※月一回行う抄読会で取り上げた文献を紹介します。
2025年4月 文献紹介
造血幹細胞移植前の社会的孤立および社会的制約の増加と不安および抑うつ症状との関連
Shahrour L., et al. Greater Social Isolation and Social Constraints Prior to Hematopoietic Stem Cell Transplant Are Associated with Greater Anxiety and Depressive Symptoms, International Journal of Behavioral Medicine, 2024, 31(3), 341‐351.
doi: 10.1007/s12529-023-10232-8
【背景・目的】造血幹細胞移植は、血液がん患者にとって肉体的にも精神的にも負担の大きい治療法である。本研究では、患者が移植前に報告した社会的孤立、社会的制約、心理的苦痛の関係について調査した。
【方法】造血幹細胞移植患者の身体的および心理的症状の軽減についての効果を評価する多施設ランダム化比較試験のベースラインデータを使用した。ランダム化前のデータを用いて、同種または自家造血幹細胞移植前の患者に対して、社会的制約、社会的孤立、不安、および抑うつ症状を評価するためのデータを収集した。2 変量解析および重回帰分析を用いてデータを分析した。また、社会的孤立が、社会的制約による不安および抑うつ症状への影響を媒介しているかどうかについても検討した。
【結果】対象者 259 名のうち、43.6%が女性であった(平均年齢 57.42 ±SD 12.34 歳)。共変量を制御した重回帰分析では、社会的孤立(β=0.28、p < 0.001)と社会的制約(β= 0.12、p =0.070)の両方が不安と関連していた。抑うつ症状には、社会的孤立(β= 0.46、p < 0.001)のみが関連していた。社会的孤立は、社会的制約と抑うつ症状および不安症状との関連を媒介していた。
【結論】同種または自家造血幹細胞移植を待機する患者にとって、社会的制約と不安および抑うつ症状の負の関連性は、部分的には社会的孤立に関連している可能性がある。患者の心理的健康と社会的なつながりの感覚を支えるために、造血幹細胞移植の前および移植中の介入が必要である。
◇コメント
造血幹細胞移植前患者の心理的支援に焦点を当てた論文は稀少であり、本研究の強みであると考える。その一方で、社会的制約・社会的孤立・心理的苦痛(不安、抑うつ症状)の因果関係は不明であり、他の要因の影響についても考慮されていない点は本研究の限界である。交絡因子の検討や縦断研究による因果関係の検討を行うことで、より有用性の高い研究になると考える。本研究では、社会的孤立と社会的制約の定義がなく、研究方法や用いた尺度が適切であったのかについても疑問が残った。緒言において、造血幹細胞移植前に不安や抑うつ症状を生じていることによってどのような不利益が生じるのか、なぜ改善する必要があるのか、研究目的の根拠となる記載があれば、本研究の意義がさらに伝わりやすかったと考える。(担当:永井さん)
2025年3月 文献紹介
日本における医師と看護師の共感性の検討
Otsuka T., et al. Empathy Among Physicians and Nurses in Japan: A Nationwide Cross-sectional Study. Journal of general internal medicine, 39(6), 960–968,2024.
Doi.org/10.1007/s11606-024-08620-1
【Background / Aim】CEmpathy enhances patient outcomes, compliance, satisfaction, and care quality. However, existing studies overlook cultural and individual factors, and its importance is less emphasized in medicine than in nursing. This study aims to address this gap by comparing physicians’ and nurses’ empathy levels and identifying influencing factors through a nationwide survey.
【Method】This was an online nationwide cross-sectional study of physicians and nurses in Japan. The level of empathy was measured using the Jefferson Scale of Empathy (JSE). Multivariate linear regression analysis was used to evaluate the influencing factors.
【Result】5441 physicians and 965 nurses were analyzed in this study. The average JSE score of nurses (110.63) was significantly higher than that of physicians (100.05) (p<0.001). The analysis of related factors for empathy scores showed that increasing per age (+0.29, p<0.001), female (+5.45, p<0.001), having children (+1.20, p=0.009), and working in a 20-99 bed hospital (+1.73, p=0.046) scored higher. Participants whose mother was a physician (-6.65, p<0.001), whose father was a nurse (-9.53, p=0.008), or who practiced other health care practices (-3.85, p<0.001) had lower empathy scores.
【Conclusion】This study reveals the factors that influence the level of empathy of physicians and nurses and highlights the need to enhance the cultivation of empathy in medical education and clinical practice.
◇Comment
この研究では、日本における医師と看護師を対象とし、大規模なデータを集め、共感性に与える影響要因を検討した貴重な研究であった。看護師の場合、中央値が48歳と高いことに表れているように、オンライン調査で行われており、偏った対象者が回答している可能性は否めない。医師と看護師の背景要因でJSEを比較した結果では、年齢をはじめ多くの背景要因で有意な得点差を認めていた。最終的な回帰分析で医師と看護師を単一のグループとして分析していたが、それぞれで関連要因を検討していれば、さらに興味深い結果を得られたのではないかと考える。(担当:Xiさん)
2025年2月 文献紹介
CKD患者における低ナトリウム食自己管理介入中の自己モニタリングと自己効力感
Hoekstra, T et al. Self‑Monitoring and Self‑Efficacy in Patients with Chronic Kidney Disease During Low‑Sodium Diet Self‑Management Interventions: Secondary Analysis of the ESMO and SUBLIME Trials., 2023, International Journal of Behavioral Medicine, doi.org/10.1007/s12529-023-10240-8
【背景】CKD患者の自己管理では、低ナトリウム(減塩)食を摂ることが推奨されている。セルフモニタリングを活用することが有用とされるが、セルフモニタリングの実態、自己効力感との関係性は十分に検討されていない。
【目的】ESMOとSUBLIMEの2つの介入試験(3か月間)におけるセルフモニタリングツールの使用頻度、自己効力感とセルフモニタリングの頻度との関係について明らかにすること。
【方法】成人のCKD患者(eGFR ≧ 20-25 mL/分/1.73 m2)を対象とした介入研究(ESMO試験および SUBLIME試験)のデータを使用した。セルフモニタリングの頻度としては、オンライン食事日誌、家庭用血圧計、尿中ナトリウム測定装置[ESMO試験のみ]といったツールの使用頻度を用いた。自己効力感にはSelf‑Efficacy to Manage Chronic Disease(SEMCD) scale、Partner in Healthを用いた。
【結果】セルフモニタリングツールの使用頻度は、介入期間の3か月内でも低下していた。オンライン食事日誌が最も使用されていたモニタリングツールであった。自己効力感の低群・高群におけるツール使用頻度は、食事日誌:低群12日・高群8.5日、家庭用血圧計:低群11日・高群7.5日、尿中ナトリウム測定装置:低群8日・高群6日であった。ツール使用頻度と自己効力感の改善に有意な関連はなかった。
【結論】自己効力感が低い患者で、よりモニタリングツールを使用している結果であった。自己効力感を高めるための有効な介入方法を検討する必要がある。
◇コメント
本研究では、自己管理行動の変容過程(ツール使用頻度)に着目し、介入による変化を示したことは意義深い知見であった。CKD患者においてはセルフモニタリングを継続して行うことが難しいことを示唆しており、さらに有用な介入方法を考える必要性を感じた知見でもあった。一方で、理論上、セルフモニタリングは自己管理行動を強化するための行為であり、自己効力感を高める行為であるのか、研究の着想に疑問が残った.今後、自己管理行動に繋がるメカニズムなどさらなる解明が期待される.(担当:梶原さん)
2025年1月 文献紹介
健康リテラシーと自己効力感の関係性の評価:血液透析患者
Kazak, A et al. Evaluation of the relationship between health literacy and self-efficacy: A sample of hemodialysis patients. The International Journal of Artificial Organs 2022, 45(8), 659-665.
【背景・目的】Health literacy and self-efficacy have not been studied in the field of hemodialysis in Turkey. The aim of this study was to evaluate self-efficacy and health literacy of patients undergoing hemodialysis, to investigate the relationship between health literacy and self-efficacy, and to determine the factors affecting self-efficacy.
【方法】A cross-sectional study involving 198 hemodialysis patients from two state hospitals in Turkey. Data was collected through face-to-face interviews and analyzed using descriptive statistics, correlation, and regression analysis.
【結果】The mean age of the patients was 59.7(SD 16.3)years. Of the patients, 46% were primary school graduates, and 63.6% reported having other chronic diseases. The mean health literacy and self-efficacy scores were found to be 79.43(SD 26.09)and 23.98(SD 7.42), respectively. The results showed that the self-efficacy scores of the patients increased as the general health literacy scores increased, with a strong linear correlation between these variables (r=.712; p˂ .001). Patients with advanced age, low educational level, and widowed patients had lower self-efficacy and health literacy scores than others.
【結論】Higher health literacy positively significantly improves self-efficacy in hemodialysis patients.
◇コメント
The findings reveal that health literacy accounts for 54.6% of the variance in self-efficacy, highlighting a significant relationship between the two. However, the generalizability and scientific validity of this conclusion require further verification and in-depth exploration in future research. Future studies may employ multilevel regression analysis to more precisely evaluate the specific impact of health literacy on self-efficacy, controlling for related influencing factors. Additionally, efforts should be made to optimize self-efficacy and health literacy measurement scales tailored to the research population. This would improve the applicability and accuracy of the instruments, enabling a more comprehensive and accurate reflection of the actual self-efficacy and health literacy levels of the target population. (担当:Gengさん)
2024年12月 文献紹介
栄養リスクのある入院患者における個別化栄養支援:ランダム化臨床試験
Schuetz P et al., Individualised nutritional support in medical inpatients at nutritional risk: a randomised clinical trial. Lancet 2019 Jun 8;393(10188):2312-2321.
doi: 10.1016/S0140-6736(18)32776-4.
【背景】ガイドラインでは、栄養不良のリスクがある入院患者に対して、入院中の栄養支持の使用を推奨しているが、この推奨を支持する証拠は不十分である。
【目的】たんぱく質およびエネルギー目標値を達成するための個別化栄養支持が、栄養リスクのある内科的入院患者において有害な臨床転帰のリスクを減少させるという仮説を検証すること。
【方法】EFFORT(Effect of early nutritional support on Frailty, Functional Outcomes, and Recovery of malnourished medical inpatients):医師主導の非盲検多施設共同研究。スイスの8つの病院から栄養リスクがあり、入院期間が4日以上と予想される入院患者を募集した。個別の栄養サポートを受ける群(介入群)と標準的な病院食を受ける群(対照群)に無作為に割り付けられた。無作為化は、栄養不良の重症度に応じて層別化された。介入群では、経験ある登録栄養士により個別の栄養サポート目標が設定され、入院後48時間以内に栄養サポートが開始された。複合主要エンドポイントは、30日後までの死亡・集中治療室への入院・再入院・重大合併症・機能低下であった。
【結果】1050例が介入群に、1038例が対照群に割り付けられた。介入群の79%でエネルギー目標が、76%でたんぱく質目標が達成された。30日後までに臨床的に有害な転帰を経験した患者は、介入群では23%、対照群では27%であった(OR 0.79[95%CI 0.64-0.97]p=0.023)。死亡した患者は、介入群で7%、対照群では10%であった(p=0.011)。
【結論】栄養リスクのある入院患者において、入院中の個別栄養支持は、標準的な病院食と比較して、生存を含む重要な臨床転帰を改善した。これらの知見は、栄養リスクのある患者には個別の栄養支持を導入するという概念を強く支持している。
◇コメント
栄養支持の有益な効果は強固であり、本研究では患者の年齢、性別、栄養リスクの重症度、および基礎疾患は同等であった。研究の限界点として、観察期間の設定や介入群の栄養充足率の差があることがあるが、本研究は、病状とは無関係に栄養リスクを入院時に体系的にスクリーニングし、リスクのある患者には個別に栄養支持を導入するという概念を強く支持しているものと思われる。(担当:庄野さん)
2024年11月 文献紹介
集中治療室における学際的連携リハビリテーション実践のための医療政策のインパクト
Yasaka T et al., Impact of the health policy for interdisciplinary collaborative rehabilitation practices in intensive care units: A difference-in-differences analysis in Japan. Intensive Crit Care Nurs. 83, 103625,2024.
DOI: 10.1016/j.iccn.2024.103625
【背景】ICU の早期リハビリテーション(RH)は有益だが、重症成人患者にルーチンで行われていない。2018 年 4 月に日本政府は多職種協働の要件を満たし、ICU RHに関する専門的チームをもつ病院に対し金銭的インセンティブを提供する政策を打ち立てた。
【目的】政策が ICU RHの実践の改善に関与したかどうかを明らかにすること
【方法】日本の全国入院患者データベースと病院統計データを用いて、2016 年 4 月~2019 年3月に入院二日以内に ICU に成人患者を入室させた病院を特定した。病院レベルの傾向スコアマッチングを用いて、政策導入をした108の介入病院の患者 101203人と、政策導入をしていない 108 の対照病院の患者 106703 人のマッチドコホートを作成した。その後、差の差分析を行い、介入群と対照群の政策導入前後の ICU 入室2日以内早期 RH を行った患者割合の変化を測定した。
【結果】介入病院(介入群)において、早期 ICU RH を行った患者は 10%から政策導入後 36%に増加した。対照病院(対照群)は 11%から 13%に増加した。2 群間の早期 ICU RH を行った患者割合の差の差は、24%(95%CI 19-29%)だった。
【結論】早期 ICU RH は専門的チームと多職種協働を行う施設に対する金銭的インセンティブによって推進される。 この知見は、早期 ICU RHのための追加負担をサポートする戦略を考えている病院管理者、専門団体、他国の政策立案者にとって意味がある。将来の研究は、早期ICU RH の長期的効果や観察された改善の持続性を検討する必要がある。
◇コメント
本研究は、集中治療後症候群(PICS)の課題の低減を目指して、根拠のある ICU 早期 RH を組織的 に行えるような政策の評価を、大規模な DPC データを用いた DID により明らかにした、意義深い論文であった。主要評価項目は、加算割合で、副次評価項目の臨床アウトカムへの影響は認められなかった。今後は、PICS を視野に入れた患者アウトカムへの効果の検証が期待されること、DB 研究の限界である重要な未測定交絡の課題と結果への影響、適切かつ取得可能で感度のよりアウトカム指標の重要性と課題について協議した。また、DID の看護領域への応用についても協議し、有益な時間であった。(担当:岩谷さん)
2024年10月 文献紹介
進行肺がん患者における患者中心のケアと緩和ケアの関連性
Scheerens C et al., Association of Patient-Centered Elements of Care and Palliative Care Among Patients with Advanced Lung Cancer, Am J Hosp Palliat Care 2023, 40(1), 18-26.
DOI: 10.1177/10499091221130944
【背景・目的】肺がん患者における緩和ケアの具体的な要素は不明である。本研究は、緩和ケアの重要な要素と考えられる症状マネジメント薬の処方、アドバンスド・ケア・プランニング(ACP)、ホスピスへの登録、在宅医療(HHC)受給を取り上げ、緩和ケアおよびその提供環境(入院、外来)で異なるのか、その関連を検討することを目的とした。
【方法】2007~2013年に診断された進行期(IIIB/IV期)肺がん患者を対象としたレトロスペクティブなコホート研究。米国の退役軍人健康管理局(VA)医療システムのデータが用いられた。共変量は、社会的属性、合併症のスコア(CCI、FCI)、腫瘍の特徴、診断や治療を受けた施設であった。逆確率重み付け法による傾向スコアを用いて共変量を調整し、緩和ケアとケアの具体的要素の関連が検討された。
【結果】23142人の患者のうち、57%が緩和ケアを受けていた。緩和ケアを受けた患者は、症状マネジメント薬の処方が増え、ACPが増加し、HHCが減少していた。外来での緩和ケアは、入院での緩和ケアを受けた患者と比較して、オピオイド薬(aOR = 2.54)および抗うつ薬(aOR = 1.76)の処方が増え、ホスピスへの登録(aOR = 2.09)が増加し、関連していた。
【結論】緩和ケアは、特に外来で実施された場合に、症状マネジメント薬の使用、ACP、およびホスピス登録の増加と関連する。これらのケアの要素は、緩和ケアに関連した転帰の改善に寄与する潜在的なメカニズムを明らかにし、専門医以外の臨床医に対して緩和ケアアプローチの枠組みを提供するだろう。
◇コメント
同データで外来での早期緩和ケアが生存率を改善することが示されており、大規模データを用いて緩和ケアの具体的な介入要素を検討しようとする貴重な研究であった。抄読会の時点では、傾向スコアを用いた論文ということで、暴露とアウトカムの関係(緩和ケアによるアウトカムへの効果)を検討したものと捉えていた。まとめをすることで、この論文の内容を適切に読み取ることに繋がった。手段である分析方法(傾向スコア)への関心が、論文内容を適切に評価することを妨げたと考える。このような気づきとなった貴重な抄読であった。(担当:森本)
2024年9月 文献紹介
EMDR治療プロトコルを用いたアトピー性皮膚炎患者の掻破行動の軽減:パイロットスタディ
de Veer MR., et al. Reducing scratching behavior in atopic dermatitis patients using the EMDR treatment protocol for urge: A pilot study. Frontiers in Medicine, 2023.
