黄金の翼に祝福されて幸先の良いスタートを切ったはずだったが、街を少し出たあたりで、「この先9キロ、土砂崩れの復旧作業により全面不通」との看板を目にした。えぇ、大丈夫?この春、お目当ての峠が復旧作業により不通でガックリライドになったときのことが思い出された。しかし、私が進む方向に走って行く車があることに加え、迂回路をさっぱり知らないのでとりあえず行けるとこまで進むことにした。途中、手拭いを頭に巻いたおばさんに先が通れるか尋ねると、自転車なら全く問題ないと言う。ほっと胸をなでおろす。しかし、「不通」を示す不吉な看板はその後も次々あらわれ続けた。看板を目にするたび、青い海と空を堪能しながらも不安を感じた。
やがて、道端に学生風の自転車乗りが2人へたりこんでいた。軽く会釈だけして少し先に進むと・・・
なんと道幅いっぱいしっかり通行止め!
当惑するとともに途方にくれる。ところがその時、脇道から1台の軽トラが出てきた。
乗っていたのは、よく日に焼けた痩せたお爺さんだった。かなりご高齢のようである。私は、早速お爺さんに何とかならないものかと尋ねた。お爺さんは、しばらく思案した後、道を少し戻った所にある赤い鉄塔のあたりに迂回路があることを教えてくれた。
坂道を100mほど上らなくてはならないらしいが、上りは苦にならないので多少タイムロスになってもありがたい話である。正に地獄に仏。お爺さんは、私が迷わないようにと繰り返し繰り返し丁寧に道を教えてくれた。その口調は温かく思慮深さに満ちており、まだ経験の浅い若者を優しく諭す村の長老を想起させた。
私は老人に丁重に礼を述べて別れた後、さっそく道を引き返し、先ほど会った2人組の自転車乗りに迂回路のことを教えてやることにした。彼らが道端でへたっていたのは、迂回路が分からず途方に暮れていたのに違いないと思ったからだ。ところが彼らに声をかけると意外な答えが返ってきた。彼らはまだ通行止めの所まで行っていなかったが、自転車なら通れるだろうというのだ。彼らによると、私と同様、地元の人に自転車なら大丈夫と言われただけでなく、彼らを通り過ぎて先に行った自転車乗りが戻ってこないので問題ないはずだという。何だか狐につままれたような感じがしたが、迂回路でタイムロスするだけでなく、万一道に迷うと面倒だ。私は2人組に別れをつげると再び引き返し、自転車を持ち上げ、通行止めのバーを乗り越えて先に行けるか試してみることにした。
路面は砂地で石ころなどは全く無くロードでも全然大丈夫だ。恐る恐る先に進む。
すると、なんと50mも進まないうちに、綺麗な舗装路になったではないか!お爺さんはきっとすごく真面目で律儀な人であったのだろう。しかし、お爺さんには悪いが、迂回路行かなくて正解であった。さぁ、もうこれで何も心配することはない。心行くまで素晴らしい晴天の下、自転車を楽しむぞ。