岡山大学 顎口腔再建外科学

  • トップページ
  • サイトマップ

専門分野のご紹介

口腔外科では、口の中とその周囲に発生するあらゆる病気が診療の対象となります。当科はとりわけ、口唇口蓋裂 ・顎変形症などの治療に力を入れて高い治療成績をあげています。

口の中にできて何時までも消えないアフタや白斑、発赤、口の中やその周辺の痛み、口が開きづらいなど、口の中やその周囲で気になることがありましたらご相談ください。経験豊富な専門医が診療にあたります。

口唇口蓋裂の一貫治療

口唇口蓋裂とは

口唇口蓋裂とは、何らかの原因で胎生の初期に口唇と口蓋の癒合がうまくいかなかったために起こる先天性の病気です。原因としては、遺伝的な要因と母胎内での種々の環境的な要因の両方が関連して、ある一定の閾値を越えると口唇口蓋裂が発生する、いわゆる「多因子しきい説」で説明されています。日本人では、500−600人の赤ちゃんに1人の割合で発生するといわれています。

治 療

口唇口蓋裂治療では、一貫治療という考え方が大変重要です。一貫治療とは、患者様の成長、発育に応じて、適切な時期に適切な治療を行うことで、この治療は患者様の顎顔面の成長と発育を観察しながら、各専門知識を統合して治療方法と順序を検討し、これに基づいて治療計画を立案することが極めて重要です(右図)。また、この一貫治療は患者様の顎顔面の成長発育が終了するまで継続して行われます。

生後早期

出生後のすぐに、@哺乳障害A呼吸障害といった問題が見られることが多いです。

@哺乳障害は口蓋裂があるために口腔内を陰圧にできず、吸啜ができない(吸えない)ことが原因です。哺乳障害に対しては、哺乳床(ホッツ床とも呼びます)の装着と口蓋裂専用乳首を用いた哺乳指導を行っています。哺乳床は上顎の型採りを行って作ります。また、口蓋裂専用乳首には、チュチュの口蓋裂用、ピジョンのP型等各種メーカーから口蓋裂専用の乳首が発売されています。

A呼吸障害の多くは小下顎症が原因です。小下顎症により舌根が沈下する(後方へ落ち込む)ことにより上気道が閉塞する状態になります。ロバン症候群(ロバン・シークエンス)はこの典型例です。緊急避難的には、エアーウエイの挿入や気管挿管などが必要ですが、舌を前方へ誘導する目的で、同じく哺乳床装着により改善が図れることが少なくないです。

口唇・口蓋裂一次治療

(初回形成術)口唇形成術は、生後3か月、体重6kgを目安に行っています。当科では主に、ミラード法に小三角弁を加えた方法を用い、症例により三角弁法を用いることがあります。自然で、機能的な口唇を形成するために、特に口輪筋の配分、処理に留意し、さらに可及的に人中(鼻の下にある2本のすじ状の高まり)ができるように努めています。また、鼻の形態に関しては、曲がっている鼻中隔と鼻翼基部(小鼻の付け根)の位置の修正のため、鼻孔底部の種々の筋や弁の処理に工夫を加えています。両側性口唇裂の場合は、原則的には左右2回に分けて手術を行い、3か月おいて反対側の形成手術を行っています。

口蓋裂の場合、言葉の問題が重要な課題ですが、正常な言語機能を獲得するためには、鼻咽腔閉鎖機能を獲得することが第一です。この鼻咽腔閉鎖機能とは、軟口蓋が持ち上がる動きと、咽頭が狭くなる動きとを併せて鼻咽腔を閉鎖する運動です。この機能により、肺からの呼気を鼻へ漏れずに口の中にためて(口腔内圧を高めて)音声とすることが可能となります(上図)。鼻咽腔閉鎖機能を獲得するために、軟口蓋を持ち上げる筋肉の再建と、軟口蓋を咽頭へ近づけることにより閉鎖しやすい環境を作ることが手術において重要となります。手術時期に関して、口蓋裂の手術は、将来の顎発育に悪影響を残し、早期に行うほど顎発育への影響が大きいと言われています。一方で、2語文が出る前には手術を済ませておくことが正常な言語機能獲得のためには有利です。したがって、1歳6か月前後に行うようにしています。体重の目安は10Kgです。手術方法は、言語成績に有利なプッシュバック法を当科では主として用いています。

