
e-mail; language@boun.edu.tr
Fax (90)-(212)-265 71 31
Q4.トルコ語を学んで何の役にたちますか?
トルコ語はアルファベットを使うため文字のハンディが無く、簡単な文法さえ身につければすぐに簡単な読み物等に進むことができるので、語学を学ぶ楽しみが手軽に味わえる言語だと思います。
トルコを旅行するときトルコ語ができれば、ただでさえ親日的なトルコ人がさらに喜んでくれることと思います。ドイツを旅行するときも、ドイツ語を知らなくても困りません。
旅行先としてトルコは非常に行きやすい国です。まずイスラム世界の国であるけれども政教分離政策を採っているので、お酒を楽しむことができますし、女性も顔をベールで覆う必要はありません。
旅費はオフシーズンなら7万円ぐらいからの格安チケットがありますし関西と成田から週計四便の直行便がでています。物価が安いので滞在費もそんなにかかりません。
キリスト教の文化とイスラムの文化が交わった場所なので豊富な文化遺産があり、非常に興味深い場所です。
英語はできて当たり前の時代です。これからは英語ができる人もできない人も、さらにもう一言語知っていれば何かいいことがあるかもしれません。
やる気さえあればトルコでの就職が可能です。現地に行って旅行業、商売などのサービス業で働けるチャンスがあります。日本で自分が生かせない仕事をするよりはよっぽど充実した生活ができるかもしれません。
異文化に対する興味が広がります。我々日本人と全く異なる西欧系の文化を学ぶよりも、アジア的なものとヨーロッパ的なものを兼ね備えたトルコ人およびトルコ語に接することにより、日本人および日本語というものについて再認識する機会を与えてくれるきっかけになると思います。
Q5.トルコ語やトルコについての読み物を教えてください。
トルコについての本はたくさんありますが、もう内容的に古くなったもの、フレッシュな観点に欠けるものなど読む必要のないものも少なくありません。以下にあげるのは読んでも損のないものばかり(?)です。
『トルコのもう一つの顔』小島剛一著 中公新書 620円
言葉に興味がある人は次のものが是非お薦めです。トルコ共和国で話されているトルコ語以外の少数言語についての興味深い問題を扱っています。
『世界の都市物語 イスタンブール』 陳舜臣著 文芸春秋 2000円
歴史的なことも併せてこの本より知ることができる。イスタンブルに行く前に一読して史跡を回るとさらに興味が増します。
『ふだん着のイスタンブール案内』 細川直子著 晶文社 2300円
トルコの人々についての生き生きとした読み物。著者は当時イスタンブル在住の日本人女性で観光客として行くだけでは窺い知れない部分の記述がおもしろい。
『トルコ 旅と暮らしと音楽と』 細川直子著 晶文社 2200円
トルコ音楽という視点からトルコの人々の生活を描いている。トルコの音楽に見せられる日本人は多い。巻末にCDガイドなどもあり少しトルコで暮らした人にとってもなつかしい。
『トルコ民族主義』坂本勉著 講談社現代新書 660円
学者によるトルコの民族主義について一般の人向けにかかれたもの。少しトルコ人とつき合うと出てくる彼らの民族についての考え方を理解するために読んでおきたい本。
『オスマン帝国』鈴木ただし著 講談社現代新書 660円
オスマン帝国に関するものとしては鈴木ただし氏のものが入手しやすい。
『食はイスタンブルにあり 君府名物考』 鈴木ただし著 NTT出版 1300円
オスマン帝国の食文化というユニークな観点から書かれたもの。
『図解 イスタンブル歴史散歩』 鈴木ただし著 河出書房新社 1200円位
非常にきれいな写真をつかいまた、イスタンブルを知り尽くしたひとの何気ない写真の数々が旅情を誘う。旅の前に読むガイドブックとしても良い。
『アラーのヨーロッパ』 内藤正典著 東京大学出版 2800円
トルコ人のヨーロッパへの移民問題を扱ったもの。トルコ人は主にイスラム教を信仰するが移住先の文化としばしば衝突し、政治的、社会的問題となるばあいがある。この問題はヨーロッパにおいてのみならず、日本に来るトルコ人と日本人の間にも生じつつある。一番典型的に現れるのは日本人女性とイスラム教徒のトルコ人の結婚であろう。われわれ日本人側にイスラムに関する現実的な情報が少なすぎることと、客観的で日本語で読める情報がほとんどないことから問題になることが多い。その意味でこの本は客観的でかつ現実的な情報を与えてくれる。トルコ人とつきあっていく際には宗教の話題は避けて通れない。彼らをより理解するために是非読んでおきたい。
「TURKEY」 -Lonley planet survival kit - LONLEY PLANET 社 15 USD (1990年当時)
