高梁川を渡り思考停止状態のままふらふら走っていると、うっかり道を間違え、清音駅の前に出てしまった。するとそこにUNEというパン屋があった。
UNEという美味しいパン屋が総社の方にあるとは聞いたことがあったが、それが清音駅の前にあるとは全く知らなかった。また、この小さな駅前で何か食べ物にありつけるとは思ってもいなかった。そのため、このコースアウトはまさに怪我の功名、否、今朝参拝した吉備津彦神社の神様のお導きとしか思えない!早速パンを3つ買いかぶりついた。どれも美味しかったが、特にイングリッシュマフィンがうまかった。
UNEを後にし、やがて吉備路自転車道に入った。ハンガーノックの危機は去ったものの、 パンを食べたのが店外の狭い日陰だったせいか、暑さによる消耗はあまり回復しなかった。ガーミンをみると、気温は39度!ガーミンは、日向では実際よりも高い温度を示すと聞いたことがある。しかし、炎天下を自転車でひた走る者の体感温度としては、むしろ妥当であるように思う。暑い、とんでもなく暑いぞ。時折、思わず首がカクリと垂れる。昨年、ひどい熱中症になる直前もこんな感じだった。午前中、私は首を垂れているヒマワリに同情した。しかし、この調子では私の方が早く逝きそうだ。そこで、五重塔を少し過ぎたところで、道端の水仙亭に飛び込んだ。
店内に入るとひやりと涼しい。まさしくオアシス、別天地!水仙亭は蕎麦屋で、そばソフトなるものを売っている。早速、そばソフトを頼む。水仙亭のそばソフトは私の好物である。濃厚な味で蕎麦の風味もしてなかなか美味い。店のおばさんが、ソフトと一緒に麦茶を出してくれた。 本日対応してくれたおばさなんは機械的な口調で早口。 やや無表情であまり客と目を合わさない。なので、てっきり無愛想な人かと思っていた。 それだけに、この親切は大変ありがたかったものの、少し意外であった。ところが冷たい麦茶を一気に飲み干したとたん、突然、顔から信じられないほどの量の汗が噴き出した。店内に客は少なかったが、さすがにこれには気が引けた。水仙亭は、小出うどんよりは余程気を使う。どうしていいかわからず、思わずソフトをもったまま外に出た。外に出た途端、熱風が押し寄せ、 今度はソフトがものすごい勢いで溶けだした。そのため、手にしていたカメラで写真を一枚撮ると、再び店内に退散する羽目になった。
入口近くの待ち客用の椅子の端っこに腰かけ、気兼ねしながらソフトを舐めた。先ほどのおばさんは、滝のように汗を流す私に嫌な顔一つせず、もう一杯冷たい麦茶を入れてくれた。本当にありがたいと思った。涼しい所で一休みすることで、かなり体調が回復した。 丁重に礼を述べ、再び帰路につく。さぁ、最後のひと踏ん張りである。
青々とした稲の大海原の中を独り走る。早朝の往路ではちらほら散歩する人の姿を見かけた。しかし、蜃気楼が見えるのではないかと思えるほどの強烈な日差しが降り注ぐ今、どの方角を見わたしても人影一つ無し。真夏の吉備路自転車道の交通量のピークは朝6時前なのかもしれない。
それでも、朝参った吉備津彦神社の御利益と先ほどの水仙亭でのありがたい気遣いのおかげであろう。昨年の様なひどい熱中症にはなることなく無事家にたどりついた。這う這うの体で家に入ると、テーブルの上の時計の針はちょうど2時を指していた。まだ日は高かったが、本日は仕事をせず、この手記を書くなどしてのんびり過ごした。