言語治療

口蓋裂の手術後3〜6か月頃より、言語発達に応じた言語訓練を行っています。3〜4歳頃までには鼻咽腔閉鎖機能を評価し、鼻咽腔閉鎖不全が認められる場合は、スピーチエイドやパラタルリフト・プロテーゼ等の発音補正装置を用いた訓練を行っています。この鼻咽腔閉鎖機能を評価するために、鼻咽腔ファイバースコープ、ナゾメータ等の専門の検査機器を用いています。また、平成14年より“言語外来”を開設し、言語治療の充実を計っています。当科で一貫治療を受けている口蓋裂患者様の約90%が、就学前の時期までに正常な鼻咽腔閉鎖機能と構音機能を獲得できるようになっています。 口唇、外鼻二次修正術(就学前)就学前の時点で、口唇、外鼻の形態を評価し、必要ならば修正術を行っています。この時期の修正は、顎発育に悪影響を及ぼさない範囲とし、あくまでも小修正で、最終的な修正は成長終了後に行います。

矯正治療

主として永久歯萌出後から本格的な矯正治療が開始されます。口唇口蓋裂の患者様によく見られる上顎劣成長に起因する咬合異常、顎変形は矯正科とタイアップして診察、治療を行っています。口唇口蓋裂に見られる問題は、上顎の前方と側方への発育不全と、顎裂と呼ぶ歯茎の欠損(側切歯と犬歯付近に見られる歯槽骨の欠損と歯の欠損)です。まず、上顎に矯正装置を付け、上顎の側方への拡大を行なっていきます。十分に側方へ拡大できた後、次の顎裂部骨移植術を行います。また、この時期には、必要に応じて上顎骨仮骨延長術や、上顎骨急速拡大等の手術的な手法を組み入れ、早期の咬合と、上下顎間関係の改善に努めています。

顎裂部骨移植術

口唇裂に伴って側切歯、犬歯のあたりに顎裂という歯槽骨の欠損が存在します。10歳前後に顎裂部へ骨移植(多くは腸骨からの移植です)を行うことにより、歯槽骨をつくります。埋伏して萌出してこない側切歯や犬歯の萌出誘導が可能となるだけでなく、側方拡大を行った上顎骨の永久保定ともなります。すべて自分の歯で綺麗で、かつ機能的にも良好な咬合(歯並び)形成が可能となり、現在では一貫治療の中で欠かせない治療法となっています。また側切歯、犬歯が欠損している患者様も多く、骨移植を行うことにより同部へのインプラント(人工歯根)の植立が可能となります。

咬合の形成、完成

主として矯正科において、咬合形成が行われます。最終的には第二大臼歯の萌出を待って、エッジワイズ装置を用いて緊密に咬合が仕上げられます。上下顎の発育に大きなアンバランスが見られる場合は、顎矯正手術により骨格と咬合の再建を行うことがあります。顎裂部に相当する側切歯等の欠損に対してはインプラントや歯の移植等を行っています。

口唇、外鼻二次修正術

最終的な口唇、外鼻形成術は成長が終了した時期、おおよそ高校生から大学生の時期に行います。必要ならば、耳介軟骨移植術や複合組織移植等により外鼻形成を行っています。また、両側性口唇裂の場合は、下唇反転有茎皮弁を用いた再建も行っています。

なお、17歳まで、本院における上記の治療(インプラント治療を除く)は自立支援医療(育成医療)が適応できます。