貧乏旅行をするときの定番は『地球の歩き方』であろう。これのトルコ編も悪くはないが、洋書の貧乏旅行ガイドも参考にすればもっとよい。とくに『地球の歩き方』にでていないような地方に行くときは非常に重宝する。
「トルコで私も考えた」 高橋由佳利著 集英社 897円
トルコ人と結婚している日本人からみたトルコの文化などが漫画を交えながらおもしろおかしく書いてある。なかなか鋭い人間観察で読んでいておもしろい。トルコですこし暮らしたことのある人の方が納得できることが多いかもしれない。
「トルコ イスタンブールは今日も賑やか」ヨーロッパシティガイド9 トラベルジャーナル社 1800円
トルコの大衆文化を知るためには一番適切な一冊。是非一読することを勧める。上記の本とは大違いである。今の所、日本にはこれ以上わかりやすい本はないであろう。これからトルコを知りたいと思う人、あるいは行って来て、振り返って楽しみたい人にも楽しめる。不足な点を挙げれば少し上品すぎるかもしれない。もっとディープなトルコもあるのではないかとも思う。
「イスタンブールのへそのごま」ふじい せつこ 旅行人 1600円
最新のトルコネタ本。イスタンブルで数年滞在したことのある著者がイラストで描くイスタンブルのトルコ人人間観察。最近はどうでもいいような旅行記やトルコ人交友録のような本が氾濫する中、ほのぼのとして、また楽しめる本である。女性の視点からの観察がおもしろい。トルコに行ったことがある人でも楽しめる。最近のお勧めの一冊です。
Q6.トルコ語の勉強の仕方を教えてください。
一例を挙げます。人それぞれのやり方があると思いますのであくまでも参考です。
1.独習される人は次の本を一通り読んでください。簡単な語彙集がついているので辞書は必要ありません。会話文があるのでここは一語一句確認しながら熟読します。
『トルコ語文法読本』 勝田茂著 大学書林
2.次に次の本を辞書を参考にしながら熟読してください。
『中級トルコ語詳解』 松谷浩尚著 大学書林
『トルコ語辞典』 竹内和夫著 大学書林
3.これでもう一通りの文法は終わりです。辞書を使いながらどんな本でも一応は理解できるはずです。
Q7.語学の勉強は退屈で長続きしません。どうしたらいいでしょうか。
1.一通りの文法を身につけたらどんどん現地の新聞や小説を読んでいきましょう。しかしその前にもしトルコに行ったことがないのなら、一週間程度でもいいので観光旅行をしておきましょう。大切なのはいかに強力な動機付けを行うかにあります。
2.歌が好きな人はトルコのCDやカセットテープを片っ端から買い集めましょう。そして歌を自分で訳してみましょう。トルコの音楽は伝統的なものからポップスまで様々なジャンルがあり、日本人の好みにも合います。
3.インターネットでトルコ語のニュースを読むのに挑戦しましょう。ただしトルコ人向けの掲示板はスラングも多いので上級者向きです。またトルコの新聞がウェブ上で読めます。
SABAH OnLine
Cumhuriyet Gazetesi
MILLIYET GAZETESI
5.短期でも長期でもトルコに留学してみましょう。
比較的獲得しやすいものとしてトルコ政府の奨学金があります。(問い合わせ先:〒150 東京都渋谷区神宮前2-33-6 トルコ共和国大使館)
岡山大学文学部には協定による短期・長期留学制度があります。詳細はお問い合わせください。
6.トルコに関するテレビや本を読んだり、ネットでの情報収集をとおして絶えず気持ちを盛り上げましょう。 地球遺産などの番組でも頻繁に特集をしています。毎月一回ぐらいはトルコについてやっているかなという程度にはなりました。 またトルコについての書籍は歴史に関する本を中心にたくさんの本が出版されています。
7.日本にいるトルコ人とお友達になりましょう。最近は地方都市にも結構住んでおられます。
8.旅行等で知り合ったトルコ人と手紙やメールのやりとりをしましょう。
筆まめな人々ですから、こちらから書くかぎり手紙の返事はよくくると思います。ただし一旦こちらからの返事が滞ると、なかなか返事をくれません。
Q8.トルコ語やトルコに関するインターネットのリンクにはどんなものがありますか?
TurkishあるいはTurkeyでgoogleやyahoo等で検索をかけるとたくさんでてくるので一度おためし下さい。
あとがき
はじめからトルコ語をやろうと思っていたわけではなく、入学した大学にトルコ語の授業があり、学んでみると比較的取っつきやすい言葉であった。他にトルコ語をやろうという学生もいなかったことが、なにか自分で新しいことができそうな気がして現在に至っています。私はまず言葉から入って、それからトルコ本国に行きましたが、旅をして言葉を勉強したいと思うようになった人の方が数としてはずっと多いように思います。
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