Doi:10.3389/fmed.2023.1101935
【背景・目的】アトピー性皮膚炎ではかゆみとそれに伴う掻破行動がよくみられる。掻破することで皮膚は傷つき、それがかゆみを悪化させる。このかゆみと掻破のサイクルは患者のQOLに大きな影響を与える。薬物治療に加え、心理学的介入も掻破行動の軽減に有望な可能性がある。本研究の目的は、アトピー性皮膚炎患者の掻破行動に対するEMDR治療のプロトコルの効果を検証すること。
【方法】6人の対象者(ベースラインの期間がバラバラ)に日中の掻破はモバイルを使って登録し、夜間の掻破はスマートウォッチを使用して記録するよう依頼した。実験期間は計46日であった。介入はEMDRのプロトコルを使用した2回のセクションで構成された。疾患活動性、QOL、セルフコントロールについても評価した。
【結果】1人が脱落。視覚的分析ではすべての患者で掻破行動が時間の経過とともに減少していることが示唆された。治療の効果量は中程度であった。ベースラインの期間中、掻破行動は変化し、わずかに減少傾向であった。疾患活動性は経時的に減少し、セルフコントロールとQOLは治療後に改善していた。夜間の掻破については変化がなかった。
【結論】日中の掻破行動に関する視覚的分析、疾患活動性、QOL、セルフコントロールの結果は有望であると思われる。これらの知見は掻破行動に悩む他の皮膚疾患に対する新たな介入研究に繋がる。
◇コメント
アトピー性皮膚炎患者のかゆみに効果がある可能性のある介入方法としてEMDRを知れた点、シングルケース実験デザインの方法と分析の基本を知れた点で有用な文献であった。ただ、Introductionでアトピー性皮膚炎にEMDRを用いる必要性を述べていない点、マルチベースラインデザインを用いた意義が結果や考察で触れられていない点など構成面で気になる部分もあった。今回はパイロットスタディのため対象者数については言及する必要がないかもしれないが、対象者の背景に関する情報が不足しており、結果の解釈や今後の研究に向けての検討が不十分になる点がやや残念であった。本研究に限ったことではないが、介入による長期効果が確認できておらず今後の課題である。短期的な効果ではあっても、心理的介入により掻破行動の減少を明らかにできたことは意義のあることであり、今後のさらなる研究に繋がる可能性がある。(担当:平見さん)
2024年7月 文献紹介
中国北部の看護師における痛みに対する共感、知識と態度の関係の検討:横断的研究
Wu L et al. Evaluating the relationship between pain empathy, knowledge and attitudes among nurses in North China: a cross-sectional study. BMC nursing, 22(1), 2023,411.
https://doi.org/10.1186/s12912-023-01577-2
【背景・目的】効果的な疼痛管理は看護師の痛みに対する知識と態度、痛みへの共感と関係していることが示唆されているが、中国における報告は限られている。本研究では、中国北部における看護師の痛みに対する知識と態度、痛みへの共感の実態を明らかにし、痛みへの共感に影響する要因、痛みに対する知識と態度、痛みへの共感との関係を検討することを目的とした。
【方法】調査は2023年2-4月に、中国山西省で勤務する1年目以上の看護師を対象とした。WeChatというツールを使用して対象者をリクルートし、10施設で質問紙調査を実施した。痛みに対する知識と態度の評価には、Knowledge and Attitude Survey Regarding Pain (KASRP)を用いた(41項目、正答率が80%以上で適正と評価)。痛みに対する共感は、Empathy for Pain Scale(EPS)を用いた(48項目、5件法)。関係性は、ピアソン積率相関係数、重回帰分析を用いて検討した。
【結果】177名の看護師が参加し、分析対象となった。 KASRPの平均正答率は51.9%±9.4%、EPSの平均点は2.78±0.78であった。痛みに対する知識と態度(KASRP)と痛みへの共感(EPS)の関係はr=.242(P<.05)であった。痛みへの共感には、共感訓練を受けた経験 (β =.218, p = .001)、外傷や深刻な痛みの経験 (β =.174, p=.012)、否定的な感情 (β=-.152, P=.023)が関連していた。
【結論】中国(北部)における看護師の痛みに対する知識と態度は、正答率から適正とは言えない結果であった。痛みに対する知識と態度と痛みへの共感との関係は弱かったが、痛みへの共感にはトレーニング経験などが関連していることが示された。
◇コメント
看護師の痛みへの共感と痛みに対する知識と態度との関係を検討した報告は限られており、貴重な知見であった。ただし、リクルート方法がスノーボール方式を用いており、対象者が偏っている可能性は否めない。本研究では、共感の評価に痛みに特化したEPSを用いていたが、この尺度を用いた根拠は明記されていなかった。共感の定義や評価には、様々な議論があり、さらなる検討が必要と考えられた。
また痛みに対する知識と態度、痛みへの共感は弱い相関関係を示したが、この2変数の関係を検討することの意義についてさらに検討が必要であると考えられた。(担当:Xiさん)
2024年6月 文献紹介
心臓リハビリテーションに関する病気認知と信念が冠動脈疾患患者とその介護者のQOLに及ぼす影響の縦断的評価
Thomson et al. Longitudinal evaluation of the effects of illness perceptions and beliefs about cardiac rehabilitation on quality of life of patients with coronary artery disease and their caregivers, 2020, Health and Quality of Life Outcomes, 18(1),158.
https://doi.org/10.1186/s12955-020-01405-0
【背景・目的】冠動脈疾患治療後の心臓リハビリテーション(CR)では、患者だけでなく、介助者の病気認知、CRに関する認知がQOLに影響を及ぼし得る。本研究では、6ヶ月間の追跡調査を行い、①CR開始時と6ヶ月時点の患者と介助者の病気認知、CRに関する認知、健康関連QOLの違い、②CR開始時の患者と介助者の病気認知、CRに関する認知が6ヶ月後のQOLを予測するか検討を行った。
【方法】2014-2015年に、45歳以上のCR施設に通う患者とその介助者を対象として調査した。CR開始時(T1)と6ヶ月の時点(T2)で、健康関連QOL(SF12v2:身体的・精神的)、病気認知(BIPQ:8次元)、CRに関する認知(B-CRQ:4因子)を用いて評価した。対応のあるt検討を用い、患者と介助者のデータは、行為者-パートナー相互依存モデルに基づいて検討した。
【結果】患者56名のうち、40名(組)において調査を完了した。①T1とT2で、患者・介助者それぞれ、病気認知の“病気への心配”、身体的QOLに違いがあった。②患者の “病気への理解”“CRへの障壁”は6ヶ月後の患者の身体的QOLと関連した。患者の“病気への心配” と介助者の “感情表象”が患者の6ヶ月後の精神的QOLと関連した。6ヶ月後のQOLに対して、患者と介助者(2者間)の病気認知,CRに関する認知の影響はなかった。
【結論】CR開始時と6ヶ月時点で病気認知の一部の次元に違いがあり、身体的・精神的QOLを予測することを示したことから、CR患者のQOLの改善を検討することにおいて、患者とその介助者の病気認知に焦点をあてる必要性が示唆された。
◇コメント
患者とその介助者に焦点をあて、認知がQOLへどのように影響するのか、縦断的に調査した報告は希少であり、貴重な知見であった。行為者-パートナーモデルに基づいて定量的に検討しておりユニークな研究であった。一方で、CRへの参加率が高いとは言えない状況において、QOLがアウトカムとなった背景、モデルに関する詳細な分析方法が不明であり、疑問が残った。介助者の背景情報が示されるとさらにわかりやすい論文になると考えられた。(担当:梶原さん)
2024年5月 文献紹介
植え込み型除細動器患者の医療利用削減における遠隔治療の価値
Steenbergen G-van et al, The value of remote care in the reduction of healthcare utilization in implantable cardioverter-defibrillator patients, Pacing Clin Electrophysiol。2021;44:2005–2014。doi: 10。1111/pace。14390
【背景・目的】ICD患者を長期追跡し、遠隔治療が医療利用を減少させるというエビデンスはほとんどない。植込み型除細動器(ICD)患者を3年間追跡し、従来診療と遠隔診療による医療利用率を比較した。
【方法】2016年から2018年にかけて、単室または複室のICDまたは心臓同期療法-除細動器(CRT-D)を受けた患者を対象にレトロスペクティブ・コホート研究を行った。遠隔治療を受けた患者と、従来の治療を受けた患者(対照群)とを比較した。従来の診療は、年2回の対面でのフォローアップ診療、遠隔診療は年2回のフォローアップ診療のうち1回を対面で行うものである。主要評価指標は総医療利用率であり、心臓フォローアップ受診、ICDフォローアップ受診、電話相談、救急受診、入院の複合として総医療利用率とした。副次的評価指標は、個々のケア活動と1年間の全死因死亡率であった。
【結果】合計497例の患者が研究対象であった。198例は従来の診療を受けた対照群で、299例が遠隔診療群であった。平均追跡期間は815±279日であった。遠隔診療群では、対照群と比較して、総医療利用率が有意に低かった。3年間の追跡期間中その違いは持続していた(IRR = 0。78, 95% CI [0。67 to 0。92], p< 。01)。1年間の全死因死亡率は、遠隔診療群と対照群で同程度であった(それぞれ3。0%,5。5%, p= 。29)。
【結論】従来の対面診療によるフォローアップと比較して、遠隔診療を含めたフォローアップは、ICD/CRT-D植込み後3年まで持続して、計画外の医療利用率を減少させていた。遠隔診療は、計画的治療(対面診療)だけでなく、計画外治療診療を減少させる価値が示された。
◇コメント
日本において、遠隔モニタリング加算として心ペースメーカー指導管理料が算定されるようになった。本研究では、従来診療群と比較し、遠隔診療群(遠隔ケアプログラム利用群)の総医療利用率が低下しており、1年間の全死因死亡率が従来診療群と差がないという結果であり、遠隔診療の有用性を示す意義ある報告と考える。調査がなされたオランダでは、看護師が遠隔診療に関わっており、本結果に看護師の活動の成果も含まれていることは大変興味深い。ただし本研究は、後方視的に遠隔診療群と従来の診療群で検討されており、対象者の重症度や合併症などの結果に影響しうる要因が調整されておらず、結果の解釈には慎重になる必要がある。また、本研究では総医療利用率の比較により遠隔診療の有効性が示されていたが、遠隔診療導入による費用対効果についても検討していく必要があると考える。(担当:畑さん)
2024年4月 文献紹介
慢性疾患の自己管理: 教育とサポートのニーズに的を絞って
Bartlett SJ, et al:Self-management across chronic diseases: Targeting education and support needs Patient education and counseling, 103(2),2020. doi.org/10.1016/j.pec.2019.08.038
【背景】Half of all adults in Canada have a chronic illness. Chronic illnesses result in self-management (self-management tasks) due to physical, emotional, and social influences. Increasing confidence in self-management skills (self-efficacy) improves the ability to self-manage. Self-management needs and abilities differ depending on the disease, its impact on daily life, education, place of residence, etc., and the self-management support needed also differs.
【目的】(1) To identify the types of self-management tasks and groups with different self-efficacy to perform these tasks. (2) To describe relevant characteristics and preferences for self-management education and support.
【方法】The survey was conducted online, including on websites. The target population was persons aged 18 years or older with at least one physical or mental chronic illness. The survey included background factors, according to the Dutch Patient Assessment of Self-management Tasks (PAST) scale as the item pool to make the self-management scale, degree of confidence in the self-management scale’s items to assess self-efficacy, and another patient. The original indices were used for preferences for education and support. Hierarchical cluster analysis was performed on the scores of the self-management tasks and self-efficacy, and the characteristics of each group were examined by chi-square test, ANOVA, etc. between groups, and nominal logistics was performed.
【結果】(1) Cluster analysis (n = 247) revealed three groups: vulnerable self-managers with the highest task frequency and lowest self-efficacy (n = 55), confident self-managers with the lowest task frequency and highest self-efficacy (n = 73), and moderate with intermediate task frequency and self-efficacy needs self-managers (n = 119). (ii) Compared to the confident group, vulnerable self-managers were more likely to have disease-related employment disability or unemployment, lower levels of education, diagnosed emotional problems or hypertension, and higher rates of multimorbidity. They also participated less frequently in self-management programs and had different support preferences.
◇コメント
The use of cluster analysis in this study was an interesting method for obtaining insights into patient characteristics. The characteristics of self-efficacy for self-management tasks among patients with chronic illnesses and the types of social resources and educational content they tended to seek according to these characteristics were useful for understanding the needs of patients, and were useful for considering assistance. On the other hand, the bias in the diseases covered could affect the differences in the self-management tasks. The low reliability coefficients of the scales used to assess self-management tasks and the use of original indices to assess self-efficacy, patient education, and preferences for assistance may have limited the generalizability of the results. (In charge of paper introduction: Ms. Geng)
対象が幅広い年齢層であること、感情的な問題を抱えていることを慢性疾患としてよいか、統計解析における欠損値の問題、自己効力感に関するアイテムプールの妥当性など、研究の内的妥当性についての議論がなされた。
2024年3月 文献紹介
看護師のキャリア停滞予測モデルの開発:横断的研究
Zhu&Li:Developing a prediction model of career plateau for nurses: A cross-sectional study,Nursing Open,10:7631-7638, 2023.Doi:10.1002/nop2.2002
【背景・目的】勤続5年以上の看護師を対象に調査を行い、看護師のキャリア・プラトーに関する現状を把握するとともに、キャリア・プラトーに影響を与える要因を分析し、看護師のキャリア・プラトーの発生予測モデルを開発することを目的とした。
【方法】中国北京市の6つの3次病院の正看護師で、勤続年数5年以上の2680人を対象とした。社会人口統計学的・職業的データ、キャリア・プラトー、個人的影響要因、組織的サポートの4つを含む調査を行った。解析には、多変量ロジスティック回帰分析を用い、オッズ比から影響因子を示した。また、ROC曲線を用いてキャリア・プラトーの予測モデルを作成した。
【結果】キャリア・プラトーに達した看護師は34%であった。ロジスティック回帰分析の結果、年齢、職位、専門看護師の有無、生活満足度、組織的支援、個人的能力、選択傾向がキャリア・プラトーに影響を与える要因であることが示された。高齢の看護師は若い看護師よりもキャリア・プラトーに達する可能性が高く、また、自分は個人的能力が高く、自分の仕事をあまり評価していないと考える看護師は、キャリア・プラトーに達する可能性が高いことが示された(p< 0.05)。本研究で構築したキャリア・プラトー予測モデルのAUCは0.862であり、高い識別性を示しており、モデルの検証結果が良好であることを示していた。
【結論】看護師のキャリア・プラトーの予測モデルにより、キャリア・プラトーに達するリスクの高い看護師を早期に特定することが可能となる。キャリア・プラトーの発生を減少させるためには、昇進の場や学習の機会を増やすこと、生活満足度を向上させること、組織的な支援が必要である。
◇コメント
本調査は看護師のキャリア・プラトーに関する研究であり、興味深い研究であった。キャリア・プラトーの中でも、階層的プラトーの発生が最も多く、全看護師の半数であった。昇進の可能性が低いことがプラトーとなっていた。これは、中国特有の看護師の階級や役職の制度や給与体系の背景が影響している可能性もある。本研究では、キャリア・プラトーの発生の予測モデルの開発がテーマであったが、要因が多く、予測には煩雑性があり、課題が残る。また中国での看護師不足の懸念から、離職予防に活用したいという背景が緒言で述べられていたが、看護師のキャリア・プラトーと離職の関連については言及できておらず、検討結果が欲しかった。(担当:新さん)
2024年2月 文献紹介
臨床試験における共有意思決定の実施に影響を及ぼす要因:日本における治験コーディネーターの認識に関する横断調査
Fujita M, et al. The factors affecting implementing shared decision-making in clinical trials: a cross- sectional survey of clinical research coordinators’ perceptions in Japan, BMC Medical Informatics and Decision making, 23(1), 2023. doi.org/10.1186/s12911-023-02138-y
【背景・目的】共有意思決定(SDM)モデルは理想的な治療決定プロセスとして提唱されてきたが、臨床試験においてSDM が行われることは稀である。本研究では、治験コーディネーター(CRC)が SDM の実施状況とその影響因子をどのように認識しているかを明らかにし、治験おける SDM プロセスを向上させるための示唆を得ることを目的とした。
【方法】日本全国の医療機関 1087 施設を対象とし、計画的行動理論に基づく質問項目で、ウェブアンケートを実施した横断研究。治験における SDM 実施状況は、SDM 質問票(SDM-Q-Doc) に従って定義され、SDMの意図として調査された。SDM の実施状況(意図)を従属変数、SDM に対する態度、SDM の実施に関する CRC の主観的規範、自律的意思決定に対する障壁、SDM プロセスにおける困難なステップの数を独立変数とする重回帰分析で、SDMの実施状況に関連する因子が検討された。
【結果】分析対象は 373 名。5割以上がSDMのすべてのプロセスに「いつも」もしくは「少し」実施していると回答した。実施状況(意図)に、態度(β₌.178)、主観的規範(β=.117)、障壁(β=.200)、SDM プロセスにおける困難なステップの数(β₌.167)が有意に関連していたが、調整済みR2 は0.123であった。実施状況に最も障壁が影響していた結果は、CRCのSDM および意思決定支援に関する知識不足を示していると考えられた。
【結論】CRC は、SDMに対する十分な知識がないまま、SDM を実施していると認識している可能性がある。CRC に対して SDM に関する適切な研修を実施し、関係者の意識を高めることで臨床治験におけるSDM改善が期待できる。
◇コメント
SDM に対して計画的行動理論を用いて検討を行ったこと、医師以外を対象とした SDM に関する量的研究であることは、非常に興味深く、新規性の高い研究であると考える。ただ、重回帰分析の結果、説明率は 12.5%と低く、本研究に計画的行動理論を用いたこと自体への妥当性に疑問が残る。また、治験において CRC は中立な立場であるのか、患者の意思を尊重し、患者にとって最善の選択を行うことが可能な存在であるのか、どの程度患者の意思決定支援に関与しているのかも不明瞭である。CRC の具体的な業務内容や、治験において果たしている役割、本研究に計画的行動理論を持ち込む理由が研究背景として述べられていれば、より本研究の意義が明確に伝わったと考える。(担当:永井さん)
2024年1月 文献紹介
禁煙意向と重要他者および医療従事者からの禁煙アドバイスとの関連性
Hwang JH, et al:Smoking Cessation Intention and Its Association with Advice to Quit from Significant Others and Medical Professionals. Int J Environ Res Public Health. Mar 12;18(6):2899,2021. doi: 10.3390/ijerph18062899.
【背景・目的】先行研究では、禁煙の意図はその後の禁煙の試みまたは禁煙の前兆であるとされている。本研究では、重要な他者や医療従事者の禁煙アドバイスが禁煙意図に及ぼす影響を同時に検討することを目的とした。
【方法】韓国疾病予防管理センターで実施された2017年の地域保健調査データを用いた。このデータは、層別クラスター・サンプリング法で抽出され、19歳以上の世帯員に対して行われたものである。本研究では、生涯喫煙本数100本以上の喫煙者のうち、現在喫煙している3841人のデータを用いた。禁煙意図はトランスセオレティカルモデルをもとに4群(1か月以内,6か月以内,いつか,禁煙意図なし)に分類した。過去の禁煙経験を含む潜在的交絡因子で調整し、禁煙意図レベルに応じて多項ロジスティック回帰分析を行い、アドバイスの関連を評価した。
【結果】今後1か月以内に禁煙する意向がある者は5.3%、6か月以内は7.4%であった。重要な他者と医療従事者の両方から禁煙を勧められた者、重要な他者のみから禁煙を勧められた者、医療従事者のみから禁煙を勧められた者は、禁煙を勧められたことのない者に比べ、それぞれ1か月以内の禁煙意図のオッズ比は2.63(95%CI:1.62-4.29)、1.84(95%CI:1.17-2.89)、1.44(95%CI:0.70-2.94)であった。6か月以内の禁煙意図のオッズ比は、それぞれ2.91(95%CI:1.87-4.54)、2.49(95%CI:1.69-3.68)、0.94(95%CI:0.44-2.05)であった。
【結論】喫煙者の禁煙意図を促進するためには、重要な他者の役割を考慮すべきである。医療従事者による禁煙アドバイスのみの効果は限定的であったが、1か月以内の禁煙意向のある者においては、重要な他者による禁煙アドバイスの効果を高めた可能性がある。
◇コメント
本研究は、禁煙支援に有効な資源について根拠を示す意義のある研究であると思われた。一方で、「重要な他者」とは誰のことをさすのかといった定義や調査内容の精錬も必要と考える。なお本研究は、既存のデータを用いた後ろ向き研究であることから禁煙教育の内容や理由などの詳細は不明であり、調査内容には限界がある。禁煙意図への影響が大きいとして着目された「禁煙を試みた経験があるか」の項目に関して、1年以内と1年以上前と区分した理由も不明であり、結果の解釈には注意が必要である。韓国のタバコ規制状況や社会情勢等も把握する必要があるだろう。(担当:山本さん)
2023年12月 文献紹介
食道がん術後6か月後のサルコペニアに対する術後の経口摂取状況の影響
Hijikata N et al:Effect of Postoperative Oral Intake Status on Sarcopenia Six Months After Esophageal Cancer Surgery. Dysphagia, 38;340–350, 2023.
Doi.org/10.1007/s00455-022-10471-z
【目的】食道切除術6ヵ月後の嚥下障害、経口摂取状況、栄養状態の周術期変化を調査し、サルコペニアに関連する因子を同定すること。
【方法】研究デザイン:単施設後方視的観察研究.対象:胸部食道がん術後患者、主要評価項目:食道切除術後6ヵ月に撮影したCT画像による骨格筋量.解析にはオッズ比と多重ロジスティック回帰分析を用いた。
【結果】134例のうち、34.3%が嚥下評価で経口摂取開始不能と判定された。退院時、30.6%が経口摂取の有無にかかわらず経管栄養を受けていた。嚥下評価で経口摂取ができなかった群では、退院時に経管栄養を受けた患者の割合が有意に高かった(p=0.014)。術前のBMI、術後の握力、退院時の経管栄養は、男性患者の食道切除術6ヵ月後のサルコペニアの独立した危険因子であった。
【結論】退院時の経管栄養は食道癌患者の術後サルコペニアと有意に関連している。
◇コメント
周術期における食道がん術後研究が多い中、退院後に注目した文献は数少なく興味深い文献であった。食道がん術後の交絡因子項目について理解を深めることができた。本研究では、胸部食道がん患者の術後6か月におけるサルコペニア要因を入院中のデータベースから探り、「退院時の腸瘻利用の男性患者」が同定された。この研究の限界点として入院中のエネルギー投与量の不明瞭さを著者は挙げていたが、術後6か月間での在宅身体活動量や経口摂取量、栄養状態などとの解析や評価は全く触れられていなかった。在宅での課題をも含めた解析により術後サルコペニアの要因がさらに明確に同定されることが望まれる。(担当:庄野さん)
2023年10月 文献紹介
児童思春期精神保健サービスにおけるウェブベースのアウトカム測定システムの実現可能性の評価-myHealthE無作為化対照実現可能性パイロット研究
Morris AC, et al:Assessing the feasibility of a web-based outcome measurement system in child and adolescent mental health services –myHealthE a randomised controlled feasibility pilot study. Child and Adolescent Mental Health,28(1);128–147, 2023.
Doi: 10.1111/camh.12571. Epub 2022 Jun 9.
【背景】インターネットを介した患者報告アウトカム指標(PROM)の収集に対する関心が高まっている。NHSのmyHealthE (MHE) というwebモニタリングシステムは紙のPROM収集の限界に対し開発された。MHEは、児童思春期精神保健サービスを利用する家族が臨床情報を報告し、子どもの経過を追跡するための簡単で安全な方法を提供する。
【目的】MHEを用いることで紙の質問票と比較して、SDQ(子どもの情緒的・行動的精神病理学の症状のスクリーニング25項目)の入力率が向上するかどうかを明らかにすることと、家族の満足度とアプリケーションの受け入れ可能性を調査すること。
【方法】研究デザイン:単盲検RCT。実行可能性パイロットスタディの対象:南ロンドンの精神発達サービスを利用する196名の家族。3か月間にわたって電子質問票が紙の質問票より記入しやすいかどうかを調査した。主要評価項目:3か月間のfollow-up期間中のSDQの入力までの時間。家族の一部(8名)にMHEの満足度と使いやすさについて調査した(System usability scale:SUS)。解析:Cox 比例ハザード回帰分析
【結果】MHE群は研究期間中のSDQの入力確率の増加と有意に関連した(調整HR 12.1,95%CI 4.7-31.0, p<0.001)。MHE 群の入力率は 69.1%、紙の質問票群は 8.8%だった。システムは家族に好評で、MHE を利用する様々な利点(例:リアルタイムフィードバック、入力しやすい)が挙げられた。
【結論】MHEはPROM入力率の向上に有望である。今後は、MHE をさらに改善し、大規模な MHE の実装と費用対効果を評価する研究や、電子調査票との違いの関連因子を探索する研究が必要である。
◇コメント
従来法と比較して、MHE 群の入力率は著しく向上したこと、SUSの結果から実行可能かつ受容可能と評価された。脱落が多いことや SUS 評価対象者は非常に限られていること、もともとのフォローアップPROの入力率が低いことから、MHEは入力率を向上できる可能性はあるが、受容性については結論付けられない。また、著者らも述べているように、今後、入力方法の違いによる入力率の差の要因の探索やシステムの持続可能性やユーザー・実践家双方にとって有益な PROM なのか、PRO 収集の手法であるかの検証を期待する。ePROM の社会実装とその評価をするためのアウトカム指標の設定と研究デザインについては、他の試験にも応用可能で参考になる論文であった。(担当:岩谷さん)
2023年9月 文献紹介
COPD患者のQOLと急性期医療利用に対する統合緩和ケア介入の効果:COMPASSIONクラスターランダム化比較試験
Broese J, et al: The effect of an integrated palliative care intervention on quality of life and acute healthcare use in patients with COPD: Results of the COMPASSION cluster, Palliative Medicine, 37(6); 844-855, 2023. Doi.org/10.1177/02692163231165106
【背景・目的】COPDは世界における第3位の死亡原因疾患である。症状負担や機能的状態は、肺がん患者と同等で、QOLに影響しているものの、COPD患者に対する緩和ケアに関するエビデンスは乏しい。COPD患者における緩和ケアの有効性を示すことが本研究の目的である。
【方法】オランダの8つの病院が対象であった。介入施設の医療者は統合(積極的)緩和ケアを実施できるよう事前にトレーニングを受けた。急性増悪で入院した患者がリクルートされ、Propal‐COPDスコアが陽性であった患者が研究参加者となった。主要アウトカムはQOL(FACT-pal)。患者はベースライン時、3か月後、6か月後 に質問紙に回答し、12か月後に医療記録を用いて1年間の入院回数、生命維持治療の希望の有無の文書化などが評価された。
【結果】急性増悪で入院し基準を満たしたCOPD患者477名のうち、Propal‐COPDスコアが陽性であったのは222名であった(介入群98名、対照群124名)。このうち106名が6か月後の質問紙に回答した。98名中36名が統合(積極的)緩和ケアの介入を受けた。ITT解析の結果、主要アウトカムに対する効果は示されなかった。不安・抑うつ、スピリティアリティなどにも2群に違いはなかった。介入群では、集中治療室への入室が少なく、入院が少なかった。
【結論】緩和ケアは急性期医療の利用を減らす可能性がある。検出力が十分でないことが本研究の結果に影響を及ぼしている。
◇コメント
2020年にこのCOMPASSION studyのprotocol論文が発表されており、医療者への介入方法や研究デザインについて知ることができ、興味深かった。リクルート期間は2019.5~2020.8であり、COVID-19のなか実施された研究であり、貴重である。今回は、6か月以内に少なくとも1回外来で医療者もしくは看護師(COPD専門の)と緩和ケアについて話し合った者を、介入を受けたと判断していたが、積極的緩和ケアとして妥当かには疑問が残った。予後の悪い患者への介入について、緩和ケアの効果を何で評価するのか、緩和ケアを始めるタイミングはいつなのか、さらに検討していく必要性を感じた論文であった。(担当:森本)
2023年7月 文献紹介
インターネットによるアトピー性皮膚炎における認知行動療法:RCT
Hedman-Lagerlöf, E., et al. Internet-Delivered Cognitive Behavior Therapy for Atopic Dermatitis: A Randomized Clinical Trial. JAMA Dermatol 157(7):796-804,2021.
Doi: 10.1001/jamadermatol.2021.1450.
【背景】アトピー性皮膚炎は、強いかゆみと慢性的な炎症を特徴とする最も一般的な炎症性皮膚疾患であり、うつ病や不安障害などを抱えている人も多い。アトピー性皮膚炎に対する心理学的治療法について期待は高まっているものの、セラピストなどの不足もあり十分には患者に適応されていない。そこでアトピー性皮膚炎の成人患者を対象に、標準治療の補助的治療としてインターネットを用いたCBTの臨床的有効性を検討することを目的に研究を行った。
【方法】スウェーデン全土から募集したアトピー性皮膚炎の成人102名が研究に参加し、12週間のセラピスト指導によるインターネットによるCBT(n=51)(実施期間:2017年3月29日から2018年2月16日)または標準ケアを受ける対照群(n=51)に1:1の割合で無作為に割り付けられた。CBTは10個のモジュールで構成され、参加者は徐々にそれらにアクセスできるようになっていた。セラピストと参加者は非同期のテキストメッセージでのみやり取りを行った。
【結果】参加者は102名(年齢37±11歳、うち83人(81%)が女性)であった。インターネットによるCBTを受けた参加者は対照群に比べて、Patient Oriented Eczema Measureで測定したアトピー性皮膚炎の症状が有意に改善した(B = 0.32; 95% CI, 0.14-0.49; P < .001)。またかゆみの強さ、ストレス、睡眠障害、うつ病についても有意な改善をもたらした。
【結論】インターネットによるCBTは、成人のアトピー性皮膚炎患者の治療において、実行可能性があり受容でき、さらに効果もあった。このCBTは治療者のリソースを最小限に抑えながら、アトピー性皮膚炎の症状、ストレス、睡眠障害、抑うつ症状の改善をもたらすことができる。
◇コメント
RCTが困難なCBTを用いた研究において、100人以上の参加者を集め、RCTを行っているところが評価できる論文であった。6か月、12か月のフォローアップ時にも参加者の7割以上からデータを得られており、長期間の効果を確認できているのもよい点であった。非常に多くの評価尺度を用いており、すべての尺度が必要であったのかについては検討の余地がある。今回は対照群との比較でインターネットによるCBTの有効性を明らかにしているが、対面で行うCBTとインターネットによるCBTの効果の比較はできていない。この点については引き続き検討が必要である。(担当:平見さん)
2023年6月 文献紹介
慢性疼痛における社会的・情動的な因子の影響:患者と介助者の関係の反映(への示唆)
De Laurentis, Martina et al. The impact of social-emotional context in chronic cancer pain: patient-caregiver reverberations: Social-emotional context in chronic cancer pain. 27, 2 (2019): 705-713. Doi: 10.1007/s00520-018-4530-5
【目的】痛みは多因子にわたる主観的な体験である。心理的、社会的因子が痛みに影響すると考えられている。本研究では、慢性的ながん性疼痛をもつ患者の痛みの程度と介助者の心理的苦痛、共感性、思いやりのレベルが関連しているのかを検討した。
【方法】対象は、国際疼痛学会の基準を満たす慢性的な痛みのあるがん患者38名と家族介護者38名であった。患者の痛みの程度にはMcGill Pain Questionnaire(MPQ)、介護者の心理的苦痛の程度にはThe Distress Thermometer(DT)を用いた。介護者には心理的苦痛の原因となっている問題について特定するよう求めた。共感性についてはBalanced Emotional Empathy Scale(BEFS)を用い、介護者は自分自身の共感性を、患者は介護者の共感性について答えた。思いやりについては、Barrett-Lennard Relationship Inventory (BLRI)を用い、介護者には患者に思いやりを持つことができるかどうか、患者には介護者の思いやりのレベルが尋ねられた。相関分析、単回帰分析が行われた。
【結果】介助者の心理的苦痛は、患者の痛みの強さと関係していた(r=.389; p=.028)。心理的苦痛の原因の数と患者の痛みの程度とも関係した(r=.375; p=.020)。これらは回帰分析でも関連性が示された。さらに、介助者の心理的苦痛のなかでも情動的問題は、患者の疼痛の程度と関係を示した(r=.427; p=.007)。介護者の共感性・思いやりのレベルと患者の痛みの程度には関連性がなかった。
【結論】介助者の心理的苦痛と患者の痛みの程度との間に関連があることが示された。介助者の心理的苦痛が強いことや情動的問題を抱えていることが浮き彫りになった。がん疼痛管理における心理・社会的アプローチ、介助者の心理的苦痛へのアプローチの必要性が示唆された。
◇コメント
患者の慢性的な痛みの程度と介助者の心理的苦痛が関連していることを示しており、興味深い研究であった。痛みを抱える患者に対して、患者にアプローチするだけでなく、介助者にもアプローチする必要性があることが本研究の結果からわかり、新たな気づきとなった。一方で、痛みに関連する因子として共感性、思いやりも調査していたが、結果が示されておらず、疑問が残った。目的を明確にして、結果、結論と一貫性をもって論述されると、患者・介助者にとって有用な結果を示すことに繋がり、研究の意義も見出せると考える。(担当:Xiさん)
2023年5月 文献紹介
Common Sense Modelを用いた2型糖尿病患者の自己管理行動と不安症状における病気認知の役割の解明
(横断的調査)
Xin, M et al. Using the common-sense model to explicate the role of illness representation in self-care behaviours and anxiety symptoms among patients with Type 2 diabetes, 2023, 107, 107581. DOI : 10.1016/j.pec.2022.107581.
【背景・目的】Common Sense Model(以下,CSM)は自己管理行動だけでなく心理面の対処プロセスを説明するモデルである。CSMで定義される病気認知には”脅威認知”と”コントロール認知”があり、コーピング方略に影響する。コーピング方略は自己効力感と関係し、自己管理行動、不安症状とも関係することが想定される。本研究では、2型糖尿病患者における病気認知が自己管理行動/不安症状に影響するモデルを、コーピング方略、自己効力感を媒介変数として加えて構築し、検証する。
【方法】香港の病院にかかる2型糖尿病患者473名を対象とした。調査は電話で行い、病気認知はIlllness Perception Questionnaire-Revised(IPQ-R)、自己管理行動はRevised Summary of Diabetes Self-Care Activity(SDSCA)、不安症状はGeneral Anxiety Disorder Scale(GAD-7)、コーピング方略はBrief Coping Orientation to Problems Experienced Inventory(COPE)、自己効力感はDiabetes Empowerment Scale(DES)を用いた。分析には構造方程式モデリングが用いられた。
【結果】自己管理行動へコントロール認知は正の総効果があった(0.18,p=.046)が、脅威認知には有意な影響(総効果)を認めなかった(-0.13,p=.11)。不安症状への脅威認知の総効果は0.66(p<.001)、コントロール認知の総効果は-0.42(p<.001)であった。コントロール認知は、問題焦点型コーピングの増加や自己効力感を介して自己管理行動へ正の関連をしていた。脅威認知は、問題焦点型コーピングを増加するだけでなく(β=0.23,p<.05)、回避型コーピングを増加させ(β=0.28,p<.001)、自己効力感を低める(β=-0.30,p<.05)効果も有していた。問題解決コーピングと回避型コーピングは脅威認知と不安症状の関係においても媒介効果を示していた。
【結論】糖尿病患者における脅威/コントロール認知は、問題焦点型/回避型コーピングおよび自己効力感を介して、自己管理行動および不安症状に対して関連していることが示された。
◇コメント
本研究において、病気認知を2群に分け、自己管理行動/不安症状へのプロセスを検証するといった着想は非常に興味深く、認知の仕方がどのように自己管理行動に関係するかを考える機会となった。一方で、群分けの方法は先行研究に基づいた内容ではなく、尺度が改変されていること、2型糖尿病患者の認知を脅威認知とコントロール認知に分けてよいのかといった疑問もあり、結果は慎重に解釈する必要がある。この文献を読み、仮説となったモデルの理論的裏づけが妥当であるのか、理論を正しく援用することなど、認知と行動の関係について学びを深める貴重な機会となった。(担当:梶原さん)
2023年4月 文献紹介
特別治療病棟で勤務する看護師を対象とした感情的知能と臨床能力との関係:横断研究
Dehnavi M,et al. The correlation between emotional intelligence and clinical competence in nurses working in special care units: A cross-sectional study, Nurse Education Today, 2022,Sep; 116: 105453. DOI: 10.1016/j.nedt.2022.105453
【背景・目的】感情的知能と臨床能力は、看護サービスの質と患者満足度を高めるために、看護職の必須スキルである。本研究は、イランのシャヒード・ベヘシュティ医科大学付属病院の特別治療病棟(ICU,ICU-OH,NICU,CCU,透析室,ER)で働く看護師における感情的知能と臨床能力との関係を明らかにすることを目的とした。
【方法】質問紙調査を用いた横断的研究。研究対象看護者数は200名で、コンビニエンス・サンプリングにより選出した。調査項目は、人口統計学的特性(性別、年齢、最終学歴、看護師経験年数、特別治療病棟での勤務年数など)、感情的知能にはBar-On Emotional Quotient Inventory(EQ-i)が、臨床能力にはBenner's Nurse Competence Scale(NCS)が用いられた。2019年10月から12月にデータが収集された。関係性の検討にはPearson’s相関分析を行い、有意水準はP<0.05とした。
【結果】分析対象者は197名で、平均年齢は34.42歳、看護師経験年数は平均7.47 ± 11.10 年、特別治療病棟での勤務経験は平均5.91±1.91年であった。感情的知能(EQ-i)の6次元のうち、‘アサーション’の平均値が17.31(3.34)と最も高く、最低は‘共感’の次元で平均12.04(3.40)であった。臨床能力(NCS)の7下位因子のうち‘治療的介入’が平均98.79(22.70)で最も高く、‘質の保証’が平均74.57(20.80)と最も低かった。感情的知能の総得点と臨床能力の総得点との間にはr=0.139(P=0.05)の関係を認めた。
【結論】看護師の感情的知能のスキルに注目することは、看護師の専門的能力を改善・向上させ、患者に対する効果的なケアにつながる可能性がある。
◇コメント
特別治療病棟(ICUなど)では、多職種連携が必要であり、看護師が自分自身の感情を理解・コントロールするといった感情的知能のスキルは必須と考えられ、興味深い研究であった。感情的知能と臨床能力の2変数間には、相関係数値から判断すると弱いもしくはほとんど関係を認めていない。人口統計学的特性(経験年数等)によって、感情的知能や臨床能力は異なることが想定される。人口統計学的特性の影響を考慮したうえで解析していたならば、異なる知見が得られていたかもしれない。また本研究では、感情的知能と臨床能力について、次元・下位因子間の検討は行われていなかった。総得点で関係を認めなかったために、検討されなかったのかもしれないが、これらの検討結果を示して欲しかった。なお、本研究では臨床能力としてNCSを用いていたが、特別治療病棟の看護師の臨床能力を測定する尺度として、この指標が妥当であったのかについても疑問が残った。仮説と研究結果が一致しなかった場合、それをどのように解釈するのか、方法論上の課題を含めて、読みの視点を拡げられるようになることが必要である。(担当:新さん)
2023年3月 文献紹介
日本のプライマリケアにおける共有意思決定に関する医師と患者の見解の関連性:環境要因の影響
Yuko Goto, Hisayuki Miura, et al., Association between physicians’ and patients’ perspectives of shared decision making in primary care settings in Japan: The impact of environmental factors, 2021, 16(2). DOI:10.1371/journal.pone.0246518
【背景・目的】共有意思決定(Shared Decision Making: SDM)は、近年日本の医療界で周知され始めている。本研究では、医師の視点からSDMを測定する尺度であるSDM-Q-Docの日本語版を作成し、その心理学的特性を明らかにするとともに、SDMに影響を与える問題点や要因を明らかにすることを目的とした。
【方法】対象者は、日本のプライマリケア診療所に勤務する医師23名と、初診の患者130名である。 医師と患者の面接の直後に、医師と患者それぞれに日本語版SDM-Q-9とSDM-Q-Docを実施した。収束的妥当性についてはPCMIスケールを用いて確認した。 SDM-Q-Docの内的一貫性と妥当性を検討した後、SDM-Q-Docの各項目、SDM-Q-9、医師の社会的属性、外来受診時の看護師の同席の有無との関係を、重回帰分析および構造方程式モデリング(SEM)によって評価した。
【結果】因子分析の結果、日本語版SDM-Q-Docは1因子構造であり、高い内的整合性(Cronbachα = 0.87, ω = 0.88)を示すことが確認された。また、PCMIとSDM-Q-Docの相関から、適切な収束的妥当性が確認された(r = 0.406; p < 0.001)。重回帰分析の結果、看護師の同席はSDM-Q-Docの1項目に有意な影響を与えており、SDM-Q-9の1項目にも影響を与えることが示された。SEMでは、3項目のモデルの適合度は良好であった。
【結論】日本の外来診療における、日本語版SDM-Q-Docの内的整合性と妥当性が確認された。また、医師と患者の診察に看護師が同席することが、SDMを促進する上で重要であることが示唆された。日本語版SDM-Q-Docを用いることで、SDMの質を確認し、医療従事者のコミュニケーションスキル研修を促進することが期待される。
◇コメント
対象患者を初診に限定した意図が記載されておらず、初診で十分なSDMを実施できたのかに疑問が残った。研究目的に沿った対象者を選定出来なかったことが、結果にも影響していると考えられる。しかし、医師と患者の認識の差(医師は伝えたつもりでも、患者は言われていると認識していない)が相関係数値の低さから推測され、この結果は非常に興味深い。がんの治療選択場面や、終末期の治療選択場面など、対象者や対象場面を絞ることで、より意義のある研究になると考える。
論文抄読を行う際は、研究目的を達成するためにはどのような結果が得られたらよいのか、仮説を立てながら読み進めることが重要であると学んだ。また、常に研究目的との整合性を念頭に置くことが、一貫性のある論文であるかを判断する際の大きな指標になると感じた。(担当:永井さん)
2023年2月 文献紹介
重症高齢者における死亡率および身体機能に関わるリスクとしての栄養に関する考察
Loss HS, et al. Nutrition as a risk for mortality and functionality in critically ill older adults J Parenter Enteral Nutr. 2022; 46: 1867-1874. Doi.org/10.1002/jpen.2431
【目的】 重症高齢患者における栄養状態(ICU入室1週間以内の絶食)と死亡率、退院後6か月の身体機能との関連を明らかにすること。
【方法】ICUに入院した65歳以上の高齢患者を対象とした単一施設のレトロスペクティブ研究である。ICU入室後最初の7日間に少なくとも1日間、何も口から摂取しないことと定義とした絶食に注目し、年齢、BMI、死亡率について関連を追及した。BMIは20~27は健康、20未満は低体重、30以上は肥満と分類し栄養状態を反映した。また退院6か月後の自立度や身体機能について電話で追跡した。「絶食」と「死亡」の転帰に関連する曝露変数同定に、二項ロジスティック回帰を行った。死亡率の評価では、一変量解析で死亡率に関連する最も有意な変数を絶食曝露の対照として含めたモデルを使用。Kaplan-Meier分析を用いて、ICUの高齢患者の絶食と死亡の関連を探った。
【結果】533/2043名(26%)の分析を行った。すべての患者はNRS2002でスコア3以上の患者であった(栄養上のリスクがあり栄養介入が必要であることを示す)。院内死亡率は全体で53.8%であった。絶食あり患者(41.1% )は、計画的手術が有意に絶食リスクを高めた。死亡率はBMI<20の群で高かった(P=0.028; OR1.84;95%CI、1.02-3.42)が、絶食ありの低BMI患者と院内死亡率に有意な関連は無かった(39.3% vs. 60.7%、P = 0.110)。ICU入室~6か月間における生存時間解析は、絶食ありでは有意に生存率が低く、死亡率に関する多変量解析では、SAPS3、Alb値、絶食が独立して関連した。中でも絶食とのリスク比が一番高く、1日の絶食は死亡率を16.7%高める結果となった。自立度や身体機能はICUでの絶食と関連は無かった.
【結論】高齢者(65歳以上)は、絶食が院内死亡率上昇と関連した。
◇コメント
絶食に注目し臨床転帰を考察する点は大変興味深かった。しかし、循環動態での評価や栄養投与量の評価、間接熱量計測定法での客観的なエネルギー消費量推測が出来なかった事、栄養状態の把握として体組成でなくBMIの使用であったこと、退院後のフォローアップでかなりのデータ損失があり、生存者における解析の質を著しく低下させた可能性がある。 論文クリティークの際に内的・外的妥当性ともに課題が残った。課題を1ずつでも解決することで新たな発見があることに期待したい。 (担当:庄野さん)
2023年1月 文献紹介
脳卒中発症における社会的決定要因(SDOH)の影響
Reshetnyak E, et al. Impact of Multiple Social Determinants of Health on Incident Stroke. Stroke. 2022 Aug;51(8):2445-2453. doi: 10.1161/STROKEAHA.120.028530.
【背景・目的】健康の社会的決定要因(SDOH:Social determinants of health)は、これまでにも脳卒中発症との関連が指摘されている。SDOHは個人内でクラスター化することが多いが、脳卒中発症と複数のSDOHとの関連を検討した研究はほとんどない。本研究の目的は、脳卒中発症に対するそれぞれのSDOHの影響および累積的影響を明らかにすることである。
【方法】45歳以上の前向きコホート研究であるREGARDS(Geographic And Racial Differences in Stroke)studyから27,813人を対象とした。SDOHを主要な曝露因子とし、主要アウトカムを専門家の判定による脳卒中発症とした。Cox比例ハザードモデルで潜在的な交絡因子を調整し、脳卒中発症とSDOHとの関連を検討した。
【結果】ベースライン時の平均年齢は64.7歳(SD 9.4)、女性は55.4%、黒人は40.4%であった。中央値 9.5年(IQR, 6.0-11.5)の追跡期間中に、1470件の脳卒中発症が観察された。10のSDOH候補のうち、黒人種、低学歴、世帯収入が低い、郵便番号による貧困、健康保険の欠如、社会的孤立、公衆衛生インフラのランクが低い州に居住していることの7つが脳卒中と関連していた(P<0.10)。75歳以上、未満での層別化が行われ、完全調整モデルでは、75歳未満の人々でSDOHの数が増えるにつれて脳卒中のリスクが上昇した(SDOHを全く持たない人と比較して、SDOH1つに対するハザード比は1.26 [95% CI, 1.02-1.55]; 2つに対するハザード比は 1.38 [95% CI, 1.12-1.71]; 3つ以上のハザード比は1.51 [95% CI, 1.21-1.89])。75歳以上では、SDOHの数は有意ではなかった。
【結論】複数のSDOHを有する個人を集中的介入のターゲットとすることは、脳卒中の発症リスクを低減するのに役立つ可能性がある。
◇コメント
本研究は、格差が進む社会のニーズに沿っており、格差解消のための政策提言の根拠となる意義のある研究であると思われた。一次曝露のSDOHと共変量のデータ(医学的状態、精神的状態、生活習慣等)はベースライン時の情報であり、時間的経過とともに変化している可能性があることは本研究の限界であると考える。また、健康リスクが異なるそれぞれのSDOHを等尺とし、1つとカウントして良いかどうかについても議論の余地がある。本研究ではSDOHの項目として10が選定され、7つが脳卒中と有意に関連することが明らかとなっていたが、人種による特性や違いもあるかもしれないため、本研究をそのまま日本で応用することは難しいだろう。日本は国民皆保険であること、学歴差が少なくなっていること、比較的インフラも整備されていることや、地域の気候や特性の違い等の背景を踏まえ、SDOHの項目選定においては慎重に吟味する必要があると思われた。(担当:山本さん)
2022年12月 文献紹介
進行性肺がんにおけるPD-1/PD-L1阻害剤の重篤な免疫関連有害事象に対する教育ニーズを探る:単一施設の観察研究
Aso S et al:Exploring the educational needs for severe immune-related adverse events of PD-1/PD-L1 inhibitors in advanced lung cancer: A single-center observational study
Asia-Pacific Journal of Oncology Nursing 9 (2022) Doi: 10.1016/j.apjon.2022.100076.
【背景・目的】免疫関連有害事象(irAE)は多臓器に発現し、発現時期も多岐に渡る。一部の副作用が重篤化すると治療中止や生命を脅かす結果となる。早期発見のためには効果的な患者教育が患者ケアの質を確保するために重要となる。PD-1/PD-L1阻害剤を投与された進行肺がん患者の教育ニーズを探ること、戦略的な患者教育への示唆を得るために重症irAEの発症に関する詳細な臨床データを収集することが本研究の目的である。
【方法】2020年1月~12月に静岡がんセンターでPD-1/PD-L1阻害薬による治療を開始した進行肺がん患者171名の診療記録を後ろ向きに検討し、使用状況に応じてirAEの頻度、重症度、予定外の入院を評価した。教育ニーズは初期症状、報告者、電話相談、症状発現から病院受診までのタイムラグを元に評価した。
【結果】159名が分析対象者で、73名(45.9%)が91のirAEを経験した。17名(10.7%)が重症のirAEにより入院が必要となった。肺炎が最も多く、次いで副腎機能不全が多かった。重篤なirAEは多くの場合、介護者からの報告によって予定外の外来受診で発見され、症状発現から数日のタイムラグがあった。PD-1/PD-L1阻害薬の使用法によって頻度の高いirAEとその重症度が異なった。
【結論】医療従事者は患者や介護者への教育において、免疫チェックポイント阻害薬治療開始後のわずかな症状の変化も報告すべきことを強調し、相談することをためらわないように促す必要がある。取り組むべき課題は、個人の知識や医療従事者のスキルを向上させ、irAEを管理するケアシステムを確立することと、電話トリアージプロトコルのような組織的なシステムを開発することである。
◇コメント
日本での進行肺がんにおけるPD-1/PD-L1治療を受けた患者のirAE発症から重症irAEによる入院までの臨床経過が明らかにされており、今後のがん治療におけるirAE早期発見、早期治療のための患者教育を考察していく上で興味深い研究であった。重症度分類にCTCAEを用いているが、一定の入院基準がなく主治医の判断となるため偏りが生じる可能性があり、今後同様の研究を進めていく際の課題となると考えた。また本研究ではirAEを発症した患者の特徴が明らかとなったが、研究開始時にどの程度の患者教育がなされ、理解度はどうであだったか、教育歴などの患者の属性などの情報は後ろ向き研究のために限界がった。投与期間やgrade1-2の患者についての情報なども取り入れることで、よりよい教育ニーズの考察につながると考える。がん治療における新しい治療法に関する研究であり、本邦国での先行研究が少ない中、今後の課題や研究方法を考察していくための大変貴重な学びとなった。(担当:額田さん)
2022年11月 文献紹介
ICUにおける早期離床と退院後(ICUサバイバー)の精神症状の関連;多施設共同前向きコホート研究
Watanabe S, et al. Association between Early Mobilization in the ICU and Psychiatric Symptoms after Surviving a Critical Illness: A Multi-Center Prospective Cohort Study. J. Clin. Med. 11, 2587, 2022. https://doi.org/10.3390/jcm11092587
【目的】ICUにおける早期離床(early mobilization; EM;ICU入室後72時間以内に端座位以上のレベルのリハビリテーションと定義)と退院3か月後の精神症状発症率との関連を明らかにすること
【方法】研究デザイン:多施設共同前向きコホート研究、対象:ICU在室48時間以上の患者を連続的に登録、主要評価項目:退院3か月後の精神症状(抑うつ・不安・PTSD)の発症率、解析:リスク比と多重ロジスティック回帰分析を用いた。感度分析としてIPWで二つの解析を行った。
【結果】退院患者192名のうち99名(52%)を評価した。EM群は非EM群と比較して精神症状発生率が低かった(25% vs 51%, p=0.008, OR 0.27, 調整p=0.032)。EM群の精神症状発症RRは0.49(95%CI 0.29-0.83)だった。死亡や脱落、潜在的交絡因子を考慮した感度分析では一貫してEM群の精神症状発生率が低いことが示された(脱落; OR 0.28,adjusted p=0.008, 潜在的交絡; OR 0.49, adjusted p=0.046)。
【結論】早期離床は、一貫して精神症状の低さと関連した。
◇コメント
Psych-PICSの重大性は世界の共通課題である。しかし、課題認知はされているが、効果的な予防介入の開発は進んでいない。2018年以降この領域の報告が減少する中、実臨床で根付いてきたガイドラインに基づいた早期離床プログラムとPsych-PICSの関連を明らかにしようとした意義深い報告であった。研究の最大の課題は、脱落と、ICUの介入と3か月後の機能状態の真の関連性を示せるかである。本論文も脱落が48%、RCTではなく観察研究でベースラインが大きく異なること、サンプルサイズが小さい中で交絡の調整、ならびに未測定交絡の影響を加味して結果を示すことの難しさと、それらの限界を可能な限りの制御する方法と結果、その解釈について議論した。
現時点で、著者らも述べているようにICU退室3か月後の精神機能障害に与える早期離床の効果の因果関係は不明瞭ではあるが、せん妄、身体機能に対するメリットは否定するものではない。この領域の研究を進めていくためには、メカニズムの解明と、実臨床でアウトカムデータを効率的に収集し蓄積する仕組み創りが求められるであろう。いずれにしても、実臨床でICU退室後の精神機能の把握を多施設で行っている点はなかなか実行できるものではないため、研究チームの尽力を感じた。(担当:岩谷さん)
2022年10月 文献紹介
End-stageにあるCOPD患者に対する早期統合緩和在宅ケアと標準ケア:フェーズⅡパイロットRCTスタディ、実現可能性、容認性、有効性
Scheerens C et al., Early Integrated Palliative Home Care and Standard Care for End-Stage COPD (EPIC): A Phase II Pilot RCT Testing Feasibility, Acceptability, and Effectiveness, 2020, 59(2), 206-224. Doi.org/10.1016/j.jpainsymman.2019.09.012
【背景・目的】COPDは主要な死亡原因疾患であり、WHOにおいて緩和ケアの必要な疾患とされている。早期統合緩和在宅ケア(PHC)はCOPD患者にとって有益であると考えられているが、この仮説を検証する研究は少なく、決定的な結果は示されていない。end-stageにあるCOPD患者に対する早期統合PHCの実現可能性、容認性、有効性をテストすることが本研究の目的である。
【方法】ベルギーの5つの病院でリクルートされたend-stageのCOPD患者が、標準ケア群(対照群)、早期統合緩和在宅ケア群(介入群)に割り付けられた。介入群には、5つのコンポーネントで緩和在宅ケアNsによる6か月の介入を実施した。6週ごとにHRQOL(SF-36)、Anxiety and mood (HADS)、COPD related symptom burden(CAT)が評価され、ケアの質が介入前と24週後に評価された。増悪回数、入院回数、亡くなった場合は死亡の場所が2群間で検討された。有効性の分析には一般線形混合モデルが用いられた。介入プログラムの実現可能性、容認性の評価には、参加者と専門家へのインタビューが用いられた。
【結果】70名が適格基準を満たし、研究に参加(介入群20名、対照群19名)。64%が6か月間の介入を完遂した。介入群の患者はPHCNsの訪問を平均3.4回受けた。全体的な有効性分析では、2群間にSF-36、HADS、CATで差がなく、介入効果は示されなかった。しかし、介入群では入院が対照群より少なく、ケアの質の評価も高かった。参加者へのインタビューでは、8/10名が心理社会的なサポートや呼吸トレーニングなどが役立ったと述べた。
【結論】end-stageにあるCOPD患者における早期統合在宅緩和ケアは、実行可能で容認されたが、予測した効果は認められなかった。
◇コメント
介入について、ミックスメソッドで評価を試みている点は興味深かった。リクルート期間を延長したにもかかわらず参加者が少なく、COPD患者における早期緩和ケアの効果を検証することの難しさを感じた。一方で、この分野における研究の必要性も改めて感じた。緩和ケアのアウトカムとして何を用いるか、介入プログラムとして何が必要であるのか、さらなる検討が必要と感じた。この文献を紹介することで、慢性疾患患者への緩和ケアの必要性を参加者がより意識する機会となった。(担当:森本)
2022年9月 文献紹介
新規診断された血管内大細胞型B細胞リンパ腫患者にR-CHOP療法と高用量メトトレキセート投与・髄腔内抗がん剤注射を組み合わせる療法:多施設、単群、第2相試験
Shimada, K., et al. Rituximab, cyclophosphamide, doxorubicin, vincristine, and prednisolone combined with high-dose methotrexate plus intrathecal chemotherapy for newly diagnosed intravascular large B-cell lymphoma (PRIMEUR-IVL): a multicentre, single-arm, phase 2 trial Lancet Oncol 2020, 21(4): 593-602. DOI: 10.1016/S1470-2045(20)30059-0
【背景・目的】血管内大細胞型B細胞性リンパ腫(IVLBCL or IVL)は標準治療が確立していない珍しい疾患である。R-CHOP療法に高用量メトトレキサート投与および髄腔内抗がん剤注射を組み合わせる治療が中枢神経系への病変の広がりを予防する治療として安全で効果的なものであるかを明らかにする。
【方法】日本の22施設で実施された第2相試験。未治療のIVL患者で、20-79歳、PSが0-3、診断時に中枢神経病変がないものを対象とした。主要評価項目は2年間の無増悪生存率、副次評価項目は2年間の前生存率、中枢神経進展・再発累積率など。効果分析は登録患者全員に対して行われ、安全分析は登録され治療を受けた患者全員に対して行われた。この臨床試験は、UMIN臨床試験レジストリおよび日本臨床試験レジストリに登録されており、長期的なフォローアップのために試験が進行中である。
【結果】2011年6月16日~2016年7月21日の間に38人が登録され、37人が選択基準を満たした。フォローアップ期間の中央値は3.9年(IQR 2.5-5.5)であった。2年間の無増悪生存率は76%(95%CI 58-87%)、2年中枢神経進展・再発累積率は3%であった。最も頻度の多かったグレード3-4の有害事象は、好中球減少と白血球減少であり、38人すべてで報告された。重篤な有害事象は、低カリウム血症、低血圧を伴う発熱性好中球減少症、高血圧、脳内出血(各1人)があった。プロトコール治療中に治療関連の死亡は発生しなかった。
【結論】R-CHOP療法に高用量メトトレキサート投与と髄腔内抗がん剤注射を組み合わせた療法は、診断時に明らかな中枢神経病変のないIVL患者にとって安全で積極的な治療法である。
◇コメント
臨床試験の流れに沿って実施、報告されている論文であった。非常に症例数の少ない疾患に対して、前向きに介入研究を行い、結果を示している貴重な論文であると感じた。従来の治療成績(J Clin Oncol, 2008)と比較して良好な結果(無増悪生存率56%→76%、2年中枢神経進展・再発累積率22%→3%)であったが、本論文は単群試験の結果として示されており、結果から評価を判断する難しさがあった。有害事象については、どの程度であれば許容範囲であるのか、判断基準の曖昧性が残った。(担当:平見さん)
2022年7月 文献紹介
中国のベテラン看護師においてタイプAと神経症型の特性は職業ストレス、職業満足度、バーンアウトの関係を調整するか(横断的調査)
Lu M et al., Do type A personality and neuroticism moderate the relationships of occupational stressors, job satisfaction and burnout among Chinese older nurses? A cross‑sectional survey,2022,21(88),DOI:10.1186/s12912-022-00865-7
【背景】職業ストレスと職業満足度の低さは、バーンアウトに影響する。タイプAおよび神経症型といった性格特性が職業ストレス、職業満足度、バーンアウトに影響することも報告されている。
【目的】目的は以下の2つである。中国のベテラン看護師において、①職業満足度が職業ストレスとバーンアウトの仲介因子となるのか検証すること、②タイプA特性と神経症型特性は職業ストレス、職業満足度、バーンアウトの関係において、これらの効果に違いをもたらす因子になるのか探索すること。
【方法】調査は2018年3-10月に実施され、527名(40歳以上)のベテラン看護師を対象とした。構造方程式モデリングを用いて、職業ストレスとバーンアウトの関係における職業満足度の仲介効果を検証した。多母集団同時解析を用いて、タイプA特性の高群と低群、神経症型特性の高群と低群に分け、職業ストレス、職業満足度、バーンアウトの関係における効果の違いについて検討を行った。
【結果】タイプA特性が強い、神経症型特性が強いベテラン看護師は、いずれもが職業ストレス、バーンアウトが高く、職業満足度が低かった。職業ストレスは、バーンアウトに対して直接効果(β=0.29,p<0.001)、職業満足度の低さを介した間接効果(β=0.25,p<0.001)を示した。タイプA特性の高低は、職業ストレス、職業満足度、バーンアウトの関係において、統計学的に有意な異なる効果を示しており、高群においてバーンアウトの説明率が高かった。一方で、神経症型においては、その高低で異なる効果を示さなかった。
【結論】職業満足度の低さは、中国のベテラン看護師において職業ストレスとバーンアウトの関係に仲介効果を示すことを確認した。またタイプA特性の高低で、効果に違いを有する可能性を示した。ベテラン看護師の負担を軽減する目的でタイプ型診断などの調査を行うことを推奨する。
◇コメント
本研究を読むことによって多母集団同時解析が、性別などの2群だけでなく、パーソナリティのような特性の高低(特性の違い)で用いられることがわかり、これは新たな知見であった。この研究の考察で述べられているバーンアウトに至らないようハイリスク群を把握し、配置の提案をすることは画期的であり、実践現場に応用できる視点であると考えた。一方で、ベテラン看護師のバーンアウトに至る背景が、職業満足度、パーソナリティの違いであるのか、根拠がIntroductionで十分述べられているとはいえなかった。そのため、ベテラン看護師を対象とした概念モデルとして、本研究のモデル構築が適切であったのか、他の因子の存在についても慎重に考える必要があると考える。ただし、本研究は看護の質を保つうえで、ベテラン看護師の離職防止を図るといった興味深い視点の研究課題であった。(担当:梶原さん)
2022年6月 文献紹介
造血幹細胞移植を受けるAYA世代に対するアドバンスディレクティブ(事前指示)のエンドオブライフケアへの影響について
Needle J., et al. The Impact of Advance Directives on End-of-Life Care for Adolescents and Young Adults Undergoing Hematopoietic Stem Cell Transplant, J Palliat Med. 2016 Mar 1; 19(3): 300–305. DOI: 10.1089/jpm.2015.0327
【背景】造血幹細胞移植を受けるAYA世代の、終末期ケアにおけるアドバンスディレクティブ(事前指示、AD)の役割はほとんど知られていない。
【目的】本研究は、造血幹細胞移植を受けるAYA世代患者において、事前指示がエンドオブライフケアに与える影響(事前指示の頻度、種類、生命維持療法の使用への影響など)を明らかにすることを目的とする。
【方法】2011年4月~2015年1月の間にミネソタ大学で造血幹細胞移植を受けた14歳~26歳の患者96名の後方視的チャートレビュー。延命治療(LST)は、陽圧換気(PPV)、透析、または心肺蘇生法(CPR)の使用と定義した。
【結果】96名の患者のうち、生存率は72.9%であり、23%が事前指示を有していた。死亡した26名のうち、13名(50%)が事前指示を有していた。ICUで死亡した19名のうち、延命治療を希望する患者(n=5)、代理人のみを指名した患者(n=4)、事前指示が無かった患者(n=10)の間で、陽圧換気、透析、延命治療のWithhold(現在実施している以上の治療は追加しない)またはWithdrawal(現在実施している治療を積極的に終了していく)、DNRのタイミングに有意差はなかった。延命治療を希望する患者は、代理人のみを指名した患者や事前指示がなかった患者と比較して、心肺蘇生を受ける可能性が有意に高かった(p=0.02)。
【結論】造血幹細胞移植を受けたAYA世代患者のうち、事前指示を有していた患者は少数であった。患者は自身の選択に強く関連したケアを受けていた。心肺蘇生を除いて、事前指示を有した患者と有していない患者の間では、延命治療の実施には有意差がなかった。
◇コメント
本研究は、造血幹細胞移植を受けるAYA世代患者に対して事前指示が十分に使用されていない現状を示した有意義な報告であった。口頭での事前指示をどのように文書化したのかについて疑問が残る点もあるが、事前指示の具体的な内容についても記載されており、造血幹細胞移植を受けた患者が治療中にどのような意思決定を行ったのかを具体的に知ることが出来た。また、研究の限界について詳細に記載されており、今後同分野の研究を進めていくことの必要性を示すことが出来ていたという点でも評価できると考える。一方で、本研究の根幹とも言える「エンドオブライフケア」の定義が示されていなかったことで、研究目的が曖昧になっているようにも感じる。Methods内で「AD」「LST」の定義については記載されていたため、「エンドオブライフケア」の定義も示すことが出来ていれば、より本研究で明らかにしたかったことが明確になったと考える。また、対象者をAYA世代に限定した理由について論文から読み取ることが困難であった。AYA世代は、自身で意思決定を行える年代とそうでない年代が混在していると言えるため、結果に偏りが生じてしまった可能性も否定できない。対象者の選定を再考することで、より有意義な研究になったと考える。本研究は、治療に関する事前指示に特化した内容であったため、より看護に重点を置いた内容の文献を抄読する必要性も感じた。(担当:永井さん)
2022年5月 文献紹介
Zhang L., et al. Efficiency of Electronic Health Record Assessment of Patient-Reported Outcomes after Cancer Immunotherapy-A Randomized Clinical Trial. JAMA Netw Open, 2022 Mar 1;5(3):e224427. DOI: 10.1001/jamanetworkopen.2022.4427
【背景】免疫チェックポイント阻害薬(ICI/Immune Checkpoint Inhibitor)を使用したがん免疫療法の急速な発達により患者の生存率は著しく向上した。一方で様々な免疫関連有害事象(irAE)を引き起こし、生命を脅かす傷害につながる可能性もあり、患者及び臨床医はirAEを認識し、適時に介入ができるように綿密かつ適時なフォローアップを必要とする。
【目的】がん免疫療法を受ける患者の安全性とQOL向上のための電子患者報告アウトカム(ePRO)の効率性とフォローアッププロセスの時間短縮を検討することを目的とした。
【方法】がん免疫療法を受けた介入群と対照群の治療成績を比較する非盲検・多施設共同無作為化臨床試験。2019年9月1日~2021年3月31日までに中国の15省にある28の三次医療病院でがん免疫療法を受けた患者を対象とした。患者は介入群と対照群に無作為に割り付けられた。条件は、18歳以上、がん免疫療法を受けている、PS0-1、余命6か月以上、プロトコルに従ってフォローアッププロセスを完了する意思がある、介護者の助けがあってもなくてもスマートフォンやPCを操作できるであった。対照群には、患者とその介護者に免疫療法とirAEの一般的な症状についてベースライン時に教育を行った。患者は21日毎の外来受診と3か月毎の電話によるフォローアップを含む従来のモデルで行った。介入群は、ePROアプリに登録しフォローアップ。アプリには一般的な症状に関する質問票とガイドラインに沿った典型的なirAEの発生とgradeを評価するための検査結果の画像認識機能が含まれ、患者は毎週問診票を確認、診察の合間に検査結果の画像を携帯端末やPCにアップロードした。Grade3-4のirAEが報告された場合、アプリは医療チームに警告し医療チームが電話によるフォローアップと患者の状態を総合的に評価、それでも重篤な場合は外来受診や救急外来受診での評価と治療を受けるよう勧められた。患者はアプリ上でいつでもチームに相談することができた。
【結果】計278例(平均[SD]年齢、58.8[12.7(範囲、27-78)];男性206人[74.1%]が解析に含まれ)、介入群141人、対照群137人から構成された。irAE発現は278例中228例(82.0%)、重度なirAEによる死亡は7名(2.5%)であった。介入群では重度のirAEが少なかった(141例中29例[20.6%]vs137例中46例[33.6%];HR0.51[95%CI0.01-0.85];p=0.02)。死亡率の差は有意ではなかった(141例中2例[1.4%]vs137例中5例[3.6%];HR0.38,95%CI0.07-1.99;p=0.28)。3か月毎に患者のQOLをQLQC30を用いて評価し、ベースライン時と3か月時のQOLスコアに有意差はなかった。しかし6か月後の総平均得点は介入群で高かった (74.2[15.1(95%CI71.7-76.9)]vs64.7[28.5(95%CI61.0-68.4);p=0.001]) 。また各フォローアップセッションに費やされた時間を記録し、平均時間が比較され、全過程において介入群及び対照群の平均時間は8.2(SD3.9[95%CI5.0-10.6])分vs36.1(SD15.3[95%CI%33.6-38.8]分、p<0.001)であり、介入群の方が有意に短かった。介入後評価において、介入群は重篤なirAEの発生率の減少を示した。しかし、死亡率にはグループ間で有意差はなかった。
【考察】この無作為化臨床試験では、ePROフォローアップモデルががん免疫療法を受けている患者の安全性とQOLを向上させると同時に、モニタリングに費やす時間を短縮できることが判明した。このモデルは、信頼できる情報と管理上の推奨事項を提供する可能性がある。
◇コメント
対象選択において、がん種に偏りがあり、がん種によっては病態やStagingによってQLQ-C30に違いが出てくるのではないかと考えた。また大卒が多く、介入結果に影響があったのではないかと推測する。irAEにおけるgrade分類においてはどの症状で分類が評価されたのかが示されていない。このことが結果に偏りを生じさせているかどうかは不明である。またePROモデルを使用することのリスク、介入が遅れると致命的となる可能性を有することを含め、患者や医療者を守るシステムなど倫理的問題についても議論を要すると考えた。介入群には定期的な外来受診はあったのか不明であったことに加え、+αでのePROによる症状報告を考慮するとアドヒアランス低下の一因としても考えられた。QOLの評価についてはt検定を用いていたが、介入群と対照群の2要因に時間経過が加わっており、分散分析が適しているのではないかと考えた。研究結果からは、ICI導入時にいかに患者と医療者がICI及びirAEに関する知識を共有し、患者の異常に早期に気付くためのフォローアップシステムを確立することや患者自身の自覚症状の出現や変化への気付きに敏感になることが重要だということを再認識した。これらを臨床業務に活かし、また論文抄読では対象選択方法や検定方法、倫理的配慮にも視点を向け、更なる学びを深めていきたい。(担当:額田さん)
2022年04月 文献紹介
同種幹細胞移植後の不十分な経口栄養は重篤な移植片対宿主病と有意に相関する
Mattsson J., et al. Poor oral nutrition after allogeneic stem cell transplantation correlates significantly with severe graft-versus-host disease. Bone Marrow Transplantation, 2006:38(9), 629–633.
Doi : 10.1038/sj.bmt.1705493
【背景】重症患者では、非経口栄養(PN)は粘膜の萎縮と感染性合併症のリスクの増加と関連している。同種移植後在宅治療を受けた患者は、1日の経口摂取量が多くPNの利用が減少する。さらに急性GVHDのグレードII~IVの発生率が低い。
【目的】入院治療を受けた患者の経口摂取量と急性 GVHD の間に相関関係があるかどうか。方法:1995年1月から2004年4月までに同種移植を受け、除外基準をクリアした228人を対象とした。移植情報、5年生存率、菌血症、急性GVHD grade、PN投与期間、欠食期間をカルテよりレトロスペクティブに収集した。欠食日数1~4日、5~8日、9日以上の3群にて分析した。
【結果】5年生存率は、grade0、grade I、grade II、grades III-IVそれぞれ61、66、50、17%であった。急性GVHD grades III~IVの患者は、GVHD grades 0~IIの患者と比較し長期間PN投与された(中央値20 vs.10、P=0.016)。PN投与期間と菌血症(P=0.001)およびVOD(P=0.03)に相関があった。5日以上経口摂取していない患者では47%(NS)菌血症が検出された。急性GVHD grades III~IV発症率は欠食期間1~4日で6%,5~8日で17%,9日以上で38%であった。多変量ロジスティック回帰分析(ドナーでの補正)では、欠食期間9日以上(OR 7.66, CI 1.44-40.7, P=0.016),PBSC(5.87, 1.61-21.4, P=0.007),CsA+MTX でない GVHD 予防(OR 16.9, CI 2.75-104, P=0.002 )が 急性GVHD grades III-IVと独立した因子であった。
【考察】同種幹細胞移植後9日以上の経口栄養不良は重度GVHD発症に影響する可能性が考えられた。
◇コメント
一般的に静脈栄養法のみでは、IFN-γの増加による消化管への組織損傷を誘発させ、エンドトキシン等の増加をもたらし消化管損傷を更に促進させる。同種移植においては、移植前処置による消化管毒性(組織損傷)は急性GVHDのリスク上昇と相関するという。今回の研究における、急性GVHD発症前の欠食日数(=静脈栄養法のみの状態)と急性GVHDとの解析結果は上記を反映している可能性はある。しかしながら、GVHD発症の他要因である栄養に関するデータや、欠食期間による群分けは研究者独自に設定されるもそのグループの特性が不明瞭であり、そして解析の詳細が無い事など再現性に不安を感じた。彼らは2008年に準ランダム化比較試験、2013年には臨床研究にて経口栄養の役割として移植後21日間の経口エネルギー摂取量が多い事がGVHD発症に重要である結果を出している。しかし、欠食期間については触れていなかった。(担当:庄野さん)
2022年03月 文献紹介
日本における入院COVID‐19患者の喫煙と病気の重症度
Matsushita Y., et al. Smoking and severe illness in hospitalized COVID-19 patients in Japan.International Journal of Epidemiology. 2021 Dec 11 dyab254.
Doi:10.1093/ije/dyab254/6459596
【目的】日本国内の入院COVID-19患者の大規模なデータレジストリを用いて、喫煙状況とCOVID-19の重症度との関係を特定する。
【方法】分析対象は、20〜89歳の17666人のCOVID-19入院患者 (男性:10250人、女性:7416人)。COVID-19の重症度をグレード0〜5で評価した。多重ロジスティック回帰分析を用いて、グレード0(酸素なし、基準群)と重度グレード3/4/5(侵襲的人工換気/ECMO/死亡)およびグレード5(死亡)の喫煙歴を比較した。結果は、併存疾患の潜在的な影響を考慮し、年齢などで調整したオッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)で示した。
【結果】男性では、喫煙歴があると、グレード3/4/5およびグレード5のリスクが有意に上昇し、年齢および入院日調整後のOR(95%CI)はそれぞれ1.51(1.18-1.93)と1.65(1.22-2.24)であった。併存疾患の調整を加えると、ORは弱まった。女性についても同様の結果が得られた。現在の喫煙は、男女ともグレード3/4/5およびグレード5のリスクを有意に増加させなかった。
【結論】COVID-19の重症度は、現在または過去の喫煙そのものではなく、喫煙によって引き起こされる併存疾患と関連していた。したがって、禁煙は喫煙関連疾患を予防し、COVID-19の重症化リスクを低減するための重要な因子であると考えられる。
◇コメント
本研究は、大規模レジストリーからの貴重な報告であった。重症例ほど、入院時に喫煙歴を聴取できず、「喫煙歴不明」が多かったという事実も示されていた。喫煙指数や現在の喫煙本数等による詳細な解析も望まれるが、併存疾患(喫煙関連疾患)を予防するためにもCOVID-19による重症化のリスクを低減するためにも禁煙をすすめることは重要と考えられた。対象者は20歳以上に設定されていたが、喫煙の影響や併存疾患について考えると、対象年齢については議論の余地があるだろう。結果の表についてはbusyであり、研究目的にもとづきさらにわかりやすい示し方が必要と考えられた。今回の抄読をとおして、研究目的を念頭に論文を読むことの大切さを実感することができた。(担当:山本さん)
2022年02月 文献紹介
救急部における性的指向および性自認に関する情報収集のための患者中心のアプローチの評価
Haider A., et al. Assessment of Patient-Centered Approaches to Collect Sexual Orientation and gender Identity Information in the Emergency Department: The EQUALITY Study. JAMA Network Open. 2018 Dec 7;(8): e186506. Doi:10.1001/jamanetworkopen.2018.6506.
【意義】医療機関や政府機関は、臨床現場において性的指向と性自認(SOGI)の情報を日常的に収集することを求めているが、収集方法に対する患者の希望は不明なままである。
【目的】救急部(ED)において、SOGI収集のための患者中心の最適なアプローチについて評価する。
【デザイン、設定、参加者】米国東海岸の4つのEDを対象としたマッチドコホート研究。2016年2月から2017年3月にかけて、2種類のSOGI収集アプローチを検証した。多変量順序ロジスティック回帰分析を用いて、いずれかのSOGI収集方法がED体験に対する患者満足度の高さと関連するかどうかを評価した。18歳以上の成人を対象とし、性的またはジェンダーマイノリティと自認する患者(SGM)を登録し、年齢( ≧ 5歳)および疾患の重症度(緊急重症度指数スコア±1)で、異性愛者でシスジェンダーと自認する患者(非SGM)、およびSOGI情報が不足している患者(空欄)と1対1にマッチングさせた。SGM、非SGM、空欄とした患者には、ED受診に関するアンケートに回答してもらった。
【介入】看護師による口頭収集と患者登録時の非言語収集の2つのSOGI収集アプローチ。EDの医師、医師助手、看護師、登録担当者は、介入期間前と期間中、性的少数者の健康格差と用語に関する教育・訓練を受けた。
【主要評価項目と測定方法】Communication Climate Assessment Toolkit(CCAT)のスコアを修正し、患者満足度を追加したもので、Stakeholder Advisory Board(SAB)の意見を取り入れて作成された詳細な調査。
【結果】合計540名の登録患者を分析した。平均年齢は36.4歳で、性別が判明した患者の66.5%が女性。SGMの患者は、看護師の口頭による収集と比較して、非言語による登録者のフォーム収集で CCATのスコアが有意に高かった(平均 [SD], 95.6 [11.9] 対 89.5 [20.5]; P = 0.03)。2つのアプローチ間の有意差は、非SGM患者(平均 [SD]:91.8 [18.9] vs 93.2 [13.6]; P = .59)または空欄のある患者(92.7 [15.9] vs 93.6 [14.7]; P = .70)にはみられなかった。年齢、人種、疾患の重症度、および病院の場所を調整したところ、SGM患者は、口頭による収集と比較して、用紙収集時にCCATのカテゴリがより良好である確率が2.57倍(95%CI、1.13-5.82)高かった。
【結論および妥当性】SGM患者は、SOGIをフォームによる非言語的な自己報告で収集した場合、より快適で、コミュニケーションが改善された。登録用紙による収集は、EDにおけるSOGI情報収集のための患者中心な最適な方法であった。
◇コメント
本研究は、救急部における患者中心のSOGIの情報収集方法を初めて評価した貴重な論文である。また、データの信頼性を得るため他施設共同のマッチドコホート研究を行なっている。頑健性を保つためには、年齢、人種、疾患の重症度、および病院の場所を調整した上で多変量順序ロジスティック回帰分析され、待ち時間においては感度分析がされている。一方で、患者満足度は様々な影響因子が考えられるため、調整項目や感度分析が適切かについては更なる検討が必要である。さらに、本研究の主要評価項目で使用された、Communication Climate Assessment Toolkit(CCAT)の元の尺度と、修正した尺度が明確に記されていないことから、SGM患者は看護師の口頭収集に比べ、登録者の非言語的収集で救急部での満足度が有意に高いという結果については慎重な解釈が必要と考える。ディスカッションを通し、救急部においての患者中心のSOGI収集の必要性及びSOGI患者の健康格差などの背景、スタッフの教育内容などの更なる知見の累積が必要であることを気づくことができた貴重な機会となった。(担当:朝日さん)
2022年01月 文献紹介
運動とMFGM補給が地域在住のフレイル女性における体組成、身体機能および血液学的パラメータに及ぼす影響
Kim, H et al. Effects of Exercise and Milk Fat Globule Membrane (MFGM) Supplementation on Body Composition, Physical Function, and Hematological Parameters in Community-Dwelling Frail Japanese Women: A Randomized Double Blind, Placebo-Controlled, Follow-Up Trial. Plos one, 2015, 10(12): e0116256. Doi:10.1371/journal.pone.0116256.
【背景】フレイルの予防として、運動に焦点が当てられている。また、milk摂取が有効であることが報告され、milkの1つであるMFGMは、老化したマウスの筋肉量の悪化を効果的に抑制することが報告されている。しかし、フレイル高齢者に対してMFGMと運動の組み合わせの影響は検討されていない。
【目的】地域在住フレイル高齢女性(日本人)における運動とMFGM(乳脂肪球膜)補給の組み合わせおよび単独介入の効果を身体機能、身体活動レベル、血液学的パラメータを用いて評価すること。
【方法】CONSORT声明に基づいたRCT。75歳以上の131人のフレイル女性が、運動+MFGM群、運動+プラセボ群、MFGM群、プラセボ群に割り当てられた。運動を実施した群は60分週2回の運動プログラムに3か月間参加した。MFGMを補給した群は毎日MFGMサプリメント(1g)を3か月間摂取した。Primary outcomeはFried’s frailty phenotypeを用いたフレイル状態の変化で、Secondary outcomeは、体組成、身体機能および血液学的パラメータ、生活スタイルであった。介入後4か月間フォローアップがなされた。
【結果】運動+MFGM群33名、運動+プラセボ群33名、MFGM群32名、プラセボ群33名であった。群×時間の相互作用が、通常の歩行速度(P=0.005)、最大の歩行速度(P<0.001)、‘(IGFBP3/IGF1)×1’(P=0.013)に認められた。フレイルの構成要素である体重減少、疲労、低身体活動、低速歩行速度は逆転(改善)したが、低筋力は有意に変化しなかった。Frailty逆転率は、介入後のMFGM群(28.1%)、プラセボ群(30.3%)よりも運動+MFGM群(57.6%)で有意に高かった(P= 0.032)。フォローアップ後の結果においては、プラセボ群(15.2%)と比較して、運動+MFGM群(45.5%)、運動+プラセボ群(39.4%)で有意に高かった(P=0.035)。運動+MFGM群は、介入後およびフォローアップ時のフレイル逆転に対するオッズ比が最も高かった(OR=3.12、CI=1.13-8.60;OR=4.67、CI=1.45-15.08)。
【結論】運動と栄養を含む介入がフレイル状態を改善できることを示唆している。運動にMFGMを加えることに対して統計学的に有意な相加作用は確認できなかった。より大きいサンプルでの調査が必要である。
◇コメント
運動と栄養を併せた介入がフレイルの改善につながるという知見は、フレイルの研究において、介入を考えていくうえで重要な知見を示した研究であった。群の特性として、疾患の有無や食事摂取量、BMI等、MFGM補給や運動の介入の効果に及ぼすであろう因子の記載が欲しかった。ベースラインのMFGM群とプラセボ群のβ2ミクログロブリン、ミオスタチン等の組成の平均値をみると、MFGM群においてフレイル予防に重要なタンパク質の割合が低く、脂肪の割合が高いことから、適切なプラセボ群であったのかに疑問をもった。今後の課題として、男性を対象とした検討も必要であると考える。(白水さん)
2021年12月 文献紹介
Unoki, T et al. Prevalence of and risk factors for post-intensive care syndrome: Multicenter study of patients living at home after treatment in 12 Japanese intensive care units, SMAP-HoPe study. Plos one, 2021,May 27, 16(5):e0252167. DOI: 10.1371/journal.pone.0252167
【背景】日本ではPost-Intensive Care Syndromeの疫学が未だ明らかになっていない。特に精神機能障害は看過できないものであり、低いQOLと関連する。
【目的】 ICU退室1年後に自宅で生活しているICUサバイバーのPTSD、不安、抑うつの有病率およびQOLの実態を明らかにすること。さらに、ICUの予定外入室がPTSD、不安、抑うつと関連するか否かを明らかにすること。
【方法】双方向性コホート研究(後ろ向き・前向き)を日本の12 ICUで行った。ICUに3夜在室し、調査時在宅にいる患者を組み入れた。ICU退室後1年時点に、月単位で後ろ向きに患者をスクリーニングし、郵送法による調査を行った。調査内容は、Impact of Event Scale-Revised(IES-R)、Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS)、Euro QOL-5Dimention(EQ-5D)である。患者基本情報、せん妄、意識状態、薬剤使用、ICU在室日数、入院日数は診療録から収集した。記述統計および多変量線形回帰モデルを仮説検証に用いた。
【結果】7030名の退室患者のうち、854名に郵送調査を行い、778名が回答した(回答率91.1%)。754名のデータを分析した。IES-Rの中央値は3(IQR:1-9)、PTSD疑いは6.0%だった。HADS-不安の中央値は4.00(IQR:1.17-6.00)、 有病率は16.6%だった。HADS-抑うつの中央値は5(IQR:2-8)、有病率は28.1%だった。EQ-5D-Lスコアは性別、年齢をマッチさせた日本人データと比較して低かった。予定外入室はPTSD、不安、抑うつ症状の独立した危険因子であった。
【結論】General ICUのおよそ1/3の患者がICU退室後1年時点でメンタルヘルス課題を経験していた。予定外ICU入室は、PTSD症状の独立予測因子であった。
◇コメント
本研究は、日本のGeneral ICUコホートのICU退室後1年の精神機能障害及びQOLの実態を初めて大規模データで示した貴重な報告である。ICUコホートは死亡率が高く、フォローアップが難しく、脱落によるバイアスや欠測が常に課題となる。このような中で信頼性のあるデータを得るために、多施設共同双方向性コホート研究を行っている(実質的には後ろ向きコホート)。また、欠測値の代入、感度分析を行い、データの頑健性を保つ努力がなされている。欠測値の取り扱い、外傷患者が全体の3%程度の中の感度分析の方法を考えると結果の解釈には留意を要すが、APACHE IIスコアが14程度の患者のICU退室1年後に1/3が精神機能障害を有病している貴重なデータが示された。 また、PICSハイリスク群を効率的にスクリーニングし、必要な介入を行うかは世界的な重要課題である。本研究は、予定外ICU入室がICU退室3ヵ月後のメンタルヘルス悪化の予測因子であることを示しており、既知のリスク因子に加え新たな情報を示した。一方で、本研究の分析方法は、従属変数をPTSD、不安、抑うつの得点とした重回帰分析である。予定外ICU入室のICU退室1年後の精神機能障害に対する予測精度については、さらなる研究が求められるであろう。 本研究は、日本のPICSメンタルヘルス領域の課題の特定とスクリーニング対象の選定にむけた第一歩となる貴重な報告である。一方で、この領域の研究を進めるための倫理的適切性、実行可能性をも考えさせられた報告でもあった。(担当:岩谷さん)
2021年11月 文献紹介
痛みと加齢に伴う変化の認識との関連性(横断的調査)
Sabatini, S et al. The cross-sectional relationship between pain and awareness of age-related changes.
British Journal of pain, 2021,15(3),335-344. DOI: 10.1177/2049463720961798
【背景】肯定的あるいは否定的なawareness of age-related changes(AARC gains /AARC losses)は、いくつかの領域(身体的,認知的,社会的,対人関係やライフスタイル)で、個々の経験として加齢による変化の受け止めを捉えたものである。AARCの先行因子を探求することは、加齢に関連した変化に適応するあるいは加齢における肯定的な経験を促進するために重要である。
【目的】痛みの経験がより少ないAARC利益、よい高いAARC損失のpredictorとなるのかを調査することである。
【方法】2019年1~3月のPROTECT cohortに参加した1013名のイギリスの住民が対象。年齢は平均65.3歳(51-92歳)で、84.4%が女性であった。痛みの測定指標としては、PROMIS pain interference item 5項目が用いられた。AARCとして、AARC-10 SF: gains 5項目、losses 5項目が用いられた。分析には回帰モデルが用いられた。その他精神的な状態の把握としてPHQ-9、GAD-7、機能的状態の把握としてLawton’s IADL scaleが用いられた。
【結果】相関分析の結果AARC gainsに有意な関係が認められたのは性別のみ(r=.16)であった。AARC lossesには痛み、年齢、性別、教育歴、現職が有意に関係した。回帰分析を行ったところ、AARC lossesに最も強く関連したのは痛みであった(β=.32)。AARC lossesを痛みと年齢、性別、教育歴、現職で16%(Total R2)説明していたが、説明率の10%は痛みでの説明であった。痛みは、AARC gainsとの関連を認めなかった。
【結論】痛みの経験が、AARC lossesをより高めているかもしれない。痛みに関する介入が、加齢による変化の認識(否定的な認識)を改善する介入になるかもしれない。
◇コメント
本研究を読むことによって、AARC(awareness of age-related changes)という概念があることを知った。AARCの概念的フレームワーク(Diehl&Wahl,2010)を用いることで、わが国の高齢者のwell-beingを目指した研究を検討することも可能ではないかと考えられた。ただ、本研究では50歳以上の者を対象としており、高学歴の者が参加者に多いなど、サンプルバイアスが生じており、結果の解釈は慎重にしなくてはならないと考える。また横断的な調査であり、痛みとAARC lossesの因果についても、さらなる検討が必要と考えられた。(担当:森本)
2021年10月 文献紹介
慢性腎臓病患者における減塩に関するセルフマネジメントへの介入:ランダム化比較試験
Jelmer K., et al. A Self-management Approach for Dietary Sodium Restriction in Patients With CKD: A Randomized Controlled Trial. Am J Kidney Dis, 2020, 75(6): 847-856.
doi : 10.1053/j.ajkd.2019.10.012
【背景】Self -Regulation Modelにもとづくセルフマネジメント介入により、塩分排泄量の増加、血圧低下などの効果が期待されている。対面での介入は費用もかかることから、Web-baseの介入(SUBLINE intervention)を検討した。
【目的】CKD患者における減塩食セルフマネジメントへの介入を評価すること(Web-baseの介入の効果を明らかにすること)
【方法】オランダの4つの腎臓内科外来で、CKDステージ1-4あるいはeGFR 25以上の患者で、高血圧があり、塩分を130mmol/dより多く摂取している者を対象とした。介入群には3か月の集団指導の後、e-coachingによる6か月間のフォローが行われた。アウトカムは、塩分排泄量、血圧、セルマネジメント、QOLであり、ベースライン、3か月後、9か月後に評価された。セルフマネジメントにはPartners in Health (PIH) scale、QOLにはSF-12、EuroQol-5Dを使用した。
【結果】介入群に52名、コントロール群に47名が割り付けられた。分析対象者は介入群45名、コントロール群が47名であった。介入群においてベースラインのeGFRは55.0±22.0ml/分1.73m2、塩分分排泄量は188±8mmol/dであり、コントロール群と同様であった。介入群では、ベースラインと比較して3か月後に塩分排泄量が24.8mmol/d低下したが、3か月から9か月後にかけては有意な変化はなかった。9か月後の時点では、ベースラインと比べてコントロール群においても塩分排泄量に有意な低下があった。血圧、セルフマネジメント得点、QOLにおいては介入による効果は認めなかった。
【結論】介入群では、3か月後に塩分排出量が有意に減少しており、これは塩分摂取量が少なくなったことを示しており、Web-baseの介入(SUBLINE intervention)の有用性が示された。
◇コメント
CKD患者のセルフマネジメント支援についてWeb-baseの介入は報告例も少なく、有益な報告であった。ただし、塩分摂取量が多い者を対象としており、効果が出やすかった可能性もある。9か月時点では、コントロール群との間に差がないことやセルフマネジメント得点に介入群とコントロール群に差がないこと等、介入の効果を評価するうえでの課題も示された。異文化圏での介入であり、わが国のCKD患者に援用できるか、長期的なフォローも含め、更なる知見の蓄積が必要と考える。ディスカッションを通し、クリティークにおいて自身が見落としていた点における気づきもあり、貴重な機会となった。(担当:梶原さん)
2021年9月 文献紹介
レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、クエスチョニングを含んだ教育と米国の高校生の精神的健康状態および学校での被害との関連について
Proulx, CN et al. Associations of Lesbian, Gay, Bisexual, Transgender, and Questioning-Inclusive Sex Education with Mental Health Outcomes and School-Based Victimization in U.S. High
School Students, J Adolesc Health, 2019 May; 64(5):608-614. doi: 10.1016/j.jadohealth.2018.11.012.
【背景】LGBTQの人々や歴史、出来事について教えるカリキュラムがある学校(14.8%)では、ない学校(31.1%)に比べて、性的指向に基づく被害の経験が少ないと報告している。しかし、LGBTQインクルーシブ・カリキュラムのみが性的少数者の青少年(SMY)のネガティブなメンタルヘルス・アウトカムの減少に関係するかを調べた研究はない。
【目的】米国の青少年を対象にLGBTを含む教育が、精神衛生上の問題や学校でのいじめの被害に関連するか、SMYが異性愛者の生徒と比べて大きく異なる関連性があるか明らかにすること。
【方法】2015年のYouth Risk Behavior Surveyと2014年のSchool Health Profilesのデータが使用された。基準を満たした11州、47,730名を対象に、メンタルヘルス(抑うつ症状、自殺願望、自殺計画)と、いじめの被害に関する質問を「はい」または「いいえ」の2値で、多重ロジスティック回帰モデルを用いてデーダ解析を行った。
【測定と結果】本研究ではオッズ比を結果として示している。バイセクシャルの若者は、過去1年間の抑うつ症状(62.8%)、自殺願望(44.6%)、自殺計画(39.7%)の立案の頻度が最も高く、ゲイ・レズビアンの若者は、いじめ被害の頻度が最も高い。州レベルの共変量を調節した結果、LGBTQを含む教育を行っている学校の割合が高い州に住む学生は抑うつ症状(調整オッズ比[AOR]0.86)、自殺願望(0.91)および自殺計画の作成(0.79)が有意に低かった。性的アイデンティティとLGBTQを含む教育を行っている学校の割合との交互作用を検討した結果、抑うつ症状を訴える両性愛者の割合が異性愛者と比べて低く(0.92)、ゲイ・レズビアンの若者が異性愛者の若者よりも過去1年間にいじめを経験する確率が有意に減少した(0.83)。
【結論】米国の公立高校に通うSMYとヘテロセクシャルの若者の両方において、LGBTQを含む教育が生徒のメンタルヘルスに良好な結果をもたらし、いじめ被害の報告を減少させていた。
◇コメント
大規模なデータでサンプルサイズが大きい点は本研究の強みである。分析モデルは、個人レベルと州レベルの共変量で調整されており、結果における精度を上げている。一方で、抑うつ症状、自殺願望、自殺計画、いじめ被害の質問が1項目のYes or Noであることから、LGBTQを含む教育が有意な効果を示すという結果については、慎重な解釈が必要と考える。バイセクシャルの若者のメンタルヘルスが特に悪いという知見については、その理由を含め今後検討していく必要がある。学校レベルの風土やカリキュラムの内容が本研究では不明であった。これらが結果(効果)に影響を与えている可能性もあり、検討の必要性がある。
意見交換をすることで異なる視点に気づくことができ新たな学びになった。(担当:朝日さん)
2021年7月 文献紹介
医療教育ジャーナルクラブで紹介した文献です。
バーチャルリアリティ VS ライブシミュレーションでの看護師と医師のコミュニケーションチームトレーニング:チームコミュニケーションとチームワーク態度に関するRCT
Liaw,SY et al. Nurse-Physician Communication Team Training in Virtual Reality Versus Live Simulations: Randomized Controlled Trial on Team Communication and Teamwork Attitudes.
Journal of Medical Internet Research,2020,22(4),e17279. DOI:10.2196/17279
【背景】医療チームトレーニングの必要性が強調されている。専門連携教育に、ISBAR等のコミュニケーションを取り入れることは、学生たちの認識やメンバーとのコミュニケートに対して自信を高めると考える。シミュレーションは、医学生・看護学生のコミュニケーション能力・チームワーク態度の向上に有用との先行研究があるが、時間的に運用する難しさがある。
【目的】医学生と看護学生のコミュニケーション能力とチームワーク態度を従来のシミュレーショントレーニングとバーチャルリアリティトレーニングで比較し、プログラムを評価すること。
【方法】RCTが120名の医学生・看護学生を対象に実施された。コミュニケーション能力はチームベースのシミュレーション査定を通して評定された。チームワーク態度は、プログラムの前、直後、2か月後に専門連携態度調査を用いて評価された。
【結果】2群間で、コミュニケーション能力に有意差は認められなかった。両群で、ベースラインと比較して、チームワーク態度得点は有意に増加し、3時点で群間に有意差は認められなかった。
【結論】バーチャルリアリティはライブシミュレーションと比べても劣っていない。
◇コメント
バーチャルリアリティトレーニングを実施しており、興味深い論文であった。介入法としてはTeamSTEPPSを活用しており、チームのコミュニケーション力を高める介入として改めて有用であることがわかった。コミュニケーションパフォーマンスに2群間で有意差はなかったが、測定内容について十分な記載がなかったことは残念であった。バーチャルリアリティトレーニングでも、対面によるシミュレーション教育と同等の結果が得られることがわかり、現在の状況(コロナ禍)において活用可能な教育法と考えられた。チームワークを高めていく研修・介入を考える機会となり、多くの学びのある論文であった。(担当:森本)
人生後半における機能的自立性:身体機能を維持することは80歳以降の日常生活機能を予測する
Vaughan, L et al. Functional Independence in Late-Life: Maintaining Physical Functioning in Older Adulthood Predicts Daily Life Function after Age 80. J Gerontol A Biol Sci Med Sci, 2016, 71 Suppl 1, S79-86. DOI:10.1093/gerona/glv061.
【背景・目的】地域在住の高齢者の40%が機能的制限や障害を有している。既存の縦断調査によって身体的機能は、ADLや死亡率などと関連するとの報告があるが、サンプルサイズは大きくはない。65~80歳の高齢女性の15年間にわたる身体機能(PF)の軌跡を調べ、80歳以降の機能的自立性において、そのPFの軌跡が影響力を持っているのかを検討した。
【方法】基準を満たした女性の参加者(Women’s Health Initiative Studyまたは観察研究コホートに登録し、80歳までに3回以上のPF調査データがあり、80歳以降の機能的自立性(ADL, IADL)の3回以上の調査データがある者)を分析対象とした(n=10478,平均[SD]年齢= 84.0[1.4]年)。PFの評価にはSF-36で測定した一部要素を用いた(0-100点)。機能的自立性には、日常生活活動(ADLおよびIADL)を測定するオリジナルなツールを用いた。ADLは4項目3件法で、IADLは2項目3件法で、得点が高いほど制限を有していることを意味する指標であった。
【結果】PFの軌跡は、「維持」「緩やかな低下」「急速な低下」に識別された。「維持」は32%(n=3341)、「穏やかな低下」は49%(n=5148)、「急速な低下」は19%(n=1989)であった。PF「維持」群には、55歳以上での股関節骨折の既往・CVDの既往のない者が多かった。ADLは、「急速な低下」群で最も点数が高かった。IADLは、3群で有意差を認め、PFの「急速な低下」群が最も点数が高く、制限を有していた。背景因子では、健康状態の自己評価(非常によい)、55歳以上での股関節骨折既往なし、CVDの既往なしで、ADL・IADLの点数が有意に低かった。BMI25未満、抑うつなしで、IADLの点数が有意に低く、より機能的に自立していることが示された。
【結論】高齢者(65~80歳)におけるPFの維持または改善と傷害や病気の予防は、80歳以降の機能の自立性を改善する上で影響を及ぼす。
◇コメント
15年間、高齢者を追跡した大規模データは貴重である。ADL・IADLの測定には独自のツールを用いており、信頼性・妥当性のある尺度の使用が結果の信憑性を高めると考える。今回、保護因子として用いられたPFとアウトカムのADL・IADLは概念的に近く、観測項目から考えても類似しており研究結果を慎重に解釈する必要があると考えられた。(担当:白水さん)
2021年6月 文献紹介
Hermans, G et al. Acute outcomes and 1-year mortality of intensive care unit–acquired weakness- a cohort study and propensity-matched analysis. American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine, 2014, 190(4), 410-420. DOI: 10.1164/rccm.201312-2257OC
【意義】 ICU-AWは頻度の高い重症疾患の合併症である。ICU-AWは不良な転帰のマーカーなのかメディエーターなのかはわかっていない。
【目的】 長期ICU入室患者(8日以上在室)のICU-AWの急性の転帰、1年死亡率、医療費を明らかにすること、ICU退室時のweaknessの回復が与える影響を評価すること。
【方法】データはEPaNIC study(RCT)中に前向きに収集された。転帰や医療費に対するweaknessの影響は、ベースラインの特徴、重症度、リスクファクターを1:1傾向スコアマッチングを行って分析した。ICU-AWあり患者において、ICU退室時のweakness持続が1年死亡リスクに及ぼす影響は、Cox比例ハザード分析を行った。
【測定と結果】78.6%が外科系ICUに入室し、長期ICU在室患者の55%がWeaknessであり、122名のWeak患者が122名のNon-Weak患者とマッチした。Non-Weak患者と比較して、Weak患者は、人工呼吸器からの離脱(HR, 0.709 [0.549–0.888]; P = 0.009)、生存ICU退室(HR, 0.698 [0.553–0.861]; P = 0.008)、生存退院率が低い(HR, 0.680 [0.514–0.871]; P = 0.007)。入院医療費(+30.5%)は高く、1年死亡率も高かった(30.6% vs 17.2%; P=0.015)。Non-Weak患者とマッチングできなかったWeak患者の46%は、予後は悪く、医療費も高かった。ICU退室時にweaknessが改善した群と比較してweakness持続または悪化している群は1年死亡リスクがさらに増加した。
【結論】注意深くデータマッチングした後、ICU-AWは、急性合併症を悪化させ、医療費および1年死亡率を増加させた。ICU退室時にWeaknessが持続、重症であると1年死亡率はさらに増加した
◇コメント
臨床的に重要な課題に対し、傾向スコアマッチングを用いて多くの因子を調整し、ICU-AWが及ぼす短期・長期アウトカムおよび医療費への影響を検討した臨床的に意義ある論文であった。特に、ICU退室時のWeaknessの程度により1年死亡リスクへの影響が明らかであったことから、臨床で根付きつつある早期RH介入の重要性が強調される結果であった。一方で、RHの開始時期や内容、強度が調整されているとより信頼性・妥当性の高い結果になるであろう。傾向スコアを用いる際に特に重要な未測定交絡の影響を吟味すること、および調整因子を十分検討しておくことの重要性を学んだ。また、マッチングに伴う選択バイアスを軽減するための手法においても検討の余地があるかもしれない。ExposureのWeaknessの診断については、診断基準に則った方法ではあるが、測定誤差についての対策は議論がある点だろう。多くの学びがあった論文であった。(担当:岩谷さん)
2021年5月 文献紹介
2か月間の呼吸をベースにしたウォーキングがCOPD患者の不安、抑うつ、息切れ、およびQOLを改善する:ランダム化比較試験
Lin, F‐L et al. Two-month breathing-based walking improves anxiety, depression, dyspnoea and quality of life in chronic obstructive pulmonary disease: A randomised controlled study, 2019,28(19-20),3632-3640.
DOI: 10.1111/jocn.14960
【背景】 症状を和らげること、QOLを改善することはCOPD患者管理における目標である。GOLD(2017)においても心と身体を統合した介入が推奨されており、その効果は示されつつある。しかし、一定の見解が得られているとはいえない。
【目的】 COPD患者の不安、抑うつ、息切れ、およびQOLに対する2か月間の呼吸ベースのウォーキング介入を行い、その効果を明らかにすること。
【方法】CONSORT声明を用いたRCT。台湾の医療センターでCOPDと診断された外来患者から参加者をリクルートし、介入(ウォーキング)群とコントロール群に割り当てた。介入群は、呼吸法、瞑想法、ウォーキングに対する介入(1回30分、週5回)を2か月間受けた。不安、抑うつ、息切れ、QOLのデータが、ベースライン、1か月後、2か月後、3か月後に収集された。 不安・抑うつにはHospital Anxiety and Depression Scale(HADS)、息切れの程度にはthe modified Medical Research Council (mMRC)、QOLにはCOPD assessment test(CAT)が用いられた。
【結果】介入群に42名、コントロール群に42名が割り当てられた。1か月後に介入群で4名、コントロール群で2名の脱落があり、最終的な分析対象者は、介入群38名、コントロール群40名であった。この研究に参加した対象者の74.4%に運動習慣があった。介入群は、ベースライン時の不安が、コントロール群に比べて有意に高かった(介入群3.03点、コントロール群1.63点)。ベースラインと比較して、介入群で3か月を通して不安、抑うつ、息切れ、QOLに有意な変化(得点の低下;改善)を認めた。
【結論】呼吸をベースにしたウォーキングはCOPD患者のwell-beingを達成するために有用と考えられた。
◇コメント
わかりやすく図表が示されていた。エクササイズ、リラクゼーションなどが不安、抑うつに効果があることは従来から報告されており、新規性としては乏しい。ただし、本研究での介入法は簡便な低負荷の介入であり、取り入れやすさはあると考えられた。本研究では脱落は少ないが、週5日間継続できたのか、継続できるような工夫についての記述が欲しかった。分析結果として、平均変化量や効果量(エフェクトサイズ)の算出をすることが、介入効果の判断にはより適していると考えられた。(担当:森本)
2021年4月 文献紹介
慢性状態にある患者の病気認知(Illness representation)の類別化についてのシステマティックレビュー
Rivera, E et al. A systematic review of illness representation clusters in chronic conditions, RESEARCH IN NURSING & HEALTH, 2020, 43, 241-254. DOI: 10.1002/nur.22013
【背景】慢性状態における人々の信念(病気認知)は健康の維持や治療に影響を及ぼす。近年ではクラスター分析を用いて病気の認知についてパターンの違いを見出し、健康報告アウトカムにとってより望ましいパターンを特定するといった報告がなされている。本研究では慢性疾患患者において、クラスター(病気認知におけるパターン)と健康報告アウトカムの関係についての傾向を見出すため、病気の認知についてクラスター分析を実施した報告について統合することを目的とした。
【方法】PRISMA声明を参照し、CINAHL、PsycInfo、PubMedのデータベースを使用し文献の検索を行った。適格基準は、査読のあるジャーナル、英語での記載、クラスター分析の実施、Illness perception questionnaire-Revised(IPQ-R,改訂版病気認知尺度)の使用、慢性状態にある者が対象、健康報告アウトカムを測定している、とした。レビューシートを作成し、IPQ-Rの9次元のうち1次元(病気の原因)を除き、病気の認知のパターンにおける健康報告アウトカムの特徴を検討した。
【結果】12の文献を抽出した。クラスター数は2~3であった。いずれか1つのクラスターは健康報告アウトカムと関係していた。病気の認知(IPQ-R)の8次元のうち、患者にとって望ましい健康報告アウトカムは、「病気の結果」「病気の同定」「感情表象」の3次元において得点が低いことに関係していた。病気の認知のうち、「病気の結果」「病気の同定(症状)」「感情表象」の次元は他の次元にくらべ重要な次元であることが示された。
◇コメント
従来より、糖尿病や心疾患患者などで、病気の認知とセルフケア行動との関係が検討されてきた。IRQ-Rは9次元で構成されることから、多次元の得点結果を解釈することが難しい現状もあった。クラスター分析を用いて病気の認知のパターンを捉えていくことは、患者を理解するうえでも有用と考える。適格基準を満たした12文献では、病気認識のクラスターは2~3であった。この結果は、この領域における貴重な知見となり得る。また、3つの次元が健康報告アウトカムに影響を及ぼす次元として、クラスターのなかでも特徴があることがわかった。クラスター分析として用いられてきた手法の変遷、病気認知との関係でアウトカム指標として用いられてきた変数等も示されており、研究動向を把握できる貴重なレビューであった。(担当:梶原さん)
2021年2月 文献紹介
プラチナベースの化学療法を行う進行期非小細胞肺がん患者の治療満足度:前向きコホート研究
Visser S, et al. Treatment satisfaction of patients with advanced non-small-cell lung cancer receiving platinum-based chemotherapy: Results from a prospective cohort study (PERSONAL). Clinical Lung Cancer 2018,19(4),e503-516. DOI: 10.1016/j.cllc.2018.03.003
【背景・目的】進行期非小細胞肺がんの薬物療法は、全生存期間とQOLを改善するといわれている。ただし、薬物療法には有害事象があり、有害事象はレジメンおよび患者の特性によって出現数と重篤度が異なり、QOLに影響を及ぼすため、薬物療法の開始もしくは継続の決定において重要視される因子となる。QOLおよび有害事象のほかに治療満足度(SWT)を評価し、薬物療法を受けている進行期非小細胞肺がん患者の治療満足度(SWT)が臨床上の意思決定に役立つかどうかを前向きに検討する。
【方法】2012年10月から2014年11月の期間で、シスプラチン併用薬物療法を受ける進行期非小細胞肺がん患者(stage ⅢBもしくはⅣ)を対象にした多施設前向きコホート研究である。データ収集には、CTSQ、WHOQOL-BREF、EORTC QLQ-C30を用いた。CTSQは薬物療法4クール完了後に1回、WHOQOL-BREF、EORTC QLQ-C30は、治療前・2クール後・4クール後の3回測定した。多変量解析を用いて、SWTに関連する因子、それらの因子の重要度を検討した。
【結果】89名の患者が4クールの治療を終了し、65名の患者がCTSQ評価を完了した。QOLの改善/悪化、有害事象の有無にかかわらず、86.2%(56名)の患者が、また同じ治療を受けたいと回答した。 SWTに最も寄与した因子は、QOL(C30)のQOL/GHS(global health status)であった(R2=.170)。
SWTには、年齢、治療奏効率、FSE(副作用の感覚)が独立して関与していた。
【結論】治療満足度は、QOLや有害事象に加えて重要な追加情報を提供した。年齢、治療奏効率やFSEが治療満足度と関連した。これらの知見は、緩和的化学療法の意思決定に影響を与える可能性がある。
◇コメント
CTSQは、がん患者の薬物療法を継続するかどうかの判断基準のひとつとして用いられる尺度である。本研究は、CTSQ、WHOQOL-BREF、QLQ-C30を用いて有害事象や治療満足度を評価している興味深い研究である。ただし、治療中の状態悪化や精神的負担による脱落者(60%)が多く、治療を完遂でき、CTSQに回答できた人は半数以下(40%)であった。治療に対する満足度は、臨床上の意思決定に役立つ指標となるという結論は、サンプルサイズを考慮して慎重に解釈する必要があると感じた。(担当:平松さん)
2021年1月 文献紹介
慢性腎臓病患者におけるセルフマネジメントプログラムの効果
Nguyen NT, et al. Effectiveness of self‐management programme in people with chronic kidney disease: A pragmatic randomized controlled trial. Journal of Advanced Nursing 2019, 75(3), 652-664 DOI: 10.1111/jan.13924.
【目的】通常ケアと比較して、Social Cognitive Theory(SCT)に基づいた教育介入が慢性腎臓病(CKD)患者のセルフマネジメント、CKD関連知識、セルフエフィカシー、健康関連QOL、血圧の改善に効果があるのかを検討する。
【方法】18歳以上の透析導入をしていないCKD stage3~5の患者を対象にした。封筒法により135名を両群に割り付け、介入群は68名、コントロール群は67名であった。コントロール群には通常のケアを、介入群には通常のケアに加えてSCTに基づくセルフマネジメントプログラムの介入を行った。主要評価項目はセルフマネジメントとCKD関連知識であり、解析には線形混合モデルを用いた。副次評価項目は、セルフエフィカシー、健康関連QOL、血圧であった。介入群には4週と12週で介入を行い、8週、16週でそれぞれ評価を行った。
【結果】ベースラインの両群の背景は性別を除き類似した。セルフマネジメント、CKD関連知識、セルフエフィカシー、健康関連QOL、血圧にもベースラインでの有意差はなかった。16週後のセルフマネジメント、CKD関連知識、セルフエフィカシーは、介入群でコントロール群に比べて上昇し、その効果量は大きかった。健康関連QOLは介入群において16週で有意に上昇した。しかし、血圧については改善を認めなかった。
【結論】透析導入をしていない stage3~5のCKD患者には、セルフマネジメント教育の効果が認められた。
◇コメント
本研究はSCTを活用した介入で16週の観察期間において、セルフマネジメント、CKD関連知識、セルフエフィカシー、健康関連QOLは改善を示し、介入群でその効果は大きかった。しかし、セルフマネジメントの評価に用いられたChronic Kidney Disease Self-Management instrument(CKD-SM)は、原尺度に3項目の追加がされて得点化されており、評価指標における課題が残った。また、対象者の年齢は、介入群で48.8(±13.7)歳とわが国のCKD患者に比べ若く、本研究の結果をわが国のCKD患者に援用できるのかについては慎重になる必要があると考える。本研究から、CKD患者の重症化を予防するためのマネジメント支援としては、プログラム内容だけでなく、アウトカム指標として用いる尺度の適切性について、慎重に検討する必要性があることを感じた。(担当:梶原さん)
2020年12月 文献紹介
人工呼吸器装着重症患者における無鎮静と浅い鎮静
Olsen HT,et al. Nonsedation or light sedation in critically ill, mechanically ventilated patients. NEJM, 2020; 1103-1111. DOI: 10.1056/NEJMoa1906759
【背景】人工呼吸器を装着する重症患者において、鎮静中断は、人工呼吸期間、ICU在室日数の減少が示されている。浅い鎮静と比較して無鎮静が死亡率に与える影響についての情報は限られている。
【方法】多施設共同RCTで無鎮静群と鎮静群(RASS-2~-3)に1:1で割り付けた。主要評価項目は、90日死亡率、副次評価項目は、主要血栓イベント、昏睡/せん妄free days、AKI重症度、ICU-free days、ventilator-free-daysである。群間差は、[無鎮静群値-鎮静群値]で算出した。
【結果】総計710名を無作為割り付けし、700名を修正ITT解析に含めた。ベースラインの患者背景はAPACHEIIを除いて類似した。APACHEIIは、無鎮静群が鎮静群より1点高かった(院内死亡リスクが高いことを示す)。無鎮静群の平均RASSスコアは、-1.3(day1)から-0.8(day7)へ増加し、鎮静群も-2.3(day1)から-1.8(day7)と増加した。90日死亡率は、無鎮静群42.4%、鎮静群が37.0%(差5.4%;95%CI: -2.2-12.2, p=0.65)だった。ICU free-daysおよびventilator free-daysは2群間で差はなかった。無鎮静群の患者は昏睡/せん妄free daysが27日、鎮静群は26日だった。血栓イベントは、無鎮静群が1名(0.3%)、鎮静群が10名(2.8%)(差-2.5%; 95%CI:-4.8~-0.7)
【結論】人工呼吸をしたICU患者において、90日死亡率は無鎮静群、鎮静中断を伴う鎮静群間で有意な差は認めなかった。
◇コメント
2013年のPADガイドラインで人工呼吸中の鎮静管理は浅い鎮静が推奨されて以降、可能な限り浅くする無鎮静管理のメリットも報告されてきた。本研究は、高齢で重症度が高い対象集団において、無鎮静管理が鎮静中断を伴う浅い鎮静管理と比較して既知の人工呼吸期間やICU在室期間に加え、ハードアウトカムである死亡率が低いか否かを検証しようとした示唆に富む貴重な報告であった。結果は、死亡率、人工呼吸期間、ICU在室期間ともに無鎮静群と鎮静群間で差は認められなかった。
本研究はOPEN試験であるが、クラスターRCTではなかった。また、鎮静管理の遵守状況はRASSの平均値が用いられ、無鎮静群の約20-30%に鎮静を要したが、その理由はAgitation(RASS+スコア)が多かった。このことは、無鎮静群と鎮静群の鎮静レベルの差が小さくなることに繋がり、結果に影響を及ぼした可能性があるのではないかと考えられた。また、無鎮静のメリットを得られる集団であったか否か、無鎮静プロトコルの実行可能性については、看護体制を含めて議論の分かれるところかもしれない。今後は、昨今の世界的な関心事であるpost Intensive Care syndrome(PICS)の予防を考えると、無鎮静管理の長期アウトカムは、生命予後に留まらず、身体、認知、精神機能予後への発展が期待される。(担当:岩谷さん)
2020年11月 文献紹介
ファーストラインでIcotinibで治療された非小細胞肺がん患者のQOLとその家族介護者におけるウエルネス教育介入の効果
Yanwei Li, et al. Effect of wellness education on quality of life of patients with Non-Small Cell Lung Cancer treated with first-line Icotinib and on their family caregivers. Integrative Cancer Therapies 18. 2019 doi.org/10.1177/1534735419842373
【背景・目的】非小細胞肺がん(Non-Small Cell Lung Cancer:NSCLC)患者は、うつ病・不安神経症などの心因性症状を高レベルで有しており、家族介護者の多くが苦悩を経験している。EGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者には、Icotinibなどがファーストライン治療として行われる。本研究は、Icotinib治療中(First Line)の進行期NSCLC患者とその家族介護者に対する精神腫瘍学的ウェルネス教育(以下、WE)介入の有効性を評価する。
【方法】2016年12月から2017年12月の間にA病院に通院しているIcotinib治療中の220名のNSCLC患者を対象にランダム化比較試験を行った。対象者は、TKI群(Icotinib治療中のみのコントロール群)とTKI+WE(Icotinib治療に加えてWEプログラムを実施する介入群)に無作為に振り分けられた。介入は、介入チームが主催する3回/週の勉強会に12種類のプログラム(各45分)のうち異なる6種類を選択して学習することである。評価項目として、患者には、FACT-L、HADS、家族介護者にはCQOLC、FESが用いられた。それぞれ、治療前と8週間後に測定された。
【結果】最終的にTKI群71名、TKI+WE群67名が分析の対象となった。家族介護者も患者と同一群に分けられ、TKI介護者群71名、TKI+WE介護者群67名であった。両群で患者のPS(Performance status)、性別、喫煙歴、病期には有意差はなかった。両群ともstageⅣの患者が7割を占め、女性が約7割、約9割がPS2であった。TKI群はHADSの不安スケールが10.4→7.6、うつのスケールが10.5→6.8に改善し、CQOLCの適応スコアが65.7→54.7に改善した。TKI+WE群はFACT-EWB感情的幸福が18.9→12.8、TOIが56.2→44.6に改善、HADSの不安スケールが10.4→6.1、うつのスケールが10.5→5.8に改善、CQOLCの負担スコアが54.6→44.6、混乱スコアが79.7→57.7、適応スコアが63.6→46.4に改善、FESの結束スコア5.6→7.3、対立スコア4.5→3.4と改善した。
【結論】治療中の進行期NSCLC患者とその家族介護者へのWE介入は実行可能であり、患者のQOLと家族介護者との関係を改善できる可能性が示された。
◇コメント
EGFR遺伝子変異はアジア人に多い(40%)特徴をもつ。IcotinibなどのEGFRの低分子阻害薬は、EGFR遺伝子変異陽性NSCLC、脳転移を有するNSCLC患者の治療選択肢とされている。本研究は、患者だけでなく、主要な家族介護者を対象としてRCT研究を行っており興味深い研究である。ただし、介入群、対照群ともに不安やうつは改善しており、二要因分散分析、効果量(エフェクトサイズ)の算出等、介入の有効性を評価するために適切な解析法を選択する必要性があると考えた。著者は、研究の限界として8週間後の評価の適切性についても言及しており、進行期NSCLC患者の介入における効果判定の時期について検討していく必要性を改めて感じた。(担当:平松さん)
2020年10月 文献紹介
CKDセルフマネジメントへの介入:システマティックレビューとメタアナリシス
Self-management interventions for chronic kidney disease: a systematic review and meta-analysis.BMC Nephrology 2019.doi.org/10.1186/s12882-019-1309-y
【背景】透析導入前のCKD患者においてセルフマネジメントはCKD重症化を防ぐ。しかし、セルフマネジメント支援については、高血圧・糖尿病といった他の慢性疾患のように確立された方法がなく、介入の効果に関するエビデンスも十分でない。本研究ではシステマティックレビューとメタアナリシスにより、透析導入前のCKD患者に対するセルフマネジメントへの介入研究を統合し、介入の効果を検証する。
【方法】2人のレビュアーが研究目的に沿って論文の適格性を評価し、文献ごとにCKD患者への介入方法や内容、アウトカムを抽出した(最終検索日2018年5月12日)。選択基準により文献を採用した後、総死亡率、末期腎臓病への移行、GFRの変化、尿中たんぱく量を主要なアウトカム、ヘルスリテラシー(食習慣の改善・運動能力)、血糖、血中脂質、血圧、CRPを副次的なアウトカムとし、リスク比(RR)とその95%信頼区間(CI)、標準平均差(SMD)、平均差(MD)を評価した。Q、I2で異質性の検討を行った。サブグループ解析については、メタ回帰分析が行われた。
【結果】1737文献から19文献を採用した。19文献は、2540名のCKD患者を対象とし、介入における平均のフォローアップ期間は13.44か月であった。通常のケアと比較し、セルフマネジメントへの介入は、総死亡率(5文献,参加者1662名; RR 1.13; 95% CI 0.68 to 1.86; I2=0%)、透析導入のリスク(5文献,参加者1565名; RR 1.35; 95% CI 0.84 to 2.19; I2=0%)、eGFRの変化(8文献, 参加者1315名; SMD -0.01; 95% CI -0.23 to 0.21; I2=64%)に有意な効果を認めなかった。メタ回帰分析では、年齢、CKDステージ、罹患期間による違いは認められなかった。セルフマネジメント介入によって、24時間の尿中たんぱく量の低下(4文献, 参加者905 名; MD -0.12 g/24 h; 95% CI -0.21 to -0.02; I2=3%)、血圧の低下、CRPの低下、6分間歩行距離の延長に関連を認めた。
【結論】透析導入前のCKD患者において、13.44か月の期間の介入が通常ケアに比べて、尿たんぱく量の低下、血圧の低下、運動能力、CRPのレベルに有益であることを報告した。しかし、その他の腎臓に主要なアウトカムや総死亡率において介入による効果を認めなかった。
◇コメント
本研究では、これまで取り組まれてきた介入研究の結果をレビュー、統合し、その効果について評価を行っている。介入を(a)食事・運動などのライフスタイルに対する介入、(b) CKD医学的要因(薬物,血圧など)への管理行動を高める介入、(c) 多因子(ライフスタイルと医学的要因を統合した)への介入に分類して、検討がなされていた。介入のフレームワークも整理され、6つの文献で多因子への介入が行われていることが示されていた。介入の効果については、尿たんぱく量、血圧といったCKD重症化要因に対して効果があることが報告されたが、対象文献が少ないことを考えると、更なる検討が必要と考えられた。一方で、これまで透析導入前のCKD患者を対象とし、セルフマネジメント介入の特徴、効果について評価したレビュー報告はない。本研究は、透析導入前のCKD患者に対するセルフマネジメントへの介入方法が確立されていないといった課題や、介入の効果をどのようなアウトカムで評価することが適切であるかについて示唆を与え、今後の介入研究に対して方向性を示すうえで重要な報告であったと考える。(担当:梶原さん)
2020年9月 文献紹介
人工呼吸開始後最初の48時間の鎮静強度と180日死亡の関連;多国籍前向きコホート研究
Shehabi, Y et al. Sedation intensity in the first 48 hours of mechanical ventilation and 180-day mortality: a multinational prospective longitudinal cohort study. Crit Care Med 2018; 46: 850-859.
【目的】浅い鎮静、深い鎮静の一般的な定義がないため、好ましいアウトカムをもたらす鎮静レベルは不明である。人工呼吸開始48時間の鎮静強度と180日生存、抜管までの時間、せん妄の関係性を定量化した。
【方法】2010~2013にオーストラリア、ニュージーランド、マレーシア、シンガポールの42のICUで行われた多国籍前向きコホート研究データの二次利用(SPICE studyの一部)である。研究参加者は、24時間以上人工呼吸を行う見込みの重症患者である。主要評価項目は、180日生存で、Cox比例ハザードモデルを用いた。さらに、サブグループ解析と感度分析を行った。Richmond Agitation sedation Scale(RASS)と疼痛は4時間毎に評価した。せん妄と離床は、CAM-ICUと標準的な離床アセスメントツールを用いて評価した。鎮静強度は、RASSのマイナススコアの総和を評価総回数で徐して算出したSedation Indexを用いて判断した。
【結果】42のICUの703名のAPACHE IIは22.2(SD 8.5)で、180日死亡率は32.3%だった。人工呼吸期間は4.54日(IQR 2.47-8.43)、せん妄は273名(38.8%)に発症した。鎮静強度は、量依存的に、独立して死亡リスクを予測し(HR 1.29 95%CI 1.15-1.46 p<0.001)、早期抜管の機会を減少させ(HR0.80 95%CI 0.73-0.87 p<0.001)、せん妄発症リスクを増加させた(HR 1.25 95%CI 1.10-1.43 p=0.001)。
【結論】鎮静強度は、独立して量反応的に死亡リスク、せん妄発症リスクの増加、抜管までの時間の延長を予測した。これらの結果から鎮静レベルは、RASS= 0を維持することが臨床的に望ましい管理目標であることが示唆された。
◇コメント
本研究は、鎮静深度(浅い、中等度、深い)の定義が不明確であること、鎮静強度の取り扱いにおける方法論的課題を指摘した上で、鎮静強度と死亡のような患者中心の長期アウトカムの関連を明らかにすることを目的としていた。
十分なサンプル数、脱落が少ないこと、測定精度を保つ工夫、考えられるバイアス・交絡に対する解析方法がとられ、深鎮静と死亡リスク、せん妄リスク、抜管遅延リスクについては、感度分析を含めて結果は一貫しており、RCTではないが、信頼に足るものであると考えた。一方で、Sedation Indexは、よく吟味され、容量反応関係も示されているが、データに依存する三分位で示されている点、ミダゾラム主体の鎮静である点、その後の類似研究がなく信頼性、妥当性、臨床適用についてはさらなる検討の余地があるものと考えた。また、著者らは本研究結果からRASS=0が望ましい鎮静管理目標と結論付けているが、昨今のPost Intensive Care Syndrome(PICS)の重大性から、長期的な患者中心のアウトカムは、生存/死亡以外に、機能状態(身体、精神、認知)の検討も必要であろう。
しかしながら、本研究は、PADISガイドラインで指摘されている、浅い、中等度、深い鎮静の定義が確立されてい
ない指摘と、鎮静管理と長期的な患者中心のアウトカムへの影響はまだ十分でない課題に対し、影響を及ぼす重要な研究だといえよう。 (担当:岩谷さん)
2020年7月 文献紹介
進行期胸部癌における治療に関する患者の判断を決定する化学療法中の有害事象の頻度と生活の質
Mol M, et al. Frequency of low-grade adverse events and quality of life during chemotherapy determine patients judgement about treatment in advanced-stage thoracic cancer, Supportive Care in Cancer 2019;27:3563-3572.
【背景・目的】化学療法は、有害事象によって患者のQOLを悪化させるといわれているが、その悪影響に対する患者の評価はよく理解されていない。本研究では、CTSQ の下位因子(「治療への期待」「副作用の感覚」「治療満足度」)のうち、最もQOLに影響する因子を明らかにすることを目的とした。
【方法】2012年10月~2014年11月の期間に、ニュージーランドの4つの医療機関で前向き観察多施設コホート研究を行った。対象者にはファーストラインで化学療法を予定している胸部癌の患者177人がエントリーされ、分析には化学療法4クールを完遂し、CTSQおよびQOL2種類の計3種類のアンケートに回答できた69人のデータを用いた。CTSQについては4クール後の1回のみ、QOLについてはWHOQOL-BREF、EORTC QLQ-C30の2種類のアンケートを化学療法前、2クール後、4クール後の計3回実施した。QOL とCTSQの3下位因子との関連性については重回帰分析を行い、有害事象を含む背景因子との関連には単回帰分析を用いた。
【結果】分析対象者の69人は、StageⅢB~Ⅳの腺がん(adenocarcinoma)63名と大細胞がん(large cell)・悪性中皮腫等の6名で、PS0~1が95.7%であった。重回帰分析の結果、「副作用の感覚」は、WHOQOL-BREFの社会的関係を除くQOLのすべての領域に関連していた(WHOQOL-BREF;β=0.364~0.578、EORTC QLQ-C30;β=0.329~0.607)。単回帰分析の結果では、Grade1~2の有害事象は「副作用の感覚」にβ=-0.326の関連をしていた。
【結論】副作用について否定的な感覚を持っている患者がQOL(健康関連QOL)が悪かった。有害事象を低減するためのさらなるケアの提供が必要である。
◇コメント
有害事象Grade3~4を経験した患者が少なく、有害事象を経験した患者が本調査から脱落した可能性もある。QOLについては、3時点で縦断調査がされているにもかかわらず、4クール終了後のデータのみが示されていた。QOLの推移が示されることで、さらに有益な情報が得られるものと考える。69名というサンプルサイズの関係からか、重回帰分析で有害事象等の背景因子を含めたうえで、QOLに関連する要因を検討できていないことが残念である。また、EORTC QLQ-C30の分布には偏りがあり、C-30を用いた結果については慎重に解釈した方がよいだろう。しかしながら、「副作用の感覚」といった患者の認知評価がQOLに関連していることを本研究は示唆しており、進行非小細胞肺がん患者の認知に着目する必要性を改めて感じた。(担当:平松さん)
2020年6月 文献紹介
CKD患者のセルフケア行動の実行における疾患特異的な知識とヘルスリテラシーとの関係
Schrauben JS,et al.The Relationship of Disease-Specific Knowledge and Health Literacy With the Uptake of Self-Care Behaviors in CKD:Kidney International Reports 2020;5:48–57.
【背景・目的】CKD進行抑制には患者のセルフケア行動が寄与することがわかっている。しかし、CKDに対するセルフケア行動を理解し、実践することは難しい。本研究では、ヘルスリテラシー、疾患特異的な知識とセルフケア行動の関係性について検討を行うことを目的とした。
【方法】腎専門医のクリニックに通院する非透析患者(CKDステージG1~G5)を対象とした。セルフケア行動に関する知識を必要としない特殊な病態の患者、病状が非常に悪い患者、認知機能に問題のある患者は除外された。来院時に調査票へ回答してもらい、年齢、性別等の背景因子、Rapid Estimate of Adult Literacy in Medicine(REALM)Health Literacy Test(ヘルスリテラシー)、Perceived Kidney Disease Knowledge Survey:PiKS(患者がCKDの知識を持っていると認識する程度)、Kidney Disease Knowledge Survey:KiKS(CKDに関する疾患特異的な知識)、改訂版Summary of Diabetes Self-Care Activities measure:改訂版SDSCA (CKD患者セルフケア行動への取り組みの程度)に関する情報が収集された。
【結果】分析対象者は401名で、年齢は56.7±15.8歳、男性が53.1%、GFR=46.2(±25.5)、“ヘルスリテラシーが低い”に該当する者は17.7%であった。重回帰分析を行い、PiKS 得点とセルフケア行動得点の間には正の関連性が示された(β=1.05, 95% [CI] 0.50–1.63)。 ヘルスリテラシー得点とセルフケア行動得点には関連性を認めなかった。
【結論】CKDに関する疾患特異的な知識を有することは、セルフケア行動に影響するかわからない。一方で、患者がCKDの知識を持っていると認識する程度はセルフケア行動に関連しており、今後の教育介入への有用性が示唆された。
◇コメント
CKD進行抑制のためのセルフケア行動については、介入研究が行われている一方で、観察研究でセルフケア行動に影響を及ぼす要因の検討が行われている。本研究は、セルフケア行動に影響する要因として、ヘルスリテラシー、CKDに関する疾患特異的な知識、患者がCKDの知識を持っていると認識する程度があるとの仮説のもと調査が行われた。結果として、PiKS得点には関連性が示されたが、KiKS得点、ヘルスリテラシー得点には関連性を認めなかった。本研究の結果は、疾患特異的な知識がセルフケア行動に関連しない可能性を示している。ヘルスリテラシーは、昨今注目されている概念のひとつである。本研究においては、ヘルスリテラシーを“健康知識を理解し、獲得すること。必要なサービスを決定すること”と述べられている。本研究で定義するヘルスリテラシーをより適切に測定する尺度を用いて検討した場合には、異なった結果が得られるかもしれない。
患者の認識に着目し、セルフケア行動との関連性を検討することは、CKD患者の病識が多様であること、CKD患者はセルフケア行動を継続することが難しい現状を鑑みると、新たな知見をもたらすために重要な視点であると考えられた。(担当:梶原さん)
2020年5月 文献紹介
心理的問題を予測するICU退室時の測定ツールの開発:多国籍共同研究
Milton A, et al. Development of an ICU discharge instrument predicting psychological morbidity: a multinational study. Intensive Care Med 2018;44:2038-47.
【目的】ICUサバイバーの心理的な問題を予測するためのICU退室時に用いるツールを開発すること
【方法】スウェーデン、デンマーク、オランダの10のgeneral ICUで前向きコホート研究を行った。ICUに12時間以上滞在した成人患者を対象とした。神経集中治療が必要な患者、認知障害の記録がある患者、その国の言語でコミュニケーションができない患者、住所不定、1つ以上の治療制限がある患者は除外した。主要評価項目はICU退室3ヵ月後の心理的問題で、Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS)のサブスケール≧11またはPost traumatic Stress Symptoms Checklist 14(PTSS-14)part B45と定義した。
【結果】計572名が研究対象に含められ、follow-up時に生存している患者の78%が質問紙に回答した。20%がICU退室後に“心理的問題あり”として分類された。多変量ロジスティック回帰分析による最終予測モデルに18の潜在的危険因子のうち4因子が含まれたー抑うつ症状(OR 1.29, 95% CI 1.10–1.50)、トラウマティックな記憶(OR 1.44, 95% CI 1.13–1.82)、ソーシャルサポートの欠如(OR 3.28, 95% CI 1.47–7.32)、年齢(age dependent OR, 最大リスク49–65 歳)。AUCは0.76(95% CI 0.70–0.81)だった。
【結論】ICU退室3ヵ月後の心理的問題のリスクを予測するツールを開発した。このツールは、ICU follow-upを行う患者のトリアージに用いることが可能である。
◇コメント
ICUサバイバーのPost Intensive Care syndrome(PICS)に対する関心は世界的に高まっている。西欧を中心にICU follow upは広められてきたが、その効果についての結果は一定でない。
本研究は冒頭で、follow upする患者の選定が、大部分が専門家の意見ベースで行われていることの課題と標
準的かつシンプルな方法がないことを指摘している。そして、ガイドライン等でPICSリスクを早期に特定するスクリーニングツールの必要性が提唱されていることから、ICU退室時にスクリーニングするより正確なリスク予測ツールの開発を行った報告である。
多国籍共同前向きコホート研究による予測モデルの開発は、TRIPOD statementにそって報告されている。当初の計画より小さいサンプルサイズではあるが、モデルの過大評価は明らかではなく、実行可能な質問項目で、ICU退室3ヵ月後の心理的問題の予測精度も悪くない。また、オンラインでリスクが算出される。このツールは、ICU follow up体制が整備されている欧米諸国においては、必要な対象に必要なケアを届けるために有用かつ画期的な報告といえよう。今後もモデルの検証が期待される。(担当:岩谷